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12.森の小人

フラノ村のウィズ。

彼女がわざわざおれを追って来た理由は罰を与えるとか陰湿な理由ではなかったようだ。


「え? 村長が病気」

「はい。あなたがその瓶を薬だと言って消えた後、村の薬師に見せました。貴重な霊薬だと分かり、どうかそれを売っていただきたく伺いました」

「‥‥‥なるほど? え、ここまで追って来たのはそれが欲しかったから?」

「そうです」


どういうこと?


もしかして、おれの持ち物だから勝手に使わずに、わざわざおれから買い取ろうということか。


なんていい子なんだ。


「おかしいと思ってるだろからおれが説明する」

「誰だてめぇ?」

「男相手だと急に口が悪いな」


人間もいたのか。


「おれはフラノ村の住人だ。彼ら獣人は誤解が多いが只人より誠実で厳格なんだ。鼻が効くから相手の嘘がわかる。だから騙し合うことがない。身体能力が高く盗みをするイメージが根強いから厳しくこれらを禁じている。彼らフラノの村人は特に只人との付き合いを大切にしてくれている者たちだ。だからこうして誠意を見せにきたということだ」

「はぁ、なるほど。あの‥‥‥じゃあこれはお譲りできませんね」


ウィズが小刻みに揺れた。


「な、なぜだ!? やはり貴重過ぎるからか!?」

「いや、それで治るかわからないですし」

「それはそうだが、霊薬以外に望みはないのだ!」


そこまで重傷ならなおさらだめだな。

だってこれ、おれが自然回復薬を薄めた自然快調薬だからな。

切り傷には効くし、口内炎、肌荒れ、ニキビ、胃腸炎には効くが、病気は知らない。

これなら安心して売れると思って試しに一つ持っていたのだ。


「実は正真正銘の霊薬がまだ一つあるんですが」

「なに、本物の霊薬!?」

「はぃ、まがい物一切なし、純度100%の上物でさぁ」

「ほ、ほう、それで!?」

「お譲りしてもいいんですが、なにせ特別なものですからねぇ」

「な、なるほど‥‥‥当然だ」


なんか言胡散臭い訪問販売みたいになってしまった。

女子と仕事以外の話をするなんて久しぶりで緊張してしまった。

ウィズがハッと後退って顔を強張らせ頬を染めた。


違うよ!! そういうんじゃないから!!


悪代官様じゃないから!!


「家、家が欲しいんです。どこか住む場所を紹介してください」

「え?」

「ここおれの家だったんですけど、今はクマの死体しかないんで。代わりの家が欲しいんですよ。というか住所。フラノ村の京志郎って名乗れるようになりたんですけど、無理すか?」


こういう世界で立場とか権利とかを買えるシチュエーションは多くないはず。

この子、村長の娘だって言っていたし、恩を売っておけば快適な暮らしができるかも。いや、少なくとも今の暮らしより絶対いい。


「なんだそういうことか。霊薬で父が助かったら、あなたをフラノ村の住人として認め、住む場所を提供する。これでどうだろう?」

「はい、その方向でお願いします!!」


おれは思わず彼女の手を握ってしまった。


「‥‥‥キョウシロウ殿、これは何だ?」

「あ、すいません」


おれは急いで手を放そうとしたが、彼女がグッと握り返して来た。


初めて握った女性の手は思っていたより力強くてちょっと痛かった。爪が刺さって。


「頼みます。キョウシロウ殿、それで霊薬は?」


手が離れた。

ああ、痛かったけどもうちょっと握っていたかった。


「あ、はい持って来ます」


保管庫移送しといて正解だったな。


おれは転移しようと魔石湖に備蓄している自然回復薬をイメージした。


「あれ?」


手元に薬瓶が現れた。


「おお、これがそうか!!」

「あえ、あの、あれ‥‥‥はい」


混乱しながら薬瓶を手渡した。


今、おれ見えてない場所から手元に転移させた。

どうやって?

というかなんでできた?


いや、今は考えてる場合じゃない。というか人前だと考えるの苦手だ。


「では村に」

「おいちょっと待て!!」


おっさんに怒鳴られた。

ひゃぁう!! 何ですかー!!


「『荒らし喰い』はここに捨てていくのか?」


ああ、それか。


「はい、今、埋めます!!」

「違うわ!!」

「埋めるな!!」

「非常識すぎるだろ」


ひどいよぉ。そんな一斉に怒鳴らないでよぉ。


狼狽えているとウィズが説明してくれた。


一言で言えば、モンスターベアの素材は金になる。

解体ができないからお任せした。


さぁ、『転移』で村へ!!

とはいかなかった。


おれはウィズたちと共に森を進み、平原を抜け、丘の登り、村へと下ることになった。


『転移』はおれ一人しかできないし、おれだけ先に村に行くと言っても証明できない。モンスターベアの素材は置いて来たから逃げるとは思われないだろうが一人楽をするのは気が引ける。


おれは過信していた。

レベルが上がって体力も上がったはずだから余裕で突いていけるはず。


だが、おれは異世界を舐めていた。

獣人の行軍の速さを。

己の運動神経の無さを。


「大丈夫か、キョウシロウ殿?」

「はぁ、はぁ、ら、らく、楽勝だね!! げは、げははっ!!」



村に着いたのは丸一日経った夜だった。


おれは村の入り口で力尽き、そのまま意識を失った。



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