表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

遥のお誕生日がまたやってきた

遥の誕生日がまたやってきた。

お誕生日パーティの出席者は去年とほとんど変わらなかった。


パーティと言ったところで特別なことは何もない。

それぞれが自分の好きなものを買って持ち寄るだけだ。

柿の種、チョコボール、サンドウィッチ、お稲荷さん、海苔巻き、大福、サラダ、等々など。

それらを大きめの紙皿にもってテーブルに並べた。

ナフキンと割りばしもそろえた。

そこへ郁美が持ってきてくれたスイートピーを飾ると、俄然お誕生日祝いらしい雰囲気になる。


約束の時間きっかりに、浩司が現れた。

浩司はプレゼント用に包装された包みを遥に差し出し。


「はい。お約束のドンペリのロゼ」


それから郁美を見つけると


「郁美くん、早速冷やしてくれる?」と言った。


遥をはじめとして、浩司を出迎えた一同はその瞬間、声を失っていた。


ブランドものらしいダークなスーツは長身の浩司に良く似合っていた。

髪の毛は短くカットされ、自然な感じにきれいに整えられていた。


急に浩司の周りが騒がしくなった。


「浩司君、本当に浩司君?」


「どうして、そんなに変わったの?」


「今、何しているの? お仕事」


みんなが一斉に浩司に向かって質問を始めた。

浩司は名刺入れから名刺を取り出すとみんなに配り、

「SY証券の脇坂浩二と申します。よろしくお願い致します」と、少しおどけて挨拶した。


「いやだ、そんなに気取らないでよ」


「浩司君、本当にSY証券に勤めているの?」


「出版社じゃなかったの?」


「どんなお仕事しているの?」


「よくSY証券へ入れたわね。難しかったんでしょう?」


浩司に対する一斉質問攻撃はなかなか収まりそうもない。

浩司は笑いながら、その質問に答えていた


SY証券の入社試験を受けたのは去年の三月になってからだという。


「僕だって出版社に勤めるということは長年の夢だったから、就職が決まった時は嬉しかったし、絶対にそちらへ進むのだと思ってた。

だけどSY証券社員募集の内容を見たら、お給料が全然違うわけ。

出版社の倍ぐらい。

それを知ったら、お給料が多いのも良いかも知れないっていう気持が次第に大きくなってね。

もちろんSY証券の方は新卒採用ではないから受かる自信はなかったんだけれど、

とにかくやってみようと思ったんだ」


「どんな人が受けに来てたの?」


「いろいろ。 

でも転職という人が多かったみたい。 

それから、外資系だから帰国子女とか留学経験がある人たちが殆どだったんじゃないかな。 

みんなとても流暢に英語を話していたようだよ。」


「浩司君て、英語話すのうまかったの?」


「ううん。それほどうまくはなかったと思うよ。」


「それなのに受かったの?」


「そう、外資系の会社だから外国人が英語でインタビューしたんだけれど、

僕のジャパニーズイングリッシュみたいな英語でも分かってくれたらしくて。

でもなんといってもポイントは僕が日本人らしい日本人だったことらしいよ。

日本で営業するわけだから、変にアメリカンナイズされた人より 「This is the Nippon-jin」というのが受けたらしいんだ。」


そう語る浩司は自信に満ちていた。

今は未だアシスタントだけれど、やがては一本立ちしてトレーダーになるのだと言っていた。


「そうなったら、一人で何億、何十億っていうお金を動かせるんだ。 

ドンペリなんて目じゃない、目じゃない。 

ロマネ・コンティだって、なんだって持ってきますって。」


「参ったなぁ。まさか浩司がこんなに変身するなんて、思わなかったもの」 郁美の声がした。


浩司を囲んだ賑やかな人の輪はますます盛り上がってゆくようだ。


遥はそっと席を立つとベランダへ出た。

鋭角なビルのシルエットの向こうに少しだけ見える夜空に冬の星座が瞬いていた。


(ヴーヴクリコが良かったのに。ヴーヴクリコが好きだったのに・・・)


そんな遥の密やかな呟きは静かに二月の冷たい星空へ消えていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ