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38.フラノの地を豊かにしよう~会議は荒れる2

 

 カサドラル王国の最南端にある古い貴族。

 それがシジュン家。


 古いことが良いことかと言えばそうではない。

 目まぐるしく情勢が変わる中、運よく家名が途絶えなかっただけ。



 時代の流れに乗り遅れ、取り残された、何もない土地。

 利用価値が無いから放置された田舎。

 シジュン家の治める地は要するに、過疎地だ。



 戦後、職を失った兵士や傭兵たちが山賊に身を落として治安も悪い。

 廃れる一方なのだ。



 立憲君主制の鉄陽王国カサドラルにおいて、辛うじて議席を有しているものの、政治的な大きな流れの中、領地の改善を望む意見を発信することも無い。




 そのくせ当主が王都でのお役目を言い訳に戦後も戻らず、城代となった城兵長が重税を課して好き勝手しているという。

 世継ぎも末の娘が一人残っているだけ。



 これが没落貴族と言わず何という。



「お前の言う通りだ。だがシジュン家は足掛かりに過ぎない。大きな伝手はドワーフの技術協会だ」



 カサドラルはドワーフと只人の国。

 だが、国土の三分の二は元々ドワーフとその祖であるドヴェルグが建国した国。

 残りの三分の一は他民族国家だった。

 それらが統合されたのが今のカサドラルなので、実質的国家の主体はドワーフだ。



 ドワーフは元々鉄の加工技術に優れ、職人同士のつながりや文化が根強い。



 その中心的組織が『ドワーフ技術協会』だ。



 ここでは何を流布させ、どんな技術を秘匿とするか、監督する組織。



 確かに強大な権力を有している。




 商品を大量に卸してもらえるようになれば大儲けだ。


 いや、そんな簡単に行くわけない。


 その伝手が本物ならシジュン家より大きな後ろ盾のはず。



 フラノ村に来ているドワーフたちと『ドワーフ職人協会』のつながりは希薄と思った方がいい。


 まぁ、重鎮的ポジションだったらフラノにいないわな。



「確かに伝手があるのはいいけど、シジュン家を稼がせるためにはお抱えとなる商人を斡旋してもらう必要がある」


 回りくどいけど、ドワーフ職人協会がシジュン家の後ろ盾になり、シジュン家が獣人の後ろ盾になってもらわなければならない。



 そうしなければ弱い立場のシジュン家に横やりが入る。

 例えば一定の金で交易路を譲れとか。

 議席を放棄しろ、とか。

 政略結婚もあり得る。それで獣人保護の権がうやむやになるなんてこともあるだろうな。

 真偽不明の債権者が借金を返せとやって来たり。


 単純に隣接領地の貴族が攻めて来たり。



 ドワーフ職人協会とのつながりが本当にあればこれらを牽制できるだろう。



 あればね。




 もしコネを使い、シジュン家に投資してくれる奇特な権威者を見つけられたとして、交渉をするのは至難の業だ。


 こちらは何も保証できないのだから。



 そもそもシジュン家にここまでの事業を展開する意思があるのだろうか。

 


 産業が無く、領民から税を取り立て、治安が悪化した領地。

 このやる気の感じられない貴族が、こんな面倒な事業を果たしてやり遂げることができるのか?



「話をうまくまとめられたとして、シジュン家の当主はそのことを知っているのか? 話を進めているのはその家の跡取り娘なんじゃないか」



 バルトが完全に口をつぐんだ。


 バルトは城を乗っ取っている城代と王国の王都に居るという役立たずの当主には会っていない。



 それはシジュン家との取り決めでもなんでもない。


 

 要するにバルトの計画はクリアすべき課題が多すぎる。その内クリアできた課題が何もない。

 手付かずだ。



「こんなものは計画じゃない。ただの夢想、空想だよ」



「例え、わずかな可能性でも、やらなければならない。でなければ獣人たちの扱いは変わらないままだ!!」



 冷静なバルトが叫んだ。

 らしくない。

 こいつは獣人たちの未来を背負ってしまっている。

 大望だ。



 勝てない勝負はするべきじゃない。



「で、でも、キョウシロウなら」

「ん?」

「キョウシロウならできるんじゃないか? 商人たちを牽制するとか。シジュン家の問題を‥‥‥」



 ウィズがおれに期待の眼差しを向ける。


 なぜそんなことを期待されてるんだ?


 あ、買い出しを手伝うって言ったからか。

 あれは単純に値段の交渉の話だ。

 これとは全然違う。





「う~ん」



 おれが商人で、危険だが儲かる道があると言われたら、他の商人にだめだとか危険だとか言われても行くだろう。


 安全に楽して儲かると言われるより信憑性があるからだ。


 危険ならそれに対策を打てばいい話。

 護衛を雇う。



 後の心配は馬。

 いや、貨物と金の運搬。



 シジュン家に商人たちを従わせる。

 というより依存させる。


 それにはシジュン家に特権があればいい。



 保険だ。

 シジュン家に保険の窓口になってもらえばいいんだ。



 そのためには信用。



 なら‥‥‥


「キョウシロウ?」

「ああ、ごめん。いや例えば‥‥‥」



 ふと気が付いた。

 ウィズに頼まれたから考えた。


 でも、これは本来バルトがおれに頼むことじゃないのか?


 バルトはおれをいいように使うためウィズを道具にしている気がする。


 それは獣人を奴隷として扱うのと何が違う?



 バルトは確かに頭が良い。

 獣人のためと言っているのも本当だろう。


 でも結局、お前も獣人を利用している。



 いや、問題は結局‥‥‥



 只人に獣人が従う。

 この関係が都市化しても変わらないんじゃないかということだ。



「おれはやっぱり反対だ」

「え? どうして!」

「もし全部上手くいって、獣人が自由を保障されても、獣人が都市を維持できるとは思えない」

「なんだと!?」



 これにはその場にいた獣人たちが全員ざわついた。


 でも、事実だ。



「この場で一番発言しているのがバルトとおれなんだよ? この計画自体、バルトが主導している。技術的にはドワーフががんばってる。問題解決にこの前村に来たばかりのおれに頼ってる。自由を勝ち取るために只人に従う。それじゃあ只人の都市になるだけだ」



 反論しようとしていたゲンツィアだったが、それが自分と同じ意見だと気が付いたのだろう。



「欲深な者たちが行き交う都市を獣人が担う? そんな知識を誰が持っている? 只人たちが獣人の法に従うか? キョウシロウ殿の意見は真っ当だ」



 獣人に都市を維持できるとは思えない。

 すぐに都市に入り込んだ別の種族にとって代わられてしまうだろう。


 都市は知識人が担う階級があって成立する

 獣人にはそれが無い。



「だがこのままじゃ駄目だ! いつ戦争が再開し、ここが攻め込まれるかもわからない! 獣人同士が戦うことになってもいいのか!! 今、この機会を逃せば今後100年はこんなチャンスは無いぞ!!」

「ならもっといい方法を誰かに聞けばいいよ。劇的に問題を解決できる方法を。獣人が主体となって都市を経営できる方法を」

「劇的って‥‥‥そんな方法が? お前、何を考えてる」



「いや、おれじゃないけど。世の中にはお前より頭のいい人がいるんだよ」


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