第18.5話 羊羹 YOKAN ‐食べるべからず‐
ファッジが宅配便で届いた荷物を見ながらうなっていると、部下に声をかけられた。
「どうしたんですか?」
「見りゃわかるだろ。ギフトが届いたんだよ」
開かれた段ボールの中には、きっちりと包装紙にくるまれた紙箱が入っていた。
「よかったじゃないですか」
「よかないよ」ファッジは浮かない顔で包みを取り出した。細長い箱が五本入っている。「いつものあれだ」
「なんです?」
「羊羹」
「ヨーカン?」
「日本のお菓子。めちゃくちゃ甘くてカロリーが高い。おれの戦友が日本に行くと、毎回送ってくれるんだよ」
「大好物じゃないですか。そういう、チョコバーとか、ハルヴァとか、そういうギュッとしたお菓子」
「よくわかってるじゃないの」ファッジは深いため息をついた。「大好物だから困るんだよな」
「なんでですか? ダイエット中?」
「願掛けってわかるか?」テーブルにほっぺたをくっつけて、物憂げに羊羹をつつきながらファッジは説明した。「これも日本の風習なんだけど、『誓いを果たすまではこれをしない』っていう、自分なりの決め事だ」
「ははあ。つまり、なにか果たしたいことがあって、それが終わるまでヨーカン禁止令を自分に出したってことですか?」
「理解が早くてよろしい」
「なにを果たしたいんです?」
「それは他人には言っちゃいけないことになってる」ファッジは箱のひとつを部下へ渡した。「やるよ」
「うまいんですか? これ、材料は?」
「うまい。材料は甘い豆」
「豆かあ、うーん」
「先入観を外して食え。コーヒーに合うぞ。栄養たっぷりで非常食に最適だ。登山とかに持って行ってもいい……そうか!」ファッジがいきなり大声を出したので、部下は飛び上がった。「いくらでももつんだから、取っておきゃいいのか!」
ファッジが空きロッカーを勝手に使って大量の羊羹を隠し持ち、のちにそれがバレて物議をかもすのは、まだ先の話であった。
(第18.5話 おわり)