第17話 インタビュー・ウィズ・クリーチャー②
◇
キアヌ・カーターがあまりにも落胆しているので、ハニーはおれで悪かったなと言いたい気持ちに駆られた。ハロウィーンのときはもっと生意気、もとい、元気だったが。実際に対面した銃整備士キアヌは、痩せぎすの少年だった。紫外線に極端に弱い体質だと聞いていたが、たしかに、日の光とは無縁そうな青ざめた顔をしている。
キアヌは貴重な面会時間を一分近くもじもじしてドブに捨てたあげく、「な、なんで今日、メルバ、来ないんですか?」と無駄な質問で会話のスタートを切った。
「さあ、忙しいんだろ」ハニーは肩をすくめた。行って来いと言われただけなのだが、キアヌの絶望の表情を見ると自分に非があるような気がしてくる。「今やメルターのメインの運用者はおれだし。おれが説明聞いた方が早いだろ」
「そ、そうですね。理解」キアヌはしょんぼりしながら、脇に置いた袋から資料を取り出した。「それじゃ……説明、始め、ます。ちゃんと、聞いてってね」
◇
〈3〉
ケース:〈キャタピラー〉
名前:クラーク・ニシ
性別:男性
年齢:五十四歳
職業:通訳
被害にあった場所と時間:九番街、四月十九日
Q.なぜその場所にいたのですか?
「病院を出たところでした」
Q.ビターに吞まれる直前はなにをしていましたか?
「家に帰ろうとしてたのはたしかなんですけど。えーと、病院には検査結果を聞きに行ったんです。胃ガンのステージ二だって言われて、頭が真っ白になってました」
Q.ビターに吞まれているあいだ、なにを感じましたか?
「薄暗かったのは覚えてますが……」
Q.そのあとのことはどうですか?
「気がついたら、検査結果をきいた病院に逆戻りしてましたよ。あれ? って感じです。息子に迎えに来てもらって帰りました。具合? ああ、今はけっこういいんですよ。治療がうまくいっています。ガンって聞いたときはやっぱりショックだったけど、そんなに気を落とすな、大丈夫って、あのときの自分に言ってやりたいです」
「どういうのだっけ、これ」
「メルター・ドラジェノフを初めて使った案件だね」
「ああ、ハニーが上から撃ったやつ。いきなり行っちゃってびっくりしたよ」
「今振り返ってみると、ビターがだれかに持ち去られてもおかしくなかったな」
「あぶな~。でも、この一件でハニーを置いてくれることにしたんだよね」
「当時のぼくらに足りないタイプの人材であることはわかったからな」
〈4〉
ケース:〈シーキューカンバー〉
名前:ジェイコブ・ミラー
性別:男性
年齢:十八歳
職業:学生
被害にあった場所と時間:ワシントン・アーチ周辺、四月二十四日
Q.なぜその場所にいたのですか?
「通学路なので」
Q.ビターに吞まれる直前はなにをしていましたか?
「ぼーっとケータイとか見てたと思います」
Q.ビターに吞まれているあいだ、なにを感じましたか?
「あー、ちょっと覚えてません」
Q.そのあとのことはどうですか?
「いやそのあとが……。念のため行った病院で脳検査したら腫瘍が見つかって、いろいろ大変でした。入院とか手術とか。おかげで留年ですよ。いや、留年は前から決まってたか……そうだ、あの日は留年が確定した日でした。さんざんな日だったけど、病気がわかって早めに治療できたんだから、ま、結果オーライですかね」
「この人も病気がわかったんだね」とミント。
「不幸中の幸いだ」どこか上の空でメルバが返事した。
次は、インタビュー映像がなく、代わりに文字だけ打ったスライドが流れてきた。
〈5〉
ケース:〈オクトパス〉
名前:エヴァンジェリン・カー(殺し屋アンゼリカ)
性別:女性
年齢:二十九歳
職業:治安維持業
被害にあった場所と時間:ソーホー、四月二十四日
備考:弁護士を通じて書面回答
Q.なぜその場所にいたのですか?
仕事
Q.ビターに吞まれる直前はなにをしていましたか?
残業
Q.ビターに吞まれているあいだ、なにを感じましたか?
天国(?)
Q.そのあとのことはどうですか?
地獄
「ソーホー地区で暴れたビターだったね」
「強敵だったな。それにしても、なんてすがすがしい回答だ」
「無視されるかと思ってたから、意外だった」
「仮にもカタラーナが寄越した殺し屋だけあるな。今刑務所に収監中なんだっけ」
「車を爆破した罪でね」
「なんで天国にクエスチョンがついてるんだろう」
「天国だなんて!」ミントがぶつぶつ言った。「あたしは最悪だったんだけどな」