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三大冒険団ー1

 神殿の中に戻って、ふと思った。ここは神殿のどこなのだろうか。出入りがともに魔法陣だったので、把握出来ていない。


「おかえり、誰にも見られなかった?」


「あぁ、もちろん。ところで、ここは神殿のどこなんだ?」


「部分的には神殿の地下。空間的には神界よ」


「どういうことだ?」


 神ならそれだけで通じるとしても、俺にもわかるように説明して欲しい。あぁ、スエルさんの分かりやすい説明が恋しくなってきた。


「あー……。神殿の地下を世界から切り離して、神の世界にくっつけちゃったってこと。向こうには結界を張って、聖域として立ち入れないようにしたわ」


 俺の表情で察したのだろうか、急に分かりやすいように説明しなおしてきた。


「最初からそう説明してくれ」


「しょうがないじゃない、今まで誰かに説明するなんて機会、なかったんだもの」


 少し寂しそうにそう言うので、これ以上なにか言うのはやめておこう。俺以外に眷族は居ないようなので、彼女はかなり長い間一人だったのだろう。


「すまないな。……飯にするか」


「待ってましたぁ!」

二人でテーブルについて包みを開ける。中には香ばしい匂いの丸焼き肉が二つ、入っていた。


「これよこれ!ひっさしぶりに食べれるわ!」


 いきなり齧り付く。ずいぶんと嬉しそうだ。……立場上、街には気安く出れないのだから、どこかの店に入るなんてもってのほかなのだろう。滅多にないこういった食事に興奮するのもわかる。


「そんなにうまいか」


「おいしい、わよ!あん、たも、食べてみな、さい?」


 なんてことだ、この女神、口にものを入れながら喋っている。モグモグという擬音が目に見えるほど口を動かしているので、うまく喋れないようだった。


「下品だぞ……。いただきます」


 ガブリ、と食いちぎる。そのとたん、口いっぱいに肉汁が広がり、香ばしい匂いと共にうまみが広がる。程よい焼き加減と絶妙な味付けだ。


「これは……うまいな」


「はぁー。これからはいつでも食べれると思うと、最高ね!」」


 まぁこれだけうまいのだからお使いもしてやろう。……酒場で俺だけ食べてきてしまってもいいのだが。


「堪能しているところ悪いが、質問がある」


 そういえば、ギルドで冒険者登録をしたときに、確認程度ではあったが、信仰する神について問われたことを思い出した。


「この世界に、アイラ以外の神は存在するのか?」


「私と相反する神──邪神ならいるわよ。今は封印されてるけど」


「邪神を信仰する連中もいるのか?」


「いてもおかしくないわね。あと、実在しない神ならいくらでもいるわよ」


「どういうことだ?」


「この世界中すべての人間が私を崇めているわけじゃないの。中には自分たちで教義や神を作り上げて信仰する人々もいるわ」


 アイラを信仰する人たちにも教義があるのだろう。それをよしとしない人々がいてもおかしくないのは確かだ。


「なるほどな……弾圧とかはないのか?」


 国教のある国では、たいてい他の宗教は認められないし、宗教の違いで戦争も起こりえる。特に、この世界においては世界全体が主にアイラを信仰している。他の信仰者への弾圧があってもおかしくない。むしろ、そっちのほうが普通というものだ。


「ないはずよ。私の教義で禁止しているもの」


 有能な教義だ。まぁ、眷族の俺は全く内容を把握していないわけだが。教典があるなら神殿に置いてあるだろう。今度読んでおくとするか。


「それはそうと、あんた、明日はどうすんの?」


「明日か、何か君から頼まれればそれをこなすつもりだが、この神殿の中をみて回るのもいいと思っている」


 毎日街に出る必要もない。できれば俺は用事のない日は外に出たくない。元の世界でも超がつくインドア派だった。


「えぇ……。外、出ないの?でも私今外に出てもらうような仕事ないのよね……」


 何故かものすごく残念そうにするアイラ。俺が外に出ないと困ることでもあるのだろうか。


「なんだ、仕事がないなら神殿の見回りで決定だな」


「えぇー!?ちょっと待ってよ!モンスターと戦ってみたい、とか……ないの?」


 そう言う彼女の目線は机の上の料理にくぎ付けだった。理解した。酒場の料理をまた食べたいのか。しかし、彼女の謎の女神プライド的に、また食べたいからお使いにい行きなさい、というのは憚られたようだ。


 ……そういえばさっき、これからはいつでも食べれると思うと最高。などといっていたような……。まぁこの女神のことだ。どうせ覚えていないだろうし、その時々で考えることも変わるのだろう。


「ない。……決まりだな。明日俺は神殿から出ない」


「ちょっと待ってよぉー!能力の試行とかやってみなさいよぉー!」


 どれだけ食べたいんだ。素直に言えばいいものを。ここまでくると面白さすら感じる。そうではあるが、そろそろ助け舟を出してやろう。


「はぁ……。それならそれを命令すればいいだろ」


 途端、アイラはそれだ!という反応をして、さも自分が思いついたとでも言うように自信満々に言うのだった。


「命令よ眷族!あんたの能力、試し撃ちしてきなさい!」


 女神の仕事を手伝うとは何だったのか……。仕方ない、能力の試し撃ちもこれからのための仕事とも言えなくもない。ついでに酒場のお使いもしてきてやるか。


 多少、彼女の反応で遊んで楽しませてももらったしな。それにしても本当に面白い反応をするものだ。新しい遊びを見つけた気分だ。


「「ごちそうさまでした」」


 話をしている間に、料理も食べきってしまった。美味しかったこともあって、若干物足りなさを感じる。次はもっと多めに買ってこよう。


 しかし、いつの間にか持たされていた金。あれはどこから来たのだろうか。


「アイラ、金のほうはどうやってやりくりしているんだ?」


「そんなの決まってるじゃない。教徒が礼拝に来た時に置いて行ったり、私に投書するときにより大きな加護を願って払っていくのよ」


 払わせているわけではないようだ。流石に、徴収したお金で自分たちの娯楽のために何か買うというのは気が引ける。


「まぁ、そんなにたくさんあるわけじゃないけどね」


 置いて行く額は、俺たちが神社でする賽銭ぐらいのものなのだろう。酒場の料理二人前で1500アール。1アールも1円もそこまで価値に差はないようだ。これから買い続けるのであれば、いつかそこを尽きるだろう。


「わかった、俺は冒険者でもある。金は俺が稼ごう」


 食べ物以外でも、冒険者として活動していくのなら、ほかにも金のかかることは多いだろう。あるに越したことはない。それに俺はAランクだ、それなりに難易度の高い、報酬のいい依頼も受けられるだろう。


 眷族に養ってもらう女神、なかなか面白い構図ではないか?


「そうしてくれるとありがたいわ。でもまぁ、ノルマとかは設けないから安心しなさい」


「もし設けられたら、辞表を出すとしよう」


 辞表を出したところで、やめさせてはくれないだろうが。


 たとえノルマがあったとしてもそれくらいこなして見せよう。ゲームでもなんでもノルマがあったほうが面白い場合もある。


「そう言えばあんた、モンスターと戦うって言っても、武器がなかったわね」


 言われてみればそうだ、明日街で買うとしよう。


 となると使う武器で悩む。オーソドックスに剣でいいだろうか。いや、短剣か?遠距離で弓もいいかもしれない。


 当たり前ではあるが、そもそも俺は武器というものに触れたことがない。まさかそれで困ることになるとは思っていなかった。


「なぁ、初めて使う武器だったらどれがいいと思う。軽くて扱いやすいといいんだが」


「そんなの知らないわよ。私より冒険者に聞いた方がいいんじゃないの」


 つくづく頼りない女神だ。


「……聞いた俺が馬鹿だったよ。明日は朝の内に出るつもりだ。俺は寝る」


「ん。おやすみ」


 おやすみ、と返事をしてから気づいたが、この神殿内で寝具を一つしか見ていない。目を覚ましたあの大広間にあるベッド一つだけだ。


 仕方がないので、床で寝ることにした。さすがにアイラと同衾する気は起きないし、彼女にも失礼だろう。


 固い床ではあったが、パソコンの前での寝落ちよりましだろう。起きたときの節々の痛みは非常に辛い。


 横になって目を閉じる。床は冷たかったが、自分の体温ですぐに慣れた。インドアの俺が外に出て非日常を体験したせいか、眠気はすぐにやってきた。








                       *








「団長。ただいま戻りました」


「──帰ったか。報告を」


 ──グローリア騎士団、団長室。 聖騎士と呼ばれるその男、ベルトロ・インウォーカーが座する部屋に、私は報告に来ていた。いつ来ても重々しいこの雰囲気には慣れない。幹部として私は日が浅いからだろうか。


「はっ。本日の任務は──」


「そのようなことはいい。私が聞きたいのはあの冒険者についてだ」


 報告を遮った、その言葉に驚いた。


「団長、既にご存じでしたか」


「ギルドのあの場にいたのは卿だけではない。卿よりも前に戻った者から聞いた」


「失礼しました。例の冒険者の名はタカミネ ハヤト。辺境の街出身。年齢はそれほど高くないと思われます。真偽のほどは定かではありませんが、一年でAランクに到達した模様。使う武器や役職は不明。……以上です」


 知っている限りを報告する。


 普段からこの街の均衡を保ち、他団との良好な関係を図っておられる団長にとって、あの冒険者は注意しておかねばならない新参者ということだろう。ここまで興味をお持ちになられるのは珍しい。


「そう……か。興味深い少年だ。今後、動向を監視しろ。……下がってよい」 


「はっ。失礼しました」


 礼をして団長室を後にする。取り敢えず明日の動きは決まった。普段通り依頼をこなしながら、あの冒険者の動向を伺う。


 しかし、騎士団としては監視の様なことをしてもいいのだろうか?コソコソと嗅ぎまわるようなことはしたくない。


 後をつけるようなことはせずに、見える範囲で情報を集めようと決めた。もしはち合ったとしても、堂々としていよう。








                       *








 朝、自然と目が覚める。今は何時なのだろうか。日の昇り具合からして、割と早い時間だろう。そう言えばこの世界の時間はどうなっているのだろうか。一日24時間で区切られていると一番楽なのだが。


「おはよう。起きたみたいね。……今は朝の刻を少し過ぎたくらいよ。そろそろみんな起き始めるんじゃないかしら」


 朝の刻がどれくらいか分からないが、少なくとも24時間制ではないようだ。まぁ、朝の内に起きて街に出るという予定通りではあるので、問題ない。


「おはよう。早速だが街へ出る。土産は昨日と同じでいいな?」


「はいはーい。行ってらっしゃい。お料理しっかり買ってくるのよ」


 前回と同じように魔法陣で転送される。何度か経験しているが、光の中を飛んでいるようでなかなか面白い感覚だ。


 街へ出ると、朝市だろうか?新鮮そうな野菜などの食料が売りに出されていた。


 朝から活気あふれる通りを歩き、数分でギルドに着く。やはりギルドにも既に多くの冒険者が集まっていた。

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