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第16話 グッド・バッド・ドロイド⑦

 ハニーはガニメデの店主から、背中の板状部品、自律メンテナンスパック、汎用マイク、短針銃のカートリッジ五箱を買い上げた。

「いろいろやってもらってありがとうなあ」

「また寄るから、もし新しいのが入ったら取り置きを頼む」

 ガニメデのドアを押して、暮れの百九丁目に踏み出す。腕の中の紙袋の重さが、じんわりと全身を巡る。家まで走って帰りたい気分だ。でも、その前に、アナとガトーに報告を入れたい。


 ちょうど花屋ではアナが、先が鉤になっている長い棒を使って、シャッターを半分ほど閉めたところだった。

「ミスター、お疲れさま」アナはハニーの手荷物を見て笑顔になった。「収穫があったのね! よかった。あの、約束のものも、持ってきたのだけれど。ちょっと待っててね」と、小走りで店の裏手に行った。

 待っている間、ハニーはガトーとふたり、店先で立っていた。ガトーは今日も売れ残りの切り花入りのバケツを持っている。それを見て、ふと気がついた。

「ガトー、手、どうした?」

 右手に、ざっとこすれたような跡がある。袖口で拭ってみても、薄くはなるが消えない。傷になってしまっているようだ。

「どこかで引っかけたのか?」半球型の頭部を見上げる。「ちゃんとアナに言って、磨いてもらうんだぞ」

 返事はなかったが、ガトーはやや身じろぎした。アイカメラも一度点滅したようだ。了解しているだろうと勝手に納得した。“我々は自我があることを特に喧伝しない”――そうだった。おまえたちはそれでいい。

「お待たせ!」とアナが戻ってきた。台車を押して。段ボール箱が二つ乗っていた。アナはハニーの驚いた顔を見て笑い、「台車、お貸しするわ」といたずらっぽく言った。





 ハニーは部品がぎっしり入った段ボール箱を部屋に運び込んだ。思わず全部もらってきてしまったが、まず、ガトーの型番を確認して、そこから兌換性を調べよう。ガトーはアナの父親の作だというが、基礎にした市販品のことを何度か口にしていた。それをたしかめて、部品が使えるかどうかを判断するしかない。先走りすぎた、とハニーは自分を戒めた。あまり期待しないようにしよう。アナたちと会ったのは偶然の出来事だ。部品が合わなくてもしょうがない。


 パソコンを立ち上げる。たしか型番はGT……いくついくつ、ロシア製の……とキーワードを打ち込む。GT、ロシア、アンドロイド。検索結果ゼロ。もっと細かくガトーのことを聞いておくんだったと思いながら、検索ワードを変える。ガトー、アンドロイド。目ぼしい答えはなし。Gをロシア語アルファベットに替えて、ГT、アンドロイド……出てこない。GTに戻して、ロシア製、マシンと付け足して画像検索する。煩雑な結果の中に、それらしい画像があった。たくましい銀のドロイド。これだ。

 メーカーの商品ページのようだ。自動で英語翻訳された文には、生産終了とある。GT07-A。重作業用パワードスーツ。

「……パワードスーツ?」ハニーは思わず口にした。

 GT、ロシア、パワードスーツで検索すると画像がゴロゴロ出てきた。ガトーによく似た銀色の機体の、胸板の部分が開いて、中に人が乗り込んでいる様子が確認できた。重労働用、介護や農作業に最適。肉体の負担を軽減します。驚くほどの頑丈さで着用者を守ります。防水、防塵仕様。素手と比較して十倍のパワー、細かい作業性も確立。自律行動機能付き。

 自律行動機能というのは、人が着なくても単体で動かすことができるということのようだった。GT07-Aがトラクターの後ろからゆっくり歩いてついてくる動画が見られた。ガトーの歩き方そのものだった。

 アンドロイドではなく、パワードスーツだったのか。よく思い返してみれば、アナは「ガトーはアンドロイド」とは言ってないような気がする。自分の思い込みだ。脱力しかかった。使えない部品がないとまだ決まったわけではないが……。


 トラクターの後を追う動画をそのまま見ていると、GT07-Aが農作業を手伝う映像に切り替わった。りんごの収穫をしている。枝に手を伸ばし、実に手をかけ、もぐ。なにかが気になって動画を巻き戻した。枝に手を伸ばし、実に手をかけ、もぐ。

 その動作を見て気がついた。

 電話を取った。

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