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スキルー2

 俺が深く考え込んでいると察したのだろうか、メアが声色を明るくする。


「それより、今日の目的のこと考えない?」


 ……それもそうだ。他人事のようになってしまうが、過去は過去。今はもう壁ができたおかげで安全なのだ。触れてしまったことは悪いとは思うが、俺が暗くなってもどうにかなることではない。


「……あぁ、そうだな。気を取り直してまずはスライムを探そう」


「えぇ。スライムならすぐみつかると思うわよ。あいつら、たぶん一番たくさんいるモンスターだもの」


 街の門から続く一本道を歩きながら周囲を見渡す。道といっても舗装されているわけではなくてただ地面がむき出しになっているだけだが。


 街を出て数分歩き、ある程度街から離れたところで、水色のプルプルとした物体が数個、地面に転がっているのを見つけた。


「でたわ、こいつがスライムよ」


 そう言いながらメアがどこからか拾ってきたのだろう、木の棒でつつく。


 すると、刺激に反応したのか、スライムたちがモゾモゾと動き始めた。


 正直、俺が思っていたスライムとは違う。なんというか、丸い目玉が二つついていて、口もある、そんなスライムを想像していたのだが、こいつらは家庭の実験で作られているようなスライムだ。


 若干がっかりしていると、突然スライムたちが周囲に飛び散って俺を囲んだ。


「じゃあ、私は離れてみているわね。スキル、どんなものか楽しみだわ」


 メアがスライムたちの包囲からジャンプで抜け出す。よくもまぁあそこまで軽々と飛べるものだ。……ステータスによって可能になるなら、俺にもできるとは思うが。


 いや、ここに来て思い出したが、スキルとはどのように発動させるものなのだろうか。アイラも名前以外詳しく知らないと言っていたし、今聞いてどうにかなるものではない。


「しまったな……、スキルの発動方法くらい見つけておくべきだったか」


 スライムたちはまだ俺の様子をうかがっているようだったが、いつ襲ってくるかわからない。


 クエストの難易度からして、おそらく最弱クラスのモンスターだろうから、攻撃されても問題はないだろうが、ベタベタした粘液をつけられるのはごめんだ。


 いくら考えてもスキルの発動方法なんてものは思い浮かばない。というか、感覚的にどうなったら発動したと言えるのだろうか?攻撃スキルなら目に見えて何か起こるのだろうが、メアの言う通り俺のスキルはそうではないだろうから、わからない。


 仕方がないので、スキル云々の前にスライムたちを何とかすることにする。


 それに、そもそもスキルは経験の中で発現、体得するもの──俺はそうではないが──だ。そのうちわかるはず。


 まず、スライムたちがどのように俺を囲っているのか判断する。


 ──前に二匹、右に一匹、左には二匹。


 後ろには──


 俺が後ろを見ようとすると、頭が後ろを向くより前に、何かが脳みそを刺激したような気がした。


「──?……なんだ今のは」


 異様な感覚だった、まだ視界を向けていないのに、自分の後ろが見えたような感覚。


 はっきりとしたものではなかったが、その瞬間、俺は確かに後ろにスライムがいる(、、、、、、、、、、)と感じた(、、、、)


「……これが、俺のスキル……?」


 もう一度、スライムたちに集中しよう。もう一度、あの感覚を得られるかもしれない。


 ──まず、前に二匹、右に一匹、左には二匹。


 ここまではさっきと同じ。


 ──問題は次だ。


 ──自分の背後の感覚を研ぎ澄ませる。ここで敢えて目を閉じる。視覚をシャットダウンし、他の感覚に集中力を注ぐ。


 脳にさっきと同じものが走る。そこでさらにそれに集中する。──見えるはずのないものが見えるという感覚。


 はっきりと、背後にスライムの存在を感じた。──三匹。


 目を閉じているはずなのに、最初に確認した前方と左右のスライムの位置も解る。


 これで確信した。これが俺のスキル。


 ──≪把握(グラスプ)


 目を開く。把握していた位置と実際の位置がぴったりと重なる。


 さらに、どうしたことか、どこから倒せばいいか、どう動けばいいかもはっきりと分かる。


 最初に正面の二匹に切りかかる。ナイフの正しい扱いというものはよくわからなかったが、スライムの流体質の体を二つに分断する。スライムの体はくっつくことなく、弾けて消滅した。


 一匹目を倒して、すぐ隣にいたもう一匹を同じように処理する。


 二匹を倒したところで、俺を取り囲んでいたスライムが一斉に後ろからとびかかってきた。


 こうなるのも把握できていた。俺はスライムの位置を視覚でとらえることなく、身を反転させると同時に、その勢いを利用してナイフを横向きに振り抜いた。


 ナイフの刃がスライム達たちの体をなぞるように捉える。


 とびかかってきたスライム六匹は全部、きれいに両断され、先の二匹と同じように消滅した。


 ふぅ、と息をついて集中を解く。


 久しぶりにここまで集中した気がする。慣れていないだけだろうか。


 俺が気を休めていると、メアが駆け寄ってきた。その顔は驚きを隠せていないようだった。


「はやかった……というより、スマートだったわ。まるで全部解っていたみたい」


「その通りだ。どうやらこれが俺のスキルらしい。集中すれば相手の位置を把握できるし、行動もある程度読める」


 アイラの言う通りだと思った。これはかなり強力なスキルだ。俺が武器の扱いにも慣れれば、少しであれば各上の相手にだって通用するのではないか?


 状況の把握や相手の動きを把握できれば、戦いにおいてかなりの優位を得られる。俺は以前の世界で嫌というほどそのことを知った。相手が何処にいるか、どのような動きが得意か。状況、情報をより多く持つ方が勝機を得やすい。


 そのために苦労したものだ。五感を鍛えようと努力をした。反射神経も。周りからはたかがゲームにと言われることもあったが、何に全力を出すかは人の自由だ。


 そして俺は、そのおかげでこのスキルを手に入れることができた。万々歳だ。


「なるほど……。戦況の把握ってことね」


「そうだな。スキルの確認もできたし、クエストも完了だ。……本当に簡単だったな」


「スライムですもの」


 いま思うと、もう少し強いモンスターで試してもよかったとは思うが、それは今度の機会としよう。


「……帰るか」


「いえ、まだお昼だわ。今帰ったら、夕方まで暇になると思うのだけれど」


 言われてみればそうだ。テルームさんの鍛冶が終わるのが夕方で、今はまだ太陽が高く昇っている。


 今街に戻ってしまっては、メアのいう通り暇を持て余すことになるだろう。


「帰らないのはいいが、街の外に用はないぞ」


「私に案があるのだけれど」


「わかった、付き合おう」


 ありがたいことだ。時間は余らせていても仕方ない。


 彼女と二人で行動するとなれば、ボロを出さないように気を使わなければいけないが、なんだかんだいって大丈夫だとは思う。


 それに、先程のように自分のペースに持ち込めればまず問題ない。


 まぁ、お互い探るようなことをしないのが一番いいのだが。


「それで、案とはなんだ」


「タカミネ君のスキルを見せてもらったことだから、私のスキルも見せないといけないわよね」


「……なんだ、スキルは基本秘密にするものなのか?」


 メアの言い方からして、お互いのスキルの情報を等価交換するようなイメージを持った。


「そういうことではないわよ。ただ、私も見せたほうがいいかしらっていうぐらいだわ」


「なるほどな」


 まぁいい。実際のスキルの情報がどのような価値を持つものだとしても、俺はスキルを知られたくないわけでもないし、彼女も言いふらすようなことはしないだろう。


「そうね……、私のスキルを見せるなら、もっと大きめのモンスターの方がいいわ」


 メアがそう言ってあたりを見渡す


「うーん……、やっぱり、街の周りにはほとんどモンスターがいないわね……」


「あぁ。もう少し離れたところにならいるだろう。歩くか」


 大き目のモンスターを探して街から離れるように歩き出す。


 モンスターたちの勢力や体系はわかっていないが、森や洞窟などの方が、多く生息しているのだろう。そしておそらく、そういったモンスターの方が強い。


 これも予想だが、モンスターにも集団はあると思うし、統率を執るようなものもいるはずだ。安易に言ってしまえば、魔王やその四天王が王道だ。他にも群れのリーダーなどが考えられる。


「やっぱり、すぐには見つからないわね……。この辺には小さい雑魚モンスターしかいないし、どうしようかしら」


 道に沿ってしばらく歩いているが、やはり大きいモンスターというのは見つからない。


 あまり遠くに行っても帰るのが大変だし、諦めるのもありかもしれない。


「なぁ、今日は諦めても──」


 俺がそう言おうとすると、道の向こうからものすごいスピードでこちらに走ってくる馬車が見えた。


「なにかしら、普通あんなスピードださないはずなのだけれど」


 不思議そうにそう言っている間にも馬車はどんどんこちらに近づいてくる。


 後ろに大きな荷物をたくさん積んでいるところからして、行商人だろうか?小太りの男がこちらに向かって何か叫んでいる。


「おぉーーーーい!お前さんたち!冒険者かぁーーーー!?」


「そうでーーーーーす!」


 メアも叫んで返事をする。


 馬車は行商人の顔が見えるほどに近づいてきていた。焦りと恐怖、そして俺たちを見つけたからか、安どのまざっとような表情をしていた。


「どうかしたんですか!?」


 すると、行商人は腕を後ろに伸ばして、指をさしてこう叫んだ。


「助けとくれーーー!礼はしっかりとする!」

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