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呪いの赤いダイヤモンド9

「大公のクログラントの一族です」

「なるほど、クログラント一族ですか——」 僕はさもあらんと納得したふりをする。

「私の王女をだまして、夢を見させて、幸せを与えるふりをして、そしてむごたらしく殺したのです」 ——ふたたび出た。『私の王女』と言うフレーズ。サラには王女に対する強い執着がありそうだ。

 そして、王女の死因は世間で言われているような第三者による誘拐ではなく、どうやらクログラントの一族に殺されたと言うことが分かってきた。幸せを与えるふりをしたのだ——クログラントは。


「酷いことをしますね」——僕は続ける。


「クログラントは、もしかしてダイヤを——」——ダイヤを中心とした王女のストーリーにクログラント一族がからむ——。それだけしか僕にはハッキリ分からなかったので、ここで言葉を切る。

「そうです。このダイヤモンドはクログラントからの婚約の貢物だったのです」

「やはりそうでしたか。そして王女は殺されたと……」

「私は偶然クログラントの企みを知ってしまったのです。王女が結婚直後に誘拐に見せかけて殺されることを。私は必死にそれをお伝えしたのですが、投獄されました」

「あなた自身もかわいそうじゃありませんか? 酷い話だ。それでも王女のためだけに復讐をしているのですか?」サラの復讐に私怨は絡まないのか? そこは陽世子を救うためには重大なポイントだと僕は感じた。

「私などはどうでもいいの。王女の為にクログラント一族は根絶やしにしなければならない」

 幽霊によく見られる一点に掛かる強い執着であった。


「私は牢の中でイングリット王女の死を知らされました。私は悲しみのどん底まで落ちました。私に手を差し伸べてくれたのは同じ牢にいた一人のお婆さんでした」

「お婆さん?」別のキャラが登場か——。

「そのお婆さんは私に復讐を勧めてくれました」——んー、それって——。僕はサラの言葉にウズウズを感じた。

 サラは虚空を見つめる目で言葉を続ける。

「お婆さんがその方法を教えてくれたのです」なんか—— サラの言うそれは僕がよく知っている『何か』の気がした。

「その方法とは?」僕は喉元まで出てきている『何か』がひどく気になった。


「悪魔の呼び出し方です」


「私は魂を悪魔に売りました。そして直ぐに仕事を初めてもらいたかったので、自分で命を絶ったのです」


 ビンゴ!


 やっと核心きもにたどり着いた。僕は緊張と興奮が入り混じった強い衝動を感じた。

 やはり悪魔の仕業だったのだ。今まで起きた『不幸な偶然』は、なるほどすべて悪魔が憑依した人間の行いだったことに合点が行く。

 確かにダイヤには人の霊が憑いていたが、それは王女の霊ではなく、その侍女サラの霊だった。

 そしてサラのような『人間の幽霊』ごときに、あんな強烈な仕事ができるわけがないのだ。悪魔の力をそんな安物と比べてもらっては悪魔の立つ瀬がない。


「そうですか、悪魔と契約をしたのですね。契約書はお持ちですか?」——悪魔とディールを交わして魂を売り渡した人間ならば、幽霊となっていてもその契約書を常に手元に持っているはずなのだ。なぜなら、それは一世一代の大ディールであり、一人の人間が持つ全魂ぜんこんの売り買いなので魂額こんがくも相当な額に及ぶ。ちいさな犯罪で落とす魂の額とは比較にならないのだ。


「ここにあります」サラの手には黒いリボンで巻かれた紙筒があった。

「正しい契約かチェックしたいので見せてください」

「何か問題ですか? それは困ります。見てください」

 僕は丁寧にそのリボンをほどいて、丸められた契約書を開いた。


「ふむ、あなたはそのご自身の魂をこの『トラジェビビ』と言う悪魔に売って、こちらにあるダイヤモンドの所有者を殺してもらう契約をされたと……」

 トラジェビビはサラとの契約で呪いの標的を『所有者』という単語で括っている。いずれはこのダイヤがクログラント一族の手を離れて人々の間を渡り歩くことも想定していたのだろう。

 お人好しのサラにはその予想は出来なかったのだ。


「はい、その通りです」

「あなたは悪魔に魂を売ると、どうなるかご存知なのですね?」

「よく分かりませんが、今の私がその答えになるのでしょうか?」チラリと不安な表情を見せるサラ。


「そうですね、つまりあなたの魂は天にある冥界と言う世界には帰れません。冥界とは人間の魂の故郷みたいな所です。そのかわりに今、ここに居るようにトラジェビビの所有物になり、永遠に亡霊としてさまようのですよ。誰かのかばんにぶら下げられたキーホールダーのようにです」

「むしろ、ここにいられるのは、あくまでもトラジェビビの気まぐれですね。トラジェビビがその気になれば魔界に行く可能性もあります」


「魔界ですって?」幽霊のサラはその身を固くした。

「はい。魔界でお金代わりに悪魔同士の取引に使われるのです」

「そ、そんな……」サラは動揺した。

「ご存知ではなかったのですか? まあ、人間は生きている間にはそんなこと知るよしもないですから。知らなくても仕方がないのですが——」僕は完全にサラの心のコントロール権を握っていた。


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