39.フラノの地を豊かにしよう~シーア帝国へお散歩してみた
会議の後、葬式みたいな空気だった。
そりゃそうだ。
結婚発表後に営業部長の企画がぼろくそ言われたら。
奥さんは怒っておれに殴り掛かってくるし。
それを見かねた森の長ゲンツィアは宴を開いた。
火を囲み、酒を酌み交わす。
その中心はバルトとカーシャさん。
おれはその輪の中に入れなかった。
「まぁまぁ、気を落とされるな。キョウシロウ殿」
そう言っておれの隣に座っているのはグレイ。
「あのバルトを言い負かすとは。キョウシロウ殿はどこでそのような知識を得たのだ?」
「天才」
グレイが感心している。
眼を輝かせ、偉大な人物を仰ぎ見るかのようだ。
本当のことを言ったらどんな顔するだろう。
おれが話したことが全部、誰かの受け売りだって。
おれがあんなこと一から考え付くわけないでしょ。
みんなには内緒だが、ちょっと友達の知恵を借りたのだ。
◇
いまから一週間以上前。
屋敷の下見をした後、引っ越しの準備をすることになった。
でもおれは転移があるからすぐ終わる。
村長とウィズの引っ越しのため使用人たちが掃除や準備している間は暇だった。
その暇な時間、おれは散歩に出かけた。
せっかく『転移』ができることだし、好奇心でいろんなところに行ってみようとした。
アンブロシスにもらった水晶で適当なところを探った。
おもしろいものを見た。
魔獣と戦う人たちだ。
自分以外が魔獣と戦っているのを初めて見た。
ひたすら続く荒野。
人の数倍はあるデカいトカゲの群れと戦う集団。
興味があった。
ここからどうやって逃げるんだろうか。
デカトカゲはすばしこく、鋭い牙と爪を持つ。
おれはさっそく転移して声をかけた。
「ねぇ、もしかして、冒険者さん?」
「うぉぉぉ、てめぇどっから現れやがった!!」
驚いた様子の第一冒険者ウルタ。
彼は妻子持ちの35歳。
悩みはハゲてきたこと。
そんなことより戦闘中によそ見をする、そんな危なっかしさを気にするべきだろう。
「ちょっと、ウルタ! よそ見してんじゃないわよ!!」
ほら怒られたぞ。
この女性はクルリ。
16歳だがすごい気迫だ。
彼女は魔力障壁でデカトカゲからウルタを護った。
これがおれの見た初めての魔法だった。
感動したね。
いや、厳密にはバルトたちのやっていた武技も魔法なんだけど、こっちの方が魔法そのものな感じだ。
彼女は魔法使い。
シーア帝国では術師と呼ばれる。
「そいつ、どっから連れてきた!?」
「知らねぇよ!!」
「囲まれそうだよ」
ウルタとクルリ以外もデカトカゲと交戦していた。
「隊列が乱れてるよ」
「「お前のせいだ!!」」
戦法は実にわかりやすい。
前衛の剣士ウルタ中心となり、槍使いや重武装の男たちが牽制しながら突っ込む。クルリが魔法でサポートする。他の仲間が矢を撃ち込む。
でも前衛が後退させられて、後衛にデカトカゲが迫り、大混乱となった。
おれがウルタを驚かせたせいにされた。
でも、おれが来る前からこんな感じだったし。
「こっからどうやって巻き返すの? 援軍待ってるの?」
クルリはおれを見て叫んだ。
「死にかけてんだよ!! 追い詰められてんがわかんないの!!?」
みんな疲弊しきっていた。
かなり切羽詰まっているとわかった。
「手伝おうか?」
「は?」
クルリがアホを見るような顔をした。
お前に何ができるという顔だ。
「後で手柄を横取りされたとか、実は自分たちで何とか出来たとか言われたら嫌だから、確認してるんだけど。あ、おれ冒険者見るの初めてで、ルールとか――」
「何かできるなら早くしろぉー!!!」
クルリの魔力障壁が破られた。
「しまった!」
絶体絶命の大ピンチ。
術師の護りが破られたら、後は蹂躙されるだけだ。
お察しの通り、そんなことにはならなかった。
最強のスキルを持っている人がここに居ります。
荒野に響くバシリという音は、陽気な音楽のようにリズムを刻み、お祝いのようにデカトカゲたちを天高く舞い上がらせた。
魔力障壁と違っておれのフォースフィールドは目に見えない。
全力で飛び掛かり、漏れなく弾かれる。
デカトカゲたちの命懸けの演奏を指揮するのはおれ。
腹の底に響く威嚇と、成す術の無い悲し気な鳴き声が生み出すハーモニーと不協和音。
デカトカゲたちは歌い、踊り狂い、舞い散った。
「今だ、奴ら弱ってるぞ!!」
「一網打尽だ!」
「行くぞ」
「うぉぉぉぉ!!!」
これがきっかけでおれは彼ら冒険者パーティ『荒野の戦士団』と仲良くなった。




