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第12話 疑いの報酬①

 通話を終えると、ポピーシードはしばらく目を閉じて、心が激しく動揺したときにいつも思い出すことにしている記憶を反芻した。メルバ家の家事手伝いのひとりだった彼女は、ジョージ・メルバの末の息子パーシバルが七歳を迎えたのを機に解雇されることになっていた。たくわえも多少はあり、生活にはなんの支障もない。ただ、二十年近く仕えたメルバ邸を離れるのは、少しさみしいと感じたことは事実だった。だがメルバ家にもう自分の居場所はない。上の子供ふたりも手がかかる年ではなく、パーシバルにはどうやら特別な頭脳があり、普通の家庭教師はもはや必要ないことがわかっていた。


 ジョージと共にそのことを伝えに行ったとき、パーシバルは風邪ぎみでベッドにいたが、今月末でお暇する旨を告げたとたんに飛び起きてポピーシードの手を取った。

「いやだよ! やめないでポピー」せきこみながらパーシバルは懇願した。「お父さん、ポピーを止めて! そうだ、ぼくがポピーのお給料を払うから、ずっとここにいてよ。ねえ、おねがいだから……」

 パーシバル・メルバが七歳にして、父親にはじめてこねた駄々だった。

 二時間泣きわめいてパーシバルは風邪をこじらせ、長々と寝込む羽目になった。そのあいだに考えて、ポピーシードはやはり一度暇をもらうことにした。半年の休暇のあいだに勉強をした。秘書に必要だとされるあらゆる資格の証明書を携えて、ポピーシードはメルバ家の扉を再び叩いた。

「お給料の交渉をしよう。好きな金額を書いてくれ」小さな手でペンを渡してくるパーシバルは、せいいっぱいまじめにやろうとしていたものの、途中で笑いだしてしまった。「今日からポピーはぼくの秘書だ。やったあ!」


 それ以来ずっと、若き生物学者の個人秘書を務めている。ポピーシードにも子供がふたりいる。たいした特技もない自分が、子供たちの学費を最後まで出してやることができた。あのとき涙ながらに差し伸べられた手があったからこそ。

 ポピーシードは目を開けて、電話をかけ始めた。

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