32.夢のマイホーム
おれはこの世界に転生し、『転移』を使って何とか生きてきた。
黒狼たちと戦い、レベルを上げてモンスターベアにも勝利した。
家を失ったおれはフラノ村の獣人たちに迎え入れられた。
フラノ村村長の娘でおれを最初に信用してくれた、実直で快活な獣人、ウィズ。
屈強な獣人たちに交じって村の中核的役割を担うバルト。
職人たちの取りまとめ役的存在で偏屈だが腕は一流のドワーフのルンガルシフ。
強面なオークではあるが気のいい土木建築の専門家ガドガ。
錬金術、薬師、魔導士、様々な顔を持つ村切っての知識人、ドワーフのアンブロシス。
料理上手なメイドを装う、元傭兵の獣人カーシャ。
スキル『槍術』を持つイケメンの獣人ルーデ。
口が軽く、ウソつきの長身の獣人アール。
口が悪く、ひねくれている小柄な獣人シド。
楽観的でとぼけた性格で太っている只人ヤック。
他にも村の住人達はおれを受け入れ、一員と認めてくれた。
おれはこの村で暮らしていく。
そのための住む家もできた。
「さぁ、やって参りました。突撃お宅お訪問~!」
「急にどうした?」
おれとルーデは新築の家にやってきた。
ルンガルシフが家ができたと知らせてくれたので、引っ越しの前にどうなったか確認に来たのだ。
「いいですね。村の中心から少し離れていますがその分閑静で心休まります」
「この辺りはただ未開発なだけだよ」
「真新しい道路! 出来立てですよ!」
「建材を運ぶためだろ。ちょっと坂になってるから不便じゃね?」
「これからが楽しみな場所ですね。さぁ見えてきました!!」
「ずっと見えてたけどな」
間近で見るとデカい。
家か、これ?
「見て下さい、広い庭ですね!」
「そこか?」
あれは違う。
あれは家じゃない。
舘だ。
おっ!
「見えて参りました。見えて参りました。風情のある木造平屋、40坪はありますねぇ」
「このデカい家は触れないのか? というかお前、さっきから誰に話してる? おれに話してる?」
それにしてもルンガルシフたちはどこだ?
中かな?
「早速、入ってみましょう。おじゃましま~す」
重厚なドア。
ドアノブは握りやすく、ガチャリと子気味いい手応えを返してきた。
ドアは力をかけずともスゥと開き、おれたちを迎え入れた。
「新築の匂い」
「新築だからな」
家に入る第一歩。
玄関には光沢のあるタイルが敷かれている。
「何という事でしょう。職人の匠の技が光ります。こだわり抜いたこのデザイン。来客を最大限もてなそうという気概を感じます。複雑な角のラインも隙間なく寸分たがわず埋められています。これは見事玄関ですねぇ~」
「まだ玄関だぞ」
玄関の前には真っ直ぐの廊下。
光を反射する板の廊下は、まるで一枚の板のように境目が見えない。
最初のドアを開けてみた。
「おお~」
「ここは‥‥‥」
板の間か。
個室のようだ。
窓枠と壁しかない。
「これは風情がある部屋ですね」
「何もねぇよ」
ルーデがさっさと隣の部屋を開けた。
おいて行かないで。
部屋を覗くと、見覚えがあった。
「風情がある部屋ですねぇ‥‥‥あれ? ここ、おれ知ってるぞ! これはデジャブ? まさか『転移』スキルが覚醒して一瞬先の未来を垣間見ることが!?」
「隣の部屋と同じだな」
おや?
なんか、注文したのと違くないか?
見たところ個室ばかりだ。
まだ完成前?
「アパート? いや寮みたいだな」
「何じゃ、ここに居ったのか?」
ルンガルシフがやって来た。
「探したぞ」
「なぁ、ここって‥‥‥」
「ここは離だ。旅人や上客の使用人用にの」
おれがスルーした舘がおれの家だった。
ガドガがほくほく顔で出迎えた。
「主が来て、やっと完成だね。いや、何か注文があったら言ってよ。すぐに直すからね」
「こう、10分の1くらいにギュッとできる?」
「それは無理だね~!」
玄関を開けるとダンスホールみたいに広い空間があった。
これ個人の家?
「すっげぇな! ここがキョウの家なのか。あ、見てみろよ。調理場があるぞ」
「調理場?」
レストランの厨房みたいな空間があった。
これ家なの?
「祭りの時デカい調理場があれば便利だとカーシャが言って居ったからな。ココで宴が催せるように広めに作った」
おれの家になぜカーシャさんの意見が?
「ん? こっちは、なんだ? デカい桶があるけど。何か飼うのか?」
「風呂?」
デカい浴槽は石でできたもの。
それにおひつのヒノキ風呂と釜の五右衛門風呂。
何なの?
ここ風呂屋にする気なの?
「風呂と言えば貴族の館だろ思っての。試しに石の設計で造ってみたが、どうもピンと来なかった。そこでお前さんのアイデアを元に釜のものと木のものも試してみたんじゃ」
「ええいすごいな! 蒸し風呂もあったら最高だな!!」
「蒸し風呂? よっしゃ、試してやるぞ」
ここを実験場みたいにしてるのか?
うわぁ、誰が掃除するんだよ。
おれヒノキ風呂の管理とかできないよ。
というかあれはヒノキ風呂なのか?
「いやぁ、ごめんよキョウシロウ君。おれら、自由にできる木材が大量にできて舞い上がってしまって。そうしたらバルト君が、ここを来客があったときの迎賓館も兼ねた建物にしたいって」
「聞いてませんけど!?」
あの野郎、勝手におれのマイホームを!
「でも、どうせキョウシロウ君一人暮らしにはさせないから、都合がいいだろ?」
「え? おれは誰と住むの?」
ガドガはニコニコして黙った。
これではまるで舘の管理人だ。
一生、舘を掃除して終わりそうだぞ。
「なんじゃ、お前さんの要望通り、薬草室もあるぞい。厨房と同じには出来んかったから別室じゃ」
「すげー」
「ホホ、捗りますなぁ」
使ってる人いますけど。
「アンブロシスが使いやすいように、錬金用の部屋も併設した」
「もう何でもありだね」
アンブロシスがいた。
なんかおれの希望よりみんなの希望が優先されている気がする。
「そうだ。隠し部屋はどうした?」
「心配するな。忘れとらん」
おれしか入れない部屋。
秘密の地下室。
おれたちはまだ塞がれていない地下へ向かった。
「ナニコレ?」
だだっ広い空間には魔法陣が敷かれている。
中央にはデカい何かがある。何かの装置。
金属製のタワー型をしたオブジェに魔鉱石が取り付けられている。
まさか‥‥‥
「ホホ、ようやく完成しましたですじゃ。これが魔力障壁を生み出す魔導具ですじゃ」
おれの家に造っちゃったの?
ここに造ったら何かあった時大変だろ。
「ここならキョウシロウしか入れんから、部外者が停止させることはできん」
「おれがいないときどうするんだ」
「お前さんはいつでも居て、いつでも居ないようなもんじゃろうがい」
そうだろうか?
おれが停止させるとか思わないのか。
信用は普通にうれしいけど、こんな大事な設備が寝てる下にあると思ったら安眠できないよ。
「それにね、ここは水汲み場から遠いからキョウシロウ君がいないと水も供給されないんだよ」
「欠陥住宅!」
「何を言う! 魔力障壁の魔導具を冷却する貯水タンク! 風呂の湯を満たす温水タンク! その他生活に必要な上下水道用貯水タンク! こんなもん、人力で汲めるわけないじゃろがい!!」
「開き直った!!」
水道を坂の上に引っ張ってくるとかできないのか。技術的なことはわからないけど。
この舘が何だかおれを縛る牢獄のように見える。
おれに責任を負わせてどこにも行けなくさせているような‥‥‥
待てよ。
こんな感じの会話を前にした。
先の予定をアレコレ決めておれがどこかに行かない様に‥‥‥
「あのさ、この案ってルンガルシフの? アンブロシスの?」
二人とも黙った。
「なぁ、こっちの大部屋はなんだ?」
二階からルーデの声がした。
「ああ、そこは会合ができる部屋だ。私の家にみんな集まってだと狭いだろ?」
この声は‥‥‥
二階にもう一人いた。
彼女は大きな荷物を持っていた。
「ウィズはん、どっか旅行でも行きはりますの?」
「何言っているんだキョウシロウ。料理を作ると言っただろう」
まさかの住み込みだった。
これって‥‥‥
あ、なんか90年代のラブソングが聞こえて来るヨ。
「よろしくネ。キョウシロウ殿」
お父さんもいっしょだった。




