モンスターケイブー3
男はありがとうとだけ言い、走り去っていった。
「……さて、どうする」
「まずは、戦っている人たちを引かせましょう!通路に逃げ込めた人たちは、ある程度は安全だわ」
「そうだな。まずは俺のスキルで────あぶない!メア!避けろ!」
「えっ!?」
俺の警告で、メアが咄嗟にその場を飛び退く。
ズザァッ!っと地面にたたきつけられたのは、巨大ゴブリンが投げたと思われる。こん棒だった。不幸なことに、巨大化したモンスターは、それに合わせて巨大化した武器を持って、ポップするようだ。
……それだけではない。
俺もメアもそのこん棒を見て、絶句する。
……こん棒の太くなっているところは赤黒く染まり、地面とこん棒の間には、潰れてしまった元冒険者だと思われるモノが、べったりとへばり付いていた。
ゴブリンは冒険者を叩き殺したこん棒を、俺達に投げつけてきたのだ。
「……こんな、ことって……」
こんなもの、気づかなければよかった。見なければよかった。吐き気がこみあげてくる。一気に絶望感が湧き出てきた。
当然だが、今までこんな酷いものを目の当たりにしたことはない。そもそも、誰かを相手にし、命の危険にさらされたことが、一度もない。
初めて見る異常な光景が、視覚を通じて、俺の脳みそを鈍器で殴るような衝撃を突き付けてくる。……落ち着かなければ、そう思えば思うほど、焦りがこみあげてくる。
「あんたねぇ!混乱してんじゃないわよ!」
アイラが、ネックレスから叱咤してくれる。
メアは、俺の肩を掴み、揺さぶる。そのおかげで、混乱していた脳みそが若干、通常運転に戻りはじめた。
アイラも続けて叫ぶ。
「あんたのスキルを思い出しなさい!この状況を全部把握して、まだ生きている人をできるだけ多く助けるのが最優先でしょ!?」
ハッとする。そうだ、メアから、街へのモンスターの襲撃の話を聞いた時から、この世界は、美しい、勇ましい冒険譚ばかり並べられるわけではないと、現実になればそればかりではないのだと、わかっていたはずではないか。
「わかっていても、キツもんだな」
「……私も、何度見ても平気ではないわ」
二人で横に並びなおす。メアが即席の作戦を伝えてくる。
「私が切り込むから、タカミネ君はスキルで状況を分析しながら援護をしてほしい。巨大化したゴブリンがどれほど強いかはわからないけれど、二人で全力を出せば、なんとかなるはずよ」
「……わかった」
俺がうなづくと、メアは俺の胸をポン、とたたいて、ゴブリンたちへ駆けて行った。
「──≪把握≫!」