ボクのお買い物
『食堂』……ここでは普段の食事の他にゾンビハンターが必要な消耗品を扱っている。ありていに言えば、ショップだ。
ハンターランクに応じた武器防具類と、マガジンや爆弾などの消耗品。そして――
「おっちゃーん! 『抗ゾンビジュース イチゴミルク味』ちょうだーい!」
購買部のおっちゃん……緒方・満。スキンヘッドでごっつい身体をしているが、洋子と同じ橘花学園の学生だ。渋めな格好をしたショップNPCで、チュートリアル的にアイテムの特徴などを語ってくれる。
「お前のランクなら『抗ゾンビパン チョココロネ』まで買えるが、ジュースでいいのか? こちらの方がより感染率が下がるのだが」
「いいのいいの。ボク、このジュースの味が大好きなんだ」
ゾンビ感染率を下げる『抗ゾンビ薬』。これが含まれるジュース。洋子はそれを一気に購入する。ピンク色の紙パックジュースが、束になって積まれた。
「俺としてはあまり売れない商品がさばけるのはいいことなのだが、大丈夫なのか? 言いたくないが、感染率を下げる商品としては劣化品だぞ」
ゾンビパンデミックと同時に、各学園には『抗ゾンビ薬』のレシピが伝わったという。ゾンビウィルスが体内に侵攻する速度を押さえ、自然浄化力をあげてウィルスを駆除するものらしい。
直接注射器で体内に打ち込めば感染率はかなり下がるけど、その為には武器を置いて注射器を装備し、防具を一部めくって時間をかけて注射する必要がある。時間はかかるけど、かなりの感染率を下げることが出来る。
対してジュースなどの食べ物飲み物に混ぜる系統は、マスク装備さえ外せば飲み食い可能だ。洋子に至ってはワンアクションでジュースが飲める。速度は速いが、その分ゾンビ薬は薄くなっているので効果も薄い。
「へーきへーき! ボクはゾンビなんかに捕まらないからね!」
「だといいが……用事はそれだけか?」
「まだまだ! 『加工品』ゲットしたから、装備のパワーアップをお願い!」
「『黒染めの布』か。着ている服の加工が可能だな」
今回の狩りで唯一手に入った加工品『黒染めの布』……曰く、ゾンビウィルスが染みついた布であるという。正直こわいけど、布系アイテムのパワーアップが可能なのだ。
うーん。ゾンビに殺されそうになる世界で、ゾンビの力でパワーアップ。矛盾しているようだけど、そこはゲーム設定。深く気にしたら負けだよねっ!
「耐刃性、抗ウィルス、攻撃速度上昇の三つが上げられるがどれが――」
「速度速度速度っ!」
「……いいのか?」
NPCとしては『それでよろしいですか?』という確認の意味だが、おっちゃんの言葉には『速度はやめた方がいい』というニュアンスが含まれていた。うーん、声色で伝わるものなんだなぁ。
『AoD』はぶっちゃけると、どれだけゾンビにならないかが重要だ。防具もそれに然りで基本的にダメージ防止か抗ウィルスに特化したモノがいいとされる。大抵のキャラはガチガチにその二つを固めていた。僕の2ndもそんな感じだ。
攻撃速度なんか距離を離せば幾らでもリカバリーできる。攻撃速度が必要になるのは、距離を詰めて戦う近接系のみだ。そして攻撃速度自体は回避には何の影響もないため、死にパラメーターである。
「モッチロン! ボクは最速を目指すのさ!
重量系武器のバス停を高速で扱い、ブレードマフラーで切り裂く! うーん、最高だね!」
バス停と、ブレードマフラー。これこそが洋子の拘りっ!
そんな気持ちを込めてポーズを決めるが、おっちゃんは小さくため息をついた。なんで?
「分かった。加工するからしばらく待ってくれ」
「ほいほい」
『AoD』だとその場で処理されるけど、流石にそうはいかないか。この辺は不便だなぁ、と思う。
「20分ぐらいかかるから、その間は適当に過ごしてくれ。
それじゃあ、服を渡してくれ」
…………え?
「どうした? 制服を渡してくれないと加工が出来ないじゃないか。脱衣室はあそこだ。その間はジャージでも着ていてくれ」
「ア、ウン。ソウダヨネ」
当たり前だ。服を着たまま加工することが出来るはずがない。
だから服を脱がないといけない。当たり前だ。
うんうん。だから制服を脱がなくちゃ。着替え用のジャージをもって、脱衣室に入る。大きな鏡に洋子の姿が映っていた。
(服を……脱ぐ。うん、脱がないとね)
恥ずかしがることなんてない。これは洋子のカラダ。自分のカラダ。だから恥ずかしがる理由なんて何一つない。そう心で呟いて、上着を脱いだ。そしてスカートのホックを外し、籠に置いて外に出す。
「受け取ったぜ。んじゃ、しばらく待ってくれ」
ぶっきらぼうなおっちゃんの言葉も耳に入らず、鏡に映る洋子の姿を僕はじっと見ていた。
(裸姿をじっと見るのは、始めて……)
洋子に転生していろいろあったし、興味本位でイロイロ触ったりはしたけど、こうして全身をじっくり見るのは初めてだった。
肩から流れるような細い腕。白い下着に包まれた胸。すべしべしたお腹。弾力ありそうな太もも。それが鏡に映っていた。
(ヤバイ! ボクカワイイ!)
言語消失してしまったけど、勘弁してほしい。僕は元は男で洋子はオンナノコ。男が見てはならない禁忌を一気に駆け抜けた背徳感と開放感。そしてその先にあるエロス。生物学的に男なんだから、女の裸体に何も感じないはずがない。だからこの興奮は当然のことで――
(あれ? でも洋子は女の子だから、オンナの身体に興奮するのはなくない? オカシクナイ?)
そうだ。これは洋子の体。だから興奮するとかおかしい話……なんだけど、そんな理屈は鏡を見た瞬間に消え去る。ヤッバイ! コレホントヤバイ!
(うわー。ボクの手、小さーい! 体も細ーい!)
キャラエディタ時は趣味全開で作ったので、僕の理想のキャラになっているのは当然と言えば当然なわけで。
(身長は確か160センチ。スリーサイズが上から『B86・W58・H86』……確かどこかの漫画から引っ張ってきたんだったっけ?)
その時はあまり考えてなかったけど、実際に自分がその体形になって色々思うことが増えてきた。前の僕にとっては記号だったキャラのパラメータ。その意味を言葉通り、体で理解する。
(ぷにぷにしてる……)
改めて鏡の中の洋子を見る僕。当たり前だけど若いオンナノコの体。見るからに肌も柔らかくそれでいて弾力ある。僅かな布に包まれた体。それは生命の奇跡。ゲームのキャラなんだけど、確かに生きている。息をして、モノを食べ、戦って――
(触ったら、柔らかくて暖かかったよね)
そして、体に触ればこうやって弾力と反応が返ってくる。
(あ……。これ以上は……)
僕は触っていくうちに体が上気するのを感じていた。かつて自分の部屋で行った行為を思い出し、首を振って辞めようとする。だけど何かのスイッチが入ってしまったかのように指はゆっくりと下着の上を――
「おい、終わったぞ。ってどこにいるんだ?」
「にぎゃあああああああ!?」
おっちゃんの声に我に変える僕。おおお、もう20分経ったのか。……つまり、僕は20分近く自分のカラダを見て色々モンモンしていたのかぁ。いや、だって、ほら。その、わかって! だって洋子カワイイし!
おおおおおおおおちつけ僕。とにかく今は落ち着かなくちゃ。深呼吸して、心臓を押さえながら口を開く。
「ふ、服は籠に置いといて!」
「まだ脱衣室に居るのか? ジャージの丈、合わなかったのか?」
「そんなところ! と、とにかくすぐに着替えるから!」
「すまんな。ここに置いておくぞ」
そんな言葉と共に何か軽いものが置かれる音。そして少しして扉が閉まる音が耳に入る。おっちゃんが外に出たのだろう。
カーテンから顔を出して誰もいないことを確認し、洋子は急ぎ服を着がえた。
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