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34.新居で始まるドキドキ圧迫面接

 

 バルトの策略により村長家族と同居することになってしまった。


 ウィズと同じ屋根の下暮らすことに、おれは幾許か期待を膨らませ、頭の中では往年のヒット曲が木霊していた。


 真新しい部屋のにおいがまだ残る、ベッドと小さな棚しかない殺風景な部屋。


 おれはそこで想像を巡らせた。



 朝、寝坊したらウィズが起こしに来てくれるだろうか。

 寝起きの油断しているウィズの顔を見られるだろうか。

 風呂場でばったり遭遇したりするだろうか。

 その流れで混浴したりしないだろうか。

 夜中こっそり部屋に呼ばれたりしないだろうか。



 越して来ておれは不意に訪れるであろうチャンスを逃さない様に気が気でなかった。




 しかし、何も無かった。


 ウィズは一度手料理をごちそうしてくれたがそれは引っ越しの祝いの席だった。

 屋敷に皆を招いて宴が開かれた。


 その後ウィズが狩りに出てしまった。



「行ってきます」

「行ってらっしゃい」



 晴れやかな笑顔の彼女を見送った。




 三日前のことだ。


 ウィズちゃん。


 本当に狩りに行ってばかりでほとんど家にいないんだね。


 おかげでおれは今、君のお父さんと二人きりだよ。



 君のお父さんは苦手だよ。



 だって顔が怖いんだよ。



「お父様」

「キョウシロウ殿、今回はバルトが悪いな」

「え? 『君にお父様と言われる筋合いはない』って言わないんですか?」

「あいつは昔から策略家だった。だが、自分のためではない」

「お父様、ウィズをぼくに下さい」

「私は頭が良くない。だから、昔から考えるのはあいつの役目だった」

「ぼくの話聞こえてます?」

「私が村長であるのも、単に私がこのフラノの森の古い部族の生まれだからだ。この村を造るにあたり、正当性を確立するために過ぎない」



 何だが突然難しい話をし始めたぞ。

 おれは聞かないとダメなのか?


 ウィズ、君のお父さんの話し相手だなんて聞いてないよ。




 思ったよりも快適。

 家の手伝いとかはみんな村長の世話係たちがやってしまう。


 おれは言われた通りタンクに水を貯めるだけ。


 村長も意外と暇そうだと思っていた矢先のことだった。


 会合部屋にいた村長と眼が合ってしまった。



 そしておれは知りたいとも教えて欲しいとも頼んでいない話を聞くはめになった。



「お茶入れますね」


『転移・口寄せ』で食器、茶葉を用意。

 お湯を注ぐ。


 村長はあの口でどうやってお茶を飲むのだろうか。

 アツアツにしてみよう。

 魔力障壁の冷却後の温水は沸騰している。


 悪戯じゃないよ。

 まず沸騰したお湯で食器を温めるんですのよ。



「正直な話、バルトの計画を聞いても私にはそれが正しいのか判断できない。他の者も同じようなものだ」


それってヤバいんじゃ。

バルトに魔が差して裏切るとか考えないの?



「あいつはきっといずれ村長にも牙を剥きますよ」

「もしそうならば、それが必要なのだろう」



 揺るがない。


 この人はバルトが裏で何かしているか知っている。

 それでも信頼しているんだな。


 だから妹のカーシャさんがバルトと一緒になることを認めている。



「君にもバルトを信頼して欲しい。私と同じように」

「えぇ~でもぼくは結構彼に騙されてますし~」



 それに裏切り者だ。

 友情より女を選んだ。


 もう仲良くしてあげないんだからね!

 


「君がバルトと協力してくれるなら、あいつも回りくどいマネはやめるだろう」

「協力って、交易のことですか?」



 そろそろいいかな。

 おれはお湯を入れた。

 アツアツでどうぞ。



「獣人には国が無い。だから軽んじられ、奴隷にされる。戦うしか能が無いと誤解される」



 国。

 スケールデカすぎ。


 おれあなたのリアクションで暇をつぶそうとしか考えてないんですぜ?



「壮大な計画ですね」

「君はどう思う。できると思うかね?」



 これは‥‥‥


 村長がじっとこちらを見ている。



 面接?



 おれの今の関心はネコ科の村長がアツアツのお茶を飲めるのかどうかだ。

 ぐっと飲んでしまうのか。

 それともちびちび冷ましながら飲むのか。



 いやライオン面が実はマスクで、外して飲んだら面白い。



 村長の選択は‥‥‥






 飲まない。

 つまらない。



「やはり難しいかね」



 いや、別に熟考してたわけじゃありませんよ。




「無理なんじゃないですかね」



 夢物語だ。



「無理、か?」



 ここは大国の中間にある。



 そんなの為政者(いせいしゃ)が認めるわけない。



 途中まで上手くいったところで、全部奪われるに決まっている。



「ここは村だから見逃されてるんですよ。勢力が大きくなったら獣人の反乱だとか騒がれます」

「そうか。金を積めば良いのではないか?」

「金があると分かれば反乱だと攻め込まれ略奪されます」

「なるほど。なら大国の庇護下に入るのは?」

「どこかの国に属すれば、もう一方は侵略と取るでしょう。攻め込まれて略奪されます」



 大国の中間にあるのは悪条件だ。



 こういうところは上手く政治的に立ち回らないと、常に戦場の前線となってしまう。

 政治的な圧力しょっちゅう掛かるだろう。


 ならどうすればいいか。


 そんなことおれが知るわけがない。


 それが途方も無く難しいこと以外は。



「うむ。キョウシロウ殿の話は明快。とても参考になる。どうだろう。私の相談役をしてくれないだろうか?」

「い、いやだなぁ。こうしてお話聞いているじゃないですか」

「そうではない。会合に出席し、私に助言をして欲しい」



 嫌だよ!


 あれでしょ。

 問題が起きた時、こそッと耳打ちするやつでしょ?

 そんな大変そうで責任重そうな役目はごめんだね。


 おれはもっと適当に生きたんだ。


「ぼ、ぼくはあまりこの周辺については詳しくありませんし」

「そうか。残念だ。いや、無理を言った。キョウシロウ殿にはすでに十分協力していただいている。今後とも力添えを頼む」

「はい」



 村長がやっとお茶を飲んだ。


 豪快に一口。


 もうぬるくなったであろうお茶だ。



 お茶の飲み方一つとってして見てもおれは無知だ。

 この世界の生活様式や格式というのはどんなものか。

 そこからおれは知らない。

 あいさつとして握手もない。

 ということはおれの考える礼儀、常識もズレているだろう。



 こうして村長の話し相手をしているより、そういうことを知っておくほうがいいかもな。

 どうせ暇だし。


「ところでキョウシロウ殿」

「はい?」

「我々には古い伝統や風習があり、部族の長の血筋は聖なる戦いによってより強い者を身内に迎え入れるのだが‥‥‥」



 ウィズが言ってたやつか。



「ま、まさかおれに戦えと?」



 娘さんを下さいって聞こえてたの!?



「いや。キョウシロウ殿の順番はまだだ」

「あ、そうすか」



 列には並んだことにされてるんだね。

 聞こえてましたよね。そりゃ‥‥‥



「ん? 順番‥‥‥まさか、ウィズを誰かが?」

「いや、カーシャだ」


 なんだ。


「バルトが挑戦する。それに私たちも付いていくのだ。キョウシロウ殿もどうだろう?」



 それは様子を見ておけということかな。


 森の獣人たちとそりが合わないらしいから、あまり気乗りしないな。



『ヨソモノ ハ デテイケ!』



 とか奇声を上げながら威嚇されるかも。

 想像できる。



「ウィズも行くが」

「行きます」


おもしろかったらブクマと評価をよろしくお願いします。

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