三大冒険団ー2
俺がギルドに入ると、多くの冒険者から目を向けられた。昨日の件で有名になってしまったらしい。
多くの冒険者の中に、昨日話しかけてきた内の一人がいたのでこちらから挨拶をすることにした。俺の武器を一緒に考えてもらいたいとも伝えよう。
「おはよう、メア。早いんだな」
「ん。あぁ、タカミネ君、おはよう」
まさか早速頼りにできそうな人物に出会えるとは。
俺ば仮にもAランクだ。武器を薦めて貰う理由としてまさか使ったことがないと言う訳にも行かない。
「突然で済まないが、軽くて使いやすい武器でオススメはないか?」
「武器を変えるつもり?……どうして?」
「なに、最近スキルを獲得してな。それに合わせて装備を新調したいという訳だ」
「珍しいわね、だいたいの冒険者はひとつの種類の武器を使い続けるのに」
言われてみればそうかもしれない、俺のゲーマー仲間がやっていたファンタジー系のMMORPGでも、キャラクターは職業にあった装備のみを着けていた。
「……そうね、軽くて使いやすいのがいいなら、ナイフなんてどう?リーチこそ短いけれど、切るのにも投げるのにも使えるわ」
ナイフか……、サバイバルナイフのような物だろうか、確かに剣や斧、弓と比べては軽いし、扱いもしやすそうだ。
「ありがとう。武器屋で買って、試してみる」
「いえ、私も行くわ。武器のメンテナンスもしてもらいたいし」
「そうか。俺は用がある。待って居てくれ」
ついでにクエストもこなしてみようと思う。掲示板の前に立つ。
掲示板には、難易度別に分けられた様々なクエストが貼りだされていた。
俺はその中から、一番簡単そうなスライムの駆除の貼り紙を剥がし、受け付けへ持っていく。
「クエストの受注を」
俺がスライム駆除の依頼用紙を差し出すと、受付嬢はキョトンとした。
「タカミネハヤトさん……ですよね?」
俺を担当したのは、冒険者登録時と同じ受付嬢だった。
「あぁ、そうだが」
「えぇーと、こちら……難易度最低の簡単なものですが……」
Aランクの俺がこんな簡単なクエストを受けると思っていなかったのだろう。Aランクといえば、もっと難易度の高い強力なモンスターを討伐するものなのだから。
「なに、スキルの試し撃ちだ。クエストが難しくては、失敗するかもしれん」
「あ、あぁ!そういう事でしたか!失礼しました。ハンコ押させてもらいますね」
ポン、とハンコを押すと、用紙を俺に返す。俺はそれを受け取って受け付けを後にした。
「すまない待たせた。行こう」
「ん。あぁ」
メアと共にギルドを出る。
武器屋は多くあるらしいが、その中でもメアがよく利用する店を紹介してくれると言うので、そこへ向かうことにした。
道には、俺がギルドに向かっているときよりも人が増えていた。しかし、人混みの中を歩くことはなく、脇道に入る。
その店は、大通りから少し外れた路地の一角にひっそりとたたずんでいた。
「大通りにないから人がなかなか来ないのだけれど、その辺の人気の店より良いものばかりそろっているわよ」
メアはそう言いながら店のドアを開ける。ドアにつけられた鈴が入店を告げる音を鳴らす。
すると、店の奥から小柄だが屈強そうな筋肉を持った男性が顔を出した。
「おう、シアールか。今日は初顔もいるな」
「はじめまして、タカミネハヤトと言います。メアさんにオススメの武器屋として紹介していただきました」
「そうかい。俺はテルーム。ドワーフだ。今後ともよろしく頼むぜ」
スキンヘッドの彼は、顔に傷があり、手も火傷のあとだらけだった。その傷からして、彼は鍛冶師でもあるのだろう。
ドワーフの造る武器は質がいいとスエルさんから教えてもらった。期待ができる。
「そんでシアール、ハヤト、今日は何の用で来たんだ?」
「私は武器のメンテナンス、タカミネ君はナイフを買いに来たの」
メアは応えながらカウンターに自分の武器を置く。片刃の長身の剣だった。どうやら、刃は数枚が組み合わさってできているようだ。
「そうかい。まかせな」
テルームはメアの武器を受け取ると、いったん店の奥に戻って、再び出てくると、俺のところへきた。
「そんでハヤト、お前さんは確かナイフだったな。初心者か?」
「はい、まともなものは……。辺境でモンスターを狩っていた頃は、だいたい即席の粗品でした」
俺がまともな武器を使ったことがないと知ると、テルームは嬉しそうにこう言った。
「初めてのパートナーになる武器に俺のを選んでくれるってわけか!そうかい、そんじゃあ、特別対応してやるぜ」
彼が自分の腕をポンポンと叩く。
「まさかテルームさん、タカミネ君のために打つつもり?」
「あったりめぇよ!腕が鳴るぜ」
メアは、はぁ、とため息をつく。
「タカミネ君、今日はもうクエスト受けちゃったのよ。テルームさんが武器を打つとなると、時間かかるんじゃない?」
「それなら、その辺のナイフを今日は貸してやるぜ。それでいいだろ?夕方には完成するだろうから、また来てくれや」
それだけ言うと、ドワーフの店主は店の奥へ行ってしまった。
メアが叫ぶ。
「ちょっとー!私のメンテナンス、今してもらわないと困るんだけれど!」
すると、店の奥からも大声で返事が来た。
「わーかってる!即行で終わらせる!」
もう一度、メアが深いため息をついた。
メンテナンスはどうやらすぐ終わるようなので、メアと二人で貸してもらうナイフを選ぶことにした。
店内の棚には列ごとに様々な武器が置いてあった、両手剣、斧、ハンマー、片手剣、こん棒、さらにはヌンチャクまである。
少し奥の列に、ナイフがあった。
「テルームさんが造ってくれるからには、いいものができると思うわ。今日借りるのは適当に選んでいいと思う」
メアが棚から一本のナイフを手に取る。きれいに磨かれた片刃のナイフだ。武器の良し悪しは分からないが、一目で作りにこだわりを感じられた。
「あぁ、これでいいな」
メアからナイフを受け取る。……軽い。ナイフと言っても、バターナイフほどしかないその軽量さに驚く。
「……すごいでしょ。たぶんそれ、切れ味もしっかりしているわよ」
刃も薄い。これほどの物を作っているのに、一体なぜ大通りに店を構えないのか。
「……テルームさんね、大通りだと外がうるさくて集中できないって、こだわっているのよ」
「なるほど、それはまたすごいこだわりだな」
「稼ぎの面からして、大丈夫なのか心配になるわ」
メアがぼやいた丁度そのタイミングでテルームさんが店の奥から戻ってきた。
「おう小娘、何か言ったか?」
「いいえ?何も言っていないわよ」
しらをきりながらメンテナンスの終わった彼女の武器を受け取る。刀身は丁寧に磨かれ、光の反射が強くなっていた。
「うん、いい感じね。いつもありがとう」
「なぁに、俺は鍛冶屋だ。これくらいどうってことないぜ。お代はいつもと一緒だ」
メアが代金を払う。そういえば、俺のナイフの代金はどうなるのだろう。流れで新しく造ってもらうことになったが、あまり高いと俺には払えない。
「毎度。そんでハヤト、お前さん金はどのくらいある?」
「恥ずかしながら、特注品レベルの代金を払えるほどは持ってません……」
分割払いにしてもらうか、諦めるか。
ただ、幸いランク的に報酬の良いクエストは受けられるはず。稼ぎつつ払わせてもらえるならそれが一番いい。
「そうかい。……そうだな。代金は稼ぎつつ払ってくれればいいぜ。あとメンテナンスは絶対俺のところに来ること。つまりは、常連になれってこった」
おぉ、なんと俺が理想とする条件を提示してくれた。それほど俺の初めての武器が自分のものだということが嬉しいのだろうか。
気持ちに応えるためにも、なるべく早く使いこなして、代金も即行で払おう。
「ありがとうございます!では、また夕方に受け取りに来ますね」
「おう、いい作品に仕上げてやるぜ」