モンスターケイブー4
意識が拡張される。脳の回転スピードが急激に引き上げられるような感覚とともに、感覚器官で捉えていないものまで情報として流れ込んでくる。
敵の数は──4
目の前のコイツと、その奥で2体が抵抗する冒険者と戦闘中、最後の一匹は下層への通路に逃げ込んだ人たちに釘付け……
「メア!交戦中は二体だけだ!俺が一番手前のコイツとやるから、君はその二体を頼めるか!?」
「任せて!」
俺の指示に従い、メアは目の前のゴブリンを無視してその向こうのゴブリンへ切りかかる。彼女の県からは、スキルを発動している証の黒い闇が漏れ出している。
メアのところにもう一体を行かせるわけにはいかない。俺もコイツをなんとかしなければ。
スキルの力だろうか、巨躯を呈するゴブリンを目の前にしても、どう動くべきかわかる。
「……行くぞ」
自分を奮い立たせるようにつぶやき、全速力で接近する。
──左上から棍棒。その次にもう片方の腕で右横から薙ぎ払い攻撃。薙ぎ払いまではタイムラグがある。ならば。
棍棒を避けるように右上に飛び上がる。自分の真下を、遅れてやってきたゴブリンの左腕が通りすぎる。
俺を薙ぎ払うために前傾姿勢になり、姿勢が低くなったゴブリンの左肩から右わき腹にかけて、ナイフを皮膚に突き立てながら滑り落ちる。
「──どうだ!」
無傷ではないようで、俺が切った軌跡から、流血している。
後ろに回った俺に反撃するため、ゴブリンが姿勢を戻し、こちらを振り返る。
──右足に軸をとって回転しつつの蹴り。股が開くな。
奴の脚が大回りで蹴り飛ばしにくるその前に軸足まで飛び込む。いくら巨大でも、足首はそこまで頑強ではなさそうだ。
「骨は……絶てそうにないな」
そう判断した俺は足首のくるぶしより後ろ側に集中して斬撃を入れる。ゴブリンではどうかわからないが、人における靱帯を断裂させることに成功した。
「オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!!」
ゴブリンが野太い叫び声をあげる。空気が震えているような爆音に、耳を塞ぎたくなる。
軸足の靱帯を断ち切られ、突然のバランス崩壊が起こってからは、地面に倒れこむのは早かった。その図体故に、立ち上がるまでは時間を要するだろう。
「……その前に」
俺は地に伏したゴブリンの、先程切っていない方、左足の靱帯にも、思い切りナイフを振り下ろす。
再び、絶叫。
これで、こいつは再生でもしない限り立ち上がるのは難しいだろう。抵抗不可能になったゴブリンだが、一応、さらに安全策をとって、肩甲骨周りの靱帯も断っておく。これでもう四肢が不能になったはずだ。