ボクは告白する。そして――
「部屋の掃除してるって言ってたよね、確か」
言いながらクランハウスの中を歩く洋子。福子ちゃんの部屋の扉が半開きになっており、そこから何かの音が聞こえる。
「福子ちゃん、入るよー」
念のために扉をノックし、中にいる福子ちゃんの反応を待つ。どうぞ、という返事が聞こえた後でドアを開けて中に入った。自分の椅子に座り、嬉しそうな顔でスマホで何かを見てる福子ちゃん。
「掃除は終わったんだ」
「はい。お昼まではゆっくり過ごそうかと」
クランハウス……というか私生活では福子ちゃんの格好はラフなものになる。淡い青色のトップスと、同色のスカート。服の数は年中制服の洋子とは大違いで、タンスの中は普段着と狩りの時に来ていくドレスと、外行き用の服がびっしり入っているという。
『ヨーコ先輩は服に無頓着すぎます。今度買いに行きましょう』
この手の話題に触れるとその流れになるので、今は避けておく。これはけして服を買う事に横着と言うわけではなく、色々な服を着ているとボクカワイイが押さえきれなくなってモンモンしてきて――いや、うん。やっぱり横着って事にしよう。
そう。今はそこに触れている場合ではない。昨晩の返事をしなくてはいけない。洋子の――僕のことを好きだと言ってくれる子に対して、その返事をしなくては。
……けしてヘタレてなんかないやい。ただAYAMEの話が衝撃的過ぎて、おざなりになっていただけで。ミッチーさんとか音子ちゃんは色々勘違いしているけど、ボクが福子ちゃんに抱く感情はハンターとしての敬意で、頑張る福子ちゃんを応援したいというだけにすぎないんだから!
心の中で気合を入れる。その一言を告げれば終わり。そんなイージーミッションだ。サクッと告げて、サクッと終わらそう。そうとも、余計な時間をかけるなんて――
「どうしたんですか、先輩。少し顔が赤いですよ。風邪ですか?」
洋子のことを見る福子ちゃんの前に、その気合は崩れ去った。ミッチーさんとか音子ちゃんにさんざん言われた言葉がリフレインする。
違うんだ聞いて。その、ほら、いきなり昨日ぶった切った話題を振るとかいろいろ不自然だし、それとなく会話を続けてからでも問題ないよね!
へたれ、というミッチーさんの声が聞こえた気がする。それを強引に無視して会話を振る。
「いや、大丈夫。それより何見てたの?」
「はい。先輩の動画です」
「ボクの?」
福子ちゃんが見せる画面には、三七川橋での洋子の戦いが映っていた。ファンたんが撮ってくれたアレだ。
「って、あの時すぐ近くにいたじゃん。福子ちゃん」
「それはそれです。あの時は戦いの中でいろいろ落ち着かない状態でしたけど、こうして落ち着いた時に見るのもいいモノですよ」
「そんなモノなの?」
「そんなモノです」
確かに良く撮れてるよなぁ、とは思う。見ればお気に入り登録までしていて、結構再生しているんだろうことがうかがえた。
シークバーをいじって、映像を飛ばしたり戻したりしている。好きな場面を何度も見ているようだ。どんな場面かというと――洋子が戦っているシーンばかりだ。
「好きな人が活躍しているのは、何度見てもいいモノです」
そう言ってほほ笑む笑顔。嬉しそうに動く指。細い肩、嬉しそうに動く足。本当に洋子が好きなんだな、ってことを体全体で表現している。
あ、っと思ったときには、
「ボクも、好きだよ」
ぎゅっと、福子ちゃんを抱きしめていた。
心から福子ちゃんをそうしたいと思うように、体は動いていた。
「…………ヨーコ先輩が自分自身を好きなことは、ずっと知ってますけど」
「う……! そ、そうだよね! いつも言ってるもんね! あは、あはははは!」
「私はヨーコ先輩のことが好きですよ。何度だって言えます。
……ヨーコ先輩は、言ってくれないんですか?」
からかうような、それでいて何かを期待するような福子ちゃんの声。
激しくなる心臓を押さえるように福子ちゃんを抱きしめる腕に力を込めて、はっきりと口にした。
「好きだよ、福子ちゃん。キミを愛している」
この湧き上がる感情を誤魔化せるはずがない。この突き進む情熱を誤魔化せるはずがない。
好きだ。愛している。いつからかなんて思い出せない。
ずっと、福子ちゃんのことを想っていた。
「遅いです。私が気持ちを伝えてから、すぐに答えてほしかったです」
「はい。色々ごめんなさい」
「大方、ロートンさんと早乙女さんにせっつかれて来たんでしょう? 言われなかったらどこまで誤魔化すつもりだったんですか?」
「面目次第もございません」
「そんなロマンも状況もわきまえない告白を、簡単に信じられるとと思うんですか?」
福子ちゃんは椅子に座ったまま僕の顔を見上げる。
「信じさせてください、ヨーコ先輩」
瞳を閉じる福子ちゃん。
僕はゆっくりと顔を近づけ、自分の唇で福子ちゃんの唇を塞いだ。
……わ。柔らかくて、温かい……。
重なり合う互いの唇。それは互いの体温を感じさ、互いの呼吸を感じさせる。高鳴る心臓が酸素を求め、さらに呼吸を求める。それでも唇は重なったまま力を強めていく。
たっぷり二秒。
唇を離し、福子ちゃんの顔を見る。
「これで信じてもらえたかな?」
「……ギリギリ及第点です」
言って椅子から立ち上がり、洋子の体に身を寄せる福子ちゃん。寄りかかる体重に力を抜く僕。
「全く酷いです。ゾンビ相手にはあれだけガツガツ突き進んでいくのに、私の告白には後手後手の対応。正直、少し不安だったんですよ? このままなし崩しに流されるんじゃないかって」
「あう……、はい」
いろいろ申し訳なくて、目を逸らす洋子。
うん。改めて思うに酷すぎる。告白されて応えずにいて、周りに背中押されてようやく踏み出して、挙句に誤魔化そうとするなんて。
「さっきのキスもどこか私に遠慮してたのか、少しぎこちなかったですし。もう少し力を込めてほしかったです」
「え、あ、そういうものな――――む、むぅ!?」
申し訳なくて気がそれていたこともあって、言葉を止めた原因が分からなかった。柔らかくて、温かいものが唇を塞いだと気付いたのは一瞬の後。
立ち上がった福子ちゃんに肩を掴まれ、そのまま力強く唇を重ねられた。僕の遠慮がちな行為とは違う。さっきが気持ちを確かめる為のキスなら、今度は互いを求めるような口づけ。精神的に、肉体的に相手を求める行為。
あ、ナニコレ……ヤバい……!
呼吸が出来ない事も含めて、体の力が抜けていく。求めるように続けられる行為。その一つ一つに福子ちゃんの情熱がこもっていて、それが心を溶かしていく。
好き。愛してる。貴方が欲しい。好かれたい。愛されたい。貴方に欲されたい。その気持ちを込めて交差は続けられる。
心と体が、福子ちゃんに溶かされそうだよぅ……!
気が付くと、僕も気持ちを返すように唇を重ねていた。福子ちゃんの動きに合わせるように行為を続け、自分の気持ちをぶつけていた。
「ぷ、はぁ……」
気が付くと唇は離れ……洋子は福子ちゃんのベットに腰を下ろしていた。あまりの想いと体を包み込む甘い痺れに、体が熱病を発したかのように朦朧とする。
「先輩、すごい。そんな顔されたら、私我慢できません」
顔を上気させ、瞳を潤ませる福子ちゃん。緩んだ唇と呆けた顔。きっと洋子も同じような表情を浮かべていたのだろう。あるいは福子ちゃん以上に愛欲に溺れた顔を。
気が付けば視界が福子ちゃんの顔で支配されていた。押し倒されるように体がベッドに沈む。唇が塞がれると同時に、全身を福子ちゃんに包まれるような感覚が――
待って! これって!? わーわーわー!?
押し倒され、覆い被さられ、求められて――
互いの胸が押し当てられて、足が絡みつく。両手に指を絡ませて、強く握り合う。触れ合った部分の全てが熱くなっていき、互いの存在を強く意識する。自分の意志とは無関係に体を絡め合う。
混乱する思考と体内を駆け巡る欲望。それが溶鉱炉のようにドロドロで熱く滾っていて。自分ではどうしようもないこの状態は、
「好きです。先輩」
福子ちゃんの一言で収まって、そしてトドメをさされた。
これから起こる事。これからされること。これからすること。それを理解して、力を抜いた。恋に落ちたのだと、心と体が理解する。いいや、
僕は彼女に――ずっと前から、落ちてたんだ。
そして僕らは、深く交じり合った――
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