退屈な僕ら
僕はただ、日常に飽きていた。
高校へ入学して、幾許かの月日が流れた頃の暑い夏の日のこと。
日々行われる、汎用性の低い知識ばかり教え込まれる授業、延々と更新されるSNS。
同じ事の繰り返しの人間関係。ウンザリするほどに、どうでもいい痴情のもつれ。
そんなありふれた、「ありふれすぎた」話題が、会話が、僕には苦痛であった。
中でも他人の悪口で盛り上がる、なんてことが反吐がでるほど嫌いで、そんな人達を避けていたら終いには、ひとりぼっちになってたりして、人の醜さを知った。
いいや、みんながそうなら醜いのは僕だけだったのかな。
そうやって、他人に値札をつけて心の中で蔑んで満足している自分にすらウンザリして、絶望した。
自分は他人とは違うんだって、馬鹿な奴とは違って自分は大人なんだって、誰よりも幼い自分に言い聞かせて自我を保った。
それは日々、意味のないことを教え続ける教師よりも、ロボットのように同じ会話を繰り返すクラスメイトよりも浅く、低劣で、哀れに思えた。
僕が望むものはたった一つ。
非日常への逃避行。
説明できない超常現象を起こして、世界を欺いてみたい。
百発百中の占い師になって、バカな信者に崇められてみたい。
ポルターガイストの正体を解明して、みんなに褒められたい。
百鬼夜行に参加してみたい。つまらない人間より、気のいいやつがいれば、友達になってもらいたい。
超能力や霊能力に目覚めるのもいい。
空を飛んでみたい。鳥と並んで飛ぶのは気持ちがいいのかな。
UFOにさらわれて人体改造してもらいたい。そのまま別の星へ行ければなお良い。こんな星、僕はとっくに見限った。
天使や神様に会ったらこんなつまらない世界に落としやがって、奴らが想像もつかない雑言で罵った後、一発殴ってやりたい。
火星に行ってみたい。火星人がいたら、生きてて楽しいか質問してみたい。
大金を拾って、親孝行してあげたい。
画家になって、美しい絵で人の心を動かしてみたい。
誰にも真似できないような才能で、みんなに認められたい。
一日中、空を眺めていたい。
温かい布団で、母の腕の中で眠りたい。
愛する人と、触れ合いたい。
教師みたいに、いろいろなことを人に教えてあげたい。
クラスメイトみたいに、普通に生きてみたい。
僕は間違ってないって、認められたい。
タイムスリップして過去の僕に会うのも悪くないかもな。
小さな頃は、きっとみんなのヒーロになるんだって、困っている人を助けて、尊敬されて、みんなに褒められて。そんな人間になるんだと思っていた。
ガキの自分は今の僕を見て何を思うんだろう
彼の目には、きっと謝っても謝りきれないほど、つまらない人間に映るのかもしれない。
そんなの見せられたら首を括るかもな。
いいや、せめて僕の手で終わらせてあげたい。
そしたら今の僕は、存在しなかったことになれるかな。
あれは、そう。夏休みに入る前の月あたり。
「お盆の夜、この町で一番高い山の山頂で流れ星を見ると、あの世から還ってきた人と入れ替わりで「あの世」に行けるんだって。」
そしてお盆の終わりと共に再び死者と生者は入れ替わると。つまりは盆の数日間、臨死体験をするらしい。
そんな話を小耳に挟んだ。無論、学校にはつきものの、学校の七不思議だとか、その類だとはわかっていたけれど、非日常を求める僕にとってその噂は、これ以上ないほどに惹かれた。
どんな偉人も、探検家も冒険家も、旅人だって、行ったことはあれど、還ってきた者は誰の一人だっていない。死後の国。
それは、どんな天才も学者も、哲学者だってそこがどんな場所なのか説明することはできなかった。
こんな性格になった頃からその場所について強烈な興味があった。その謎を解明するのは、あまりに簡単過ぎた。ただ、首を括るなり、身を投げるなり。
たったその作業だけで解明できてしまう。実行に移すのに足りないのは勇気だけ。生憎そんな勇気を持ち合わせていなかった僕はこうしてダラダラと生き続けている。
何はともあれ、その噂を試すのに、さほど悩むこともなかった。本気で信じてたわけじゃないし、本当なら本当で人類の永遠の謎に近づけるのだから。
或る8月の夏の空に浮かぶ漆黒の夜空に、僕は光を見る。




