35.フラノ村最強の男に挑戦する
バルトがカーシャとの結婚をかけて森の試練に挑戦するらしい。
「お前が来るとはな、キョウシロウ」
「カーシャさんをかけて戦うんだってぇ? せいぜい後ろに気を付けろよぉ?」
「冷やかしなら帰れ」
うひひー。
せいぜい神経をすり減らすがいいさ。
「キョウシロウ。これ、持ってくれ」
「ちょっとぉ、カーシャさん! 旦那に持たせて下さいよ」
重い籠を持たされる。
最近の狩りの多さはその手土産のためでもあった。
「重たい。これ『転移』させるよ?」
「だめだ。大事なものだ。ちゃんと持て」
「ウィズ~、カーシャさんがイジワルするぅ~」
「私が持ってあげよう」
「わーい」
「お前、それでも男か?」
それって男女差別だよ。
おれよりウィズの方が体力あるんだからいいでしょ。
ちょっと村の生活に慣れて鈍った。
これでもよく付いていってる方だぞ。
おれたちが進んでいるのは村と河を挟んで東に広がる森。
原生林って感じだ。
この奥が獣人たちの部族が住む集落となっている。
おれがいた西側の森と違って獣が小さくて魔獣が少ない。
時折顔を覗かせる動物たちもなんだか無害そうだ。
「この辺りの木が魔力を吸っているから、危険な魔獣が生まれないんだ」
歩きながらウィズが説明してくれた。
魔獣はいないがやけに木がデカくて太い。
それが至る所で倒れて朽ちているから真っ直ぐ進むのにえらく体力を使わされる。
「ねぇ、この辺でお弁当にしない?」
「村を出たばかりだぞ、だらしない」
「遊びじゃないんだ。疲れたなら帰れ」
「ウィズ~、ゴリラ夫婦がイジメるよ~」
「キョウシロウは『転移』できるんだからみんなは先に行っていてもいいんじゃないかな。私とキョウシロウは後で合流するから」
バルトたちが先に行った。
「キョウシロウ~、わざとバルトたちを怒らせようとしてないか?」
「めっそうもない。ちょっと神経を逆なでしようと」
「意地が悪い。キョウシロウも人のこと言えないぞ」
ウィズと二人、お弁当を食べる。
ただの傍観者だからおれはピクニック気分。
お弁当を用意してきている時点でウィズも一緒。
おれたちは当事者じゃないから気楽なものだ。
「それにしてもこんな森の奥にわざわざ暮らすなんて、変わってるね」
「キョウシロウに言われるとは」
「ん?」
なんのこと?
おれは生粋のシティボーイですよ。
「森は獣人にとって安全だからね。それに只人と隔たりを造る、まぁ防波堤みたいなものだから」
「防波堤って‥‥‥見たことある?」
「ないけど。それくらい知ってるから」
むぅと頬を膨らませるウィズかわいい。
おれは結構レベルが高い。
たぶん平均的な只人の体力に比べたらかなり上だ。
そのおれが、息が切れる。
バルトでさえ余裕なかった。
カーシャさんの荷物、代わりに持てなかった。
こんな森に入る只人は確かにいないだろう。
この森を進むこと自体、試練の一つなのかもな。
「おれ、『転移』使わない。自力で行くよ」
「どうしたの、急に?」
別にこれからおれが試練を受けるわけじゃない。
でも、楽をしたらまるでおれが試練から逃げているようだ。
「私はいいよ」
「うん」
ウィズに付いていき、何とか奥へと進む。
道なき道を突き進み続けしばらく経った。
集落の入り口にたどり着いた。
森の奥にあったのは木でできた壁。
要塞だ。
その中には軍隊がいた。
殺気立っているのがわかった。
獣人たちがおれを睨む。
「あの、おれの恰好何か変ですか? あの? え? どっかでお会いしました? え? そんな熱い眼で見られてもすいません、ぼくはノーマルなんで‥‥‥」
睨んでいた兵士たちが眼を逸らした。
勝った。
「キョウシロウ殿、遅かったな。てっきりスキルを使うものと思っていたが‥‥‥さすがだ」
「あれ、試練は?」
「とっくに終わった」
獣人が何人も運ばれていく。
バルトが倒したのか。
カーシャさんはバルトにべったりだ。
おもしろくない。
「バルト、最後の試練、相手はおれだ!!! 掛かって来いぃ!!」
「こら、素直におめでとうと言おうな? 二人ともおめでとう」
「「ありがとう」」
「ホラ、ご祝儀だ。これで少しは生活の足しになるだろ?」
「感じ悪いぞ。というか、お前、この金はどこで‥‥‥?」
「今日は客が多いな」
ひゃ。
思わず声が出そうになった。
想像して欲しい。
ライオンがフェンスの向こうではなく、こちら側にいる。
自分の命が脅威に晒されていて、自分ではどうすべきか考えられない。
それぐらい強烈な危機感をそそられる男が現れた。
村長と同じで顔がライオン。
「おうおう、こんな森の奥まで来たお客様にずいぶんな態度だなぁ!!! 早く茶を出さんかい!!」
啖呵を切った。
ギロリと男の眼がこちらに向く。
おれは村長の後ろに隠れた。
「なんだそれは? 道化でも雇ったのか?」
「兄上、彼は私の命の恩人です」
「なに?」
兄上?
この人が森の長か。
ひゃああ、おれはなんていうことを!
「あの、バルトに言えって言われたんですぅ」
どんな顔しててもおれからは見えないもんね。
怖くない。
「フン。そんな軟弱な只人の世話になるとは、そこまで堕ちたか!」
なんだと。
コイツ、どこか遠くの戻って来られない場所に飛ばしたろか?
ああ?
「軟弱かどうか試してみるか?」
あれ?
口に出してた?
ヤダ、冗談ですよ?
「その小僧が私と闘うに値するとでもいうか、バルト。殺すぞ」
「キョウシロウは荒らし喰を倒した男だ」
森の獣人たちがざわつく。
バルト勝手なこと言うんじゃねぇよ!!
「バカな、あり得ん。荒らし喰は只人が軍を出して狩る魔獣だぞ」
「本当です、伯父さん。キョウシロウが本気を出せばフラノで一番強いですよ」
「おお、ウィズが言うのなら本当なのだろう、うむ、ならば挑戦する以外あるまい! 小僧、私と闘え!!」
キョウシロウって誰のこと?
いや、おれじゃん!!
何勝手におれが戦う流れを造ってるんだ!!
いや、待て。
おれが挑戦するんじゃなくて、このおっさんがおれに挑戦するのかよ。
なんで?
普通に嫌です。
でも断ったら、ウィズの面目を潰すことになる。
「おれに挑戦するとは。命が惜しくないようだな」
「前に出て来て言ったらどうだ、小僧?」
「おれに挑戦するとは。命が惜しくないようだな」
やってやる。
脚が震えているのは長時間歩いたからであってビビっているわけではない。
眼を合わせられないのはドライアイだからだ。
ふ、おれが強がっていると思って油断しているな?
速攻で終わらせてやる。
「皆の者、只人の挑戦を受けたぞ!! この愚かな若者を称えよ!!」
長は周囲を煽り、兵士たちが槍で地面を叩いた。
「さぁ、小僧。フラノ村最強の者よ。いつでもかかって来い」
「ガンバレ、キョウシロウ!!」
見せてやろう。
『転移』で戦う境地というものを。
「お前はおれに一撃も当てることなく負ける」
「何?」
「さて、おれの速さにどれだけついて来られるかな?」
戦いはすでに始まっている。
今回は遊びじゃない。
久しぶりに本気で行かせてもらおう。
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