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スキルー1

 テルームさんが再び店の奥に入ったので、俺たちも店を出る。相変わらず裏通りには人気がない。


 さて、ナイフも手に入ったことだし、クエストの攻略に行くとしよう。


「それじゃあメア、いろいろと助かった。ありがとう」


 俺がそう言って別れようとすると、メアはしっかり俺の後をつけてくる。たまたま移動する方向が同じなだけなのだろうか。確かに俺が向かっているのは街から外へ出る門だし、彼女も冒険者だ。これからモンスターを狩りに行くところなのだろう。


 そう思っていると、メアはこんなことを言いだした。


「タカミネ君。今日は私も同行させてもらえない?あなたのスキル、気になるわ」


「……あぁ」


 結局こうなるのか。嫌ではないが、勧誘のために張り付かれているような気分だった。


 炎竜旅団や森の守護団のあの二人からも同じようにされるかもしれないと思うと、気が重くなった。


 もしかしたらメアは本当に俺のスキルが気になるだけなのかもしれないが。


「ありがとう。ところで、何のクエストを受けたの?」


「スライムだ」


「……え?」


「どうした、スキルの試し撃ちに初の武器の取り扱いだ。雑魚で構わないだろう」


「……それは、そうだけれど」


 メアも、まさか俺がそこまで弱いモンスターのクエストを受けていると思っていなかったのだろう。


 ……もう少し強いモンスターを選んでもよかったかもしれない。


 まぁ、もう後悔しても遅いことだ。クエストの放棄にも金がかかる。もったいない。今日はササッと片づけて帰ってくるとしよう。


「まだ街の外まではかかるし、質問をさせてもらいたいのだけれど」


「あぁ、答えられる範囲でなら答えよう」


「ありがとう。じゃあまず、タカミネ君のスキル名、教えてもらえるかしら。名前なら知っているはずよ」


 やはりか。勧誘ではないが詮索に来たらしい。あらかた、団長からのお達しといったところか。まぁ、教えて損することでもない。


「≪把握(グラスプ)≫だ」


「……聞いたことない。でも、名前からして攻撃系のスキルではないわね」


「あぁ、おそらくな。ただ、Aランクになった途端発現したスキルだ。強力ではあると思う」


 アイラからも、かなり強力なスキルだと伝えられている。どうやらアイラは、冒険者たちのいうステータスよりも、細かいステータスまで見ることができるようだったし、確実だろう。


「Aランクになった途端……ね。本当によくわからないわ。タカミネ君のことは」


「普通はもっと早く発現するものなのか?」


「ええ。まぁあなたの場合、ランクとステータスが上がるのが早すぎてタイミングが被っただけかもしれないけれど」


「イレギュラーがすぎるな」


「本当よね」


それと、と付け加える


「あなたの名前、珍しい響きをしているわ」


 それはそうだろう。俺は違う世界、しかも日本の人間だ。この世界はどうやら欧米の方の名前よりのようなので、珍しがられても仕方がない。


「そうだな。俺の育ったところじゃこれが普通の名前だったんだが」


「へぇー……、そういえば辺境出身って言っていたわね」


 そう言うことで話は通してあるが、問い詰められたらボロがでそうではある。特にこの世界の地名や各地の風習など全く把握していない。


 ハナから「転生しました。女神の眷族です」と言うことができるのならばそれが一番いいのだが、いかんせん女神の制約は厳しい。


 深く聞かれる前に話題を変えなくては。


「俺からも、質問いいか」


「えぇ、いいわよ」


 よし、これで向こうからの質問は防ぐことができた。あとは、街を出るまでこちらのペースで持たせることができればいい。


 そうだな。相手がこちらの詮索に来ているのなら、こちらも相手について聞いておこう。


「グローリア騎士団団長、ベルトロ・インウォーカー氏について聞きたいんだが」


「──聖騎士、ね」


 俺がその名前を出した途端、メアはすぐに反応してきた。


「団長は最強よ、文字通り。SSランクの冒険者の中でも、ステータスだけでなく戦いの技術も最も高い……」


 スエルさんもそう言っていた。他の二団の団員がどういった意見なのかは分からないが、どうやら広く知れ渡っているのは聖騎士最強説ということだろう。


 では、その最強たる所以があるはずだ。スキルや特化したステータス、或いは出生や経歴。俺の様な転生者ではない普通の人間の彼が最強である理由。それが知りたい。


 さらに言えば、伝説と言われる三人の冒険者、彼らの一体どのような意思を継いで団長の座についたのか。


 向こうが俺について知りたいことがたくさんあれば、詮索などする必要はないのだが──俺にも向こうについて知りたいことは同じようにある。


 まずは──。


「団長のスキルとはどんなものだ?最強と言われる実力者のスキルだ。興味深い」


 能力から聞いて行こう。


「団長のスキル……。それは≪能力強化(リーインフォース)≫ と言われているわ。自分のステータスを一時的に強化、補強するスキルよ」


「言われている……?」


 そこが気になった。言われている、ではまるで確かではないように聞こえる。本当のスキルは違うかもしれないということだろうか?それとも、メアが本人の口から聞いたことがないだけなのだろうか?


「えぇ、そうよ。団長のスキルが明かされたのはずっと前の話。団長がまだCランクだった頃らしいわ。……それ以外であの方のステータスでわかっていることは、SSランクの中でも高い、ということだけよ」


 ……そういうことか。メア含め、誰も彼の現在のステータスを知らないと。


 これ以上このことについて聞いても意味がない。次の質問に入ろう。


 詮索しているとは思われたくないので、できるだけ自然な流れで疑問を投げたいと思っていたところに、メアの方から俺が知りたいことを話してくれた。


「でも、団長が団長になった理由は、ステータスだけじゃないわ。──あの方の秩序を最も重んじる意志、それが初代様と同じだったからよ」


「──秩序、か」


「えぇ。団長の生まれは西の王国の公爵家であるインウォーカー家。法に関わる一族の息子だわ」


「なるほど、だから秩序か」


 よくわかった。こちらから質問せずとも答えが得られるとは。それにしても、聖騎士について話すときのメアからは忠誠心?だろうか、尊敬のようなものを感じる。


 ……俺がアイラについて話すときがあるかはわからないが、残念ながらとてもそんな風には話せないと思う。実態を知っている俺からすれば当然ではあるが。


 さらに都合のいいことに、街の外へ出るための門が見えてきた。なんとかぼろを出す前に話を切り上げられそうだ。失礼な付き合い方だとは思うが、仕方がない。


 神殿からはそこまで大きくは見えなかったが、街は割と大きめの壁に囲まれている。三階建ての建物ぐらいの高さだろうか。


「あれも私たちの団長が掛け合って、他の二団の協力のもと建てられたのよ」


「あれができる前はどうやって街を守っていたんだ?」


「雇われた冒険者がずっと見張っていたのよ」


 この壁がなければ街の外と内の仕切りはない。モンスターだって入ってこられるのだ。それをずっと冒険者で防ぎ続ける。この壁ができたことでどれほど楽になっただろうか。


 恐らく違う団でも彼のことを尊敬する冒険者は多いだろう。


「お疲れさまです」


「お気をつけて」


 門番に挨拶をして通り抜ける。


 外に出ると、あたり一面に草原が広がっていた。さわやかな風が吹いている。街に近いこともあってか、軽い運動をしている冒険者や、食事をとっている冒険者もいる。この穏やかな雰囲気では、ピクニック気分になるのも十分わかる。


「壁ができてからは、モンスターも諦めて近づかなくなったわ」


 以前はモンスターはずっとこの街を狙っていたということか。


「なんだ、その……。攻め込まれてしまったこととかは、あるのか?」


 そう聞くと、メアは声を小さくして答えた。予想はしていたが、良い話ではないようだ。


「そもそも、それが原因でこの壁は建てられているわ……」


「……そうか」


「私たち冒険者全員で街を守った。被害は街の外側を少しだけですんだけれど、それでも……たくさん人が死んだわ。戦えない人たちだっている。女性や子供は特に……ね」


 メアがその場にいたということは、壁ができたのはそう昔のことではないのか?メアは見た目からしてあまり年上ではないはずだ。


 なんにせよ、嫌なことを思い出させてしまうとは。


「すまない、配慮がなかったな」


「いえ、知らなかったことだもの、仕方ないわ」


 ファンタジーのような異世界といっても、この世界なりの道理はしっかりとある。モンスターは人を襲うし、抵抗できなければ死ぬ。守ろうとしても守れないものもあるし、人々の心にはトラウマだって植え付けられる。


 美しい、勇ましい冒険譚ばかり並べられると思っていたファンタジーだが、現実になればそればかりではないのだと、実感させられた。

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