37.フラノの地を豊かにしよう~会議は荒れる
おれはグレイの申し出を断った。
「女の子とならもっと自分を大事にしなさい」
僕とか重い。
それに‥‥‥
ちらりとウィズを見る。
誠実な男の方がモテるでしょ。
「え? しかし‥‥‥」
「勝者の権利を放棄する気か?」
「あんたも、自分の娘をそうほいほい差し出すなよな。どうせアンタが戦ってもおれが勝ってたんだぞ」
「何だと貴様!!」
ゲンツィアが激昂するがおれは退かない。
だって、こういうの良くないだろ。
獣人の誇りはどこ行ったんだ?
「なら、一つこちらに機会をもらえないだろうか。今後についてじっくり話し合いたい。これはフラノの全体に関わることだ」
「いいだろう」
バルトの提案で話し合いの場が持たれた。
初めからそのつもりだったのだろう。
森の獣人は只人を毛嫌いしているというし。
その説得が目的か。
おれが戦って得た権利をバルトが使うのは癪だがおれに要求はないし。
「じゃあ、先帰ってる」
「待たれよキョウシロウ殿。ぜひ、貴殿の御意見も伺いたい」
「えぇ~」
「キョウシロウ殿は我が客人にして聡明な方だ。派閥に捕らわれない中立な意見を下さるだろう」
「ふむ、いいだろう。貴殿も加わるがいい」
勝手だな。
でも、バルトの口から計画を聞くのは初めてだ。
ただの夢物語なら止めておいた方がいい。
「フラノに交易拠点を造る。そのためにすでに南北の有力者の後ろ盾を得ている。今後はその影響力、政治力を高めるため南北の交易を代行していきたい。北の特産を南へ、南の希少品を北へ運ぶことで大きな利益を生む。協力者を雇うなどしてその規模を拡大し、後ろ盾となる南北両家の政治力、資金力、影響力を高めていく。その見返りとして、このフラノでの獣人の自由と権利を確約させる。両国には莫大な利益がもたらされ、我々は正当に侵略を受けない居場所を手に入れられる。これが現在進行している計画だ」
つまり、バルトはフラノを金を生む永久機関として売り込んで、その代わりに人権を買うわけだ。
金で人権を買うわけか。
悪いことしてるみたいに聞こえるけど、この世界ではそんなものか。
無いものは手に入れるしかないのだから。
「‥‥‥そう簡単に行くはずがない」
ゲンツィアは反対のようだ。
「カサドラルからシーアまで馬車で一月以上掛かるのだ。その険しい道のりに魔獣が溢れている。それはどうする気だ?」
「それはどこも同じだ。危険無くして利益など得られない」
「ふん、適当な」
「少なくとも、フラノの村を中継すれば危険な道のりは二週間余りだ。必要に応じて中継地を増やすこともできる」
バルトがちらりとおれを見た。
魔力障壁の源になる純魔鉱石のことか。
まぁ、欲しいなら当てにしてもいいけど。
「キョウシロウ殿はどうお考えか?」
村長がおれに話しを振って来た。
「おれも無謀だと思う」
「え?」
フラノの村から来た面々は唖然とした。
おれが批判に回るとは考えていなかったようだ。
「キョ、キョウシロウ。お前はバルトが計画しているから――」
「いや、誰が計画していてもおれは反対だな」
カーシャさんは盲目的にバルトを信じてきたから余計に信じられないのだろう。
「ほう、興味深いな。理由を聞こうか」
「理由はいろいろだけど、反対する一番の理由はバルトの計画に欠陥があるから」
「欠陥だと?」
「シジュン家の立場だよ」
バルトはやはり、図星のようだ。
バルトの計画の着地点は獣人の権利の保障だ。
その重要な役割を担っているのは南がアルトリンデン、北はシジュン家。
両家は儲かる見返りとしてその財力と政治的発言力でフラノでの獣人の権利をそれぞれの国内で勝ち取るという手筈だ。
でも、アルトリンデンはともかく、シジュン家にそんな力があるのか。
交易を始めてしまえば商人から横やりが入る。
それを抑え込んで利益を護るには相当な力が必要だ。
果たしてその力がシジュン家にあるのか。
答えはノーだ。
「シジュン家は没落寸前だ」




