東京へ戻って
ThyとかThouとか聞きなれない古語に悩まされながらも、
シェークスピアのおもしろさに遥は引き込まれ始めていた。
もちろん、現代文学も面白い。
サマセット・モームもヘミングウェイにも魅了されていた。
漱石の作品を翻訳する講座は受講前にテストがあり、
そのテストに合格した学生だけが受講できる少人数制の講座だった。
幸い受講テストに受かり、ルンルン気分で講義に出席した遥だったが、
いざスタートしてみると講義の都度、あらかじめ指定された部分を翻訳して提出しなければならなかった。
教授は、学生が予習で提出した翻訳の添削をして下さり、その上での模範翻訳の講義となった。
学生からすれば、これ程恵まれ、ためになることはないと思われるのだが、予習の翻訳は困難を極め、膨大な時間をとられることにもなった。
大変な講座を受講してしまったと少々後悔もしたりした。
しかし、なんとか食いついていきたい。
遥は頑張っていた。
それにしても、このような講座ばかりとっていて果たしてうまく就職できるのだろうか?
時としてそんな不安にも襲われた。
編集者になることが天職だと言っていた浩司はどうしているのだろうか?
もう、だいぶ編集者としての仕事にも慣れたのだろうか?
具体的にはどんな仕事をしているのか、ぜひ、聞いてみたい気がした。