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4.『省エネ転移』/『部分転移』

 

 おれは血に飢えた狩人。



 獲物を見つけ、這いよる。



 高鳴る鼓動を沈め、自然と一体となる。




 憐れな獲物はおれの気配に気が付く。




 その瞬間、獲物の背後、死角へと『転移』、そのまま槍を突き刺した。




「ふぅ、闇討ち戦法、ここに極まれり」




 自分を囮にして注意を引き、相手の頭上後方に『転移』。

 そのまま落下の勢いで槍を突き刺す。

 闇討ち戦法だ。



 最初の一週間は上手くいかなかったが、果物と草ばかりの生活に嫌気が差し、失敗続きで悔しさもありチャレンジし続けた。



 コツを掴んでからは百発百中だ。



 毎日狩りをしていたおかげか、レベルが上がった。


 レベル5から7へ。

 まだ『転移』二回分の魔力量には達していないが、魔力回復薬は節約できるようになったから魔力量は確実に増えている。





 おれはうさぎっぽい獣を持って、家へ『転移』した。


「おっ‥‥‥」


 なんだか楽に転移できた。


 もしかして。


「ステータスオープン!」


 ■壬生京志郎 16歳

 ■レベル:7

 ■スキル:『転移Lv.2』


「いよっしゃゃ!!」


 おれはガッツポーズした。


 基本の『転移』をマスターしたおかげか、回数をこなしたからか。

 毎日の転移筋トレの成果かはわからないが、スキルのレベルが上がった!!




 肉の下処理をして干し肉にし、魔力回復薬を飲んだ。


「よし‥‥‥!」


 転移筋トレをして一緒に転移できる重さは薪七個分、3~4キロぐらいだ。

『転移Lv.2』でどれぐらいの質量を転移できるのか。

 試すことにした。



 まずは八個、一束、4キロ超。



 抵抗がほとんどない、イケる!



「できた。これなら‥‥‥」



 おれは薪を、もう一束持った。



 今度はかなり抵抗があるが、今までと違う。

 魔力を込めることで抵抗が無くなった。


「これがパワーか。魔力を込めればその分重い物も転移できる」


 今のおれは普通に転移する時全魔力の6割を消費していた。

 全魔力を消費することで10キロ近くのものを一緒に転移できた。


「ふむ‥‥‥10キロとか中途半端だな」


 これでは商人としても効率が悪い。

 戦いでもどう役立つか、微妙だ。


「そうだ」


 魔力を込められるようになったのなら、魔力を抑えたりも‥‥‥


 おれは魔力を込める感覚からギリギリ一回分を見定めた。

 消費魔力が5割になれば、魔力回復薬無しで2回転移できる。


「よし、できない!! 怖いぃ~!!」


 何だか嫌な感じがしてやめた。

 もし転移する力が足りずに無理やり転移しようとしたら足りない分は置き去りになるんじゃないか。


 腕とか脚とか。




 今度は逆に何も持たずに全魔力を集中してみた。

 何も持っていないから魔力消費は全体の6割。


 残りの4割はどう影響する?




「うっ、おおお!!」




 ヤバいと感じた。

 急いで転移を止めた。




 バキバキと家の床が割れ、机が吹っ飛んだ。




「うわぁぁぁ‥‥‥」




 異世界生活50日。

 久しぶりに心臓が跳ね上がった。

 そしてにやけが止まらなくなった。


「ふふふふ、やっぱりか!」



 おれが『転移』を選んだ理由はこれだ。


 転移とは空間移動。



 それはつまり空間を歪める力が加わるということだ。



 ゲームや漫画で転移が登場する度に思っていた。




 空間を破るのって必殺技じゃね?



 よくSFとかで転移をして周囲のものが吹き飛んだりワープホールを閉じて敵の身体を両断したり‥‥‥フィクションだけど。

 転移はつまり空間を歪める力。

 惑星が消滅する時とか膨大な質量の物が空間を歪めると聞いたことがある。

 それはすさまじい力なんじゃないかとずっと思っていた。

 同時にその空間の裂け目に入って無事でいられるというのは何らかのフォースフィールドで身体を保護しているに違いない。


『転移』は単なる移動手段ではなく、攻撃力と防御力を備えたスキル。




 その仮説が今確信に変わった。




「全力でもこの程度ではまだ応用は効かないな。でも‥‥‥攻撃力は備わっている。なら‥‥‥」


 防御力もあるはず。




 おれは魔力回復薬を飲んで、もう一度『転移』を試した。


 転移のイメージをさっきより具体的に‥‥‥素早くやってきたことをゆっくり確かめるように始めた。


 身体を覆う物を感じる。


「ぐぬぬぬぬぬ‥‥‥よし!!」


 普通に転移しただけだが、イメージ通りだった。

 感覚が消えないうちに、何度も繰り返した。

 それで確認が持てた。

 フォースフィールドは実在する。

 これが身体を保護するとともに、転移する対象を決めているのだろう。


「はぁ、はぁ、そうだ、さっきは失敗したけど‥‥‥」


 身体を覆う感覚、あれさえあれば、いける。

 おれは最小の魔力で転移を実行した。

 念のため薪を一つ持って。

 薪はフォースフィールドで覆わない。


「いざ!!」


 結果は予想通りだ。

 今までは何となくやって来た転移を理解してイメージしてやることで、さらに細かく制御できるようになった。

 神様のアドバイス通りだ。



 薪はねじり切ったかのようにバラバラに砕けていた。



 おれは無事。

 フォースフィールドが無いとこうなるわけか。

 これで自分さえきちんと覆えば、省エネ転移しても身体の一部を失うことも無い。


「これは使える!!」


 最小魔力での転移を『省エネ転移』、薪をねじ切った転移は『部分転移』と呼ぼう。

 もしかしたらまだ検証できることがあるかもしれないが、実用的な力の使い方を発見できたのでとりあえず分かったことを整理することにした。



 まずレベルアップの恩恵。

 これは魔力の調節が可能になったということだろうな。

 魔力を多く込めればそれだけ大きい質量のものを一緒に転移させることが可能となる。

『転移』には身体を覆うフォースフィールドと空間を開け閉めする力がある。

 フォースフィールドで護っていれば『省エネ転移』が可能。

 魔力量を調節し、フォースフィールドで覆う対象を選べば、選択外の物質は異空間のエネルギーに巻き込まれ破壊される。


 これが『部分転移』だ。


 魔力を余分に込めると、異空間の穴が大きくなって周囲に影響を及ぼす。




 あと怖いからまだ試していないが、何も持たなければたぶん今の魔力量でも二回転移することが可能なはずだ。






「さて‥‥‥実験もいいが、今度から家の外でやろう」




 おれは吹っ飛んだ机を戻し、割れた床を板で補強して散らばったものを片付けた。


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