手がかりー1
「メアが手加減していた?」
はい。とセレナは頷き、切り落とされたゴブリンの腕に近づく。
ウズルがメアを看ていてくれると言うので、俺もセレナに続く。
「これを」
セレナが指さしたのは、まだ闇の残る、腕の切断面だった。
「ハヤトさんは巨大スライムの時に御覧になったと思いますが、メアさんのスキルは闇による侵食です。……すぐに飲み込んでしまいませんでした?」
頷く。スライムはすぐに闇に飲み込まれ、食い潰されてしまったのを思い出す。
「しかし、今回はこれだけ腕が残っているほど、闇の侵食が遅いのです」
確かに、切ってからしばらく経っているというのに、切断面で燻っている程度だ。明らかに侵食が進んでいない。
さらに、と続ける。
「スライムの周囲まで確認されたかはわかりませんが、近くにあった草なども一緒に飲み込まれていたはずです。今回も……」
腕を蹴って動かすと、腕の下にあった地面は黒ずんでいて、少ししたら元に戻った。が、周りの地面のようにゴツゴツとした石は無くなっている。
「……このように、周りの物にも多少効果があります」
そこで気づく。
「周りには……まだ他の冒険者がいた」
「メアさんのことですから、他の方々を無事に逃がすことを優先したのでしょう。スキルの効果量を調節し、彼らを巻き込まないようにしたのです」
納得が行く。だから、交戦中でなく、通路へ人々が逃げ込めていて安全だと分かっている所にいたゴブリンは難なく倒せていたのか。
「やや?なんですこれ?」
セレナがなにかに気づく、彼女が凝視していたのはゴブリンの手の甲で、そこには何やら刻印のような物が着いていた。
ギルドで使われていたり、アイラが描いていたりする紋様によく似ている。
「ほかの個体も確認するか」
「ですね!」
丸焦げになったゴブリンの手の甲の炭を払い落とす。皮膚は爛れていたり剥がれていたりしているが、ギリギリ同じ刻印を確認できた。俺が仕留めた個体にも、手の甲にそれは存在した。
「もう随分と普通のゴブリンとは戦っていませんが、こんな刻印のある個体、ボクは見たことないですね」
「つまり、これが巨大化の原因かもしれない。ってことだな」
俺はナイフでゴブリンの手首を切る。骨はやはり硬いが、さっきは余裕が無かったため靭帯のみを切っただけであって、ナイフでも骨が切れないということは無い。
「……ハヤトさん、この大きさじゃ持ち運ぶのは大変です……」
……俺の体ぐらいあるからな。無理か。
「皮膚を剥がせばいいのか」
「なかなか気味悪いですねー」
二人で苦笑いしながら一枚ずつ皮膚を剥がした。刻印は皮膚に焼き付けられているというか、まさに刻まれているようで、消える気配はない。
剥がし終えて、ウズルとメアの元に戻ったが、まだ目を覚ます気配はなかった。
「用は終わったか?……そんじゃとりあえず、通路に逃げた人達も連れて、ギルドに戻ろうぜ」