巨大種ー3
聖騎士と呼ばれる男の、重厚とまで思うような低い声が発せられた。団長室にはメアが言ったように三騎士と思しきメンバーがそろっていたが、まだ事態を報告してもいないというのに、異常な静かさと緊張感があった。それもあり、彼の声がより響く。
「……初にお目にかかります」
「そう堅くならなくともよい。貴公は客人である」
堅くなるなと言う方が無理だ。この威圧とまで感じる空気で、平然としていられる者は少ないだろう。
加えて、俺は今までここまで礼儀正しい言葉遣いを(おそらく)必要とされる場面に出くわしたことがなかった。学校で教わった敬語程度しか知らないし、使い方があっているか、間違っているかの判断も、自分自身ではあいまいなところがある。
俺の緊張をよそに、騎士団長は目線をメアに向ける。
「シアール卿、報告を」
促されたメアが口を開く。
「──緊急会議です」
メアがそう言った途端、室内の緊張感がより高まる。団長の眉が少し動く。三騎士も、兜を被っていて表情はうかがえないが、ピクリと彼らの体が反応したように思える。
「早急に述べよ」
しかし、鎮座する聖騎士はいたって冷静だった。
「街の外周の平原に、前例のない巨大なスライムが突然ポップしました」
続いて、どれ程大きかったのか、防御力の高さなどを報告する。
「……シアール卿、貴公の攻撃ステータスは如何程であったか」
「は。2200程です」
緑の鎧を身に纏う騎士が口を開く。
「順当なAランクの攻撃力。スキルなしではあまり攻撃が通らなかったと?」
見た目によらず、高い声だ。気づいてみれば身長も低い。……まさかとは思うが、子供か?後でメアに聞こう。
「はい。傷をつけることはできましたが、およそスライムとは思えません」
「……そうなると、Bランク以下では手も足も出ないといったところ……」
情報は多いほうがいい。俺からも、自分のつけている結晶のネックレスが異常な魔気に反応したと伝える。
……実際はアイラがこれを通して視ていたわけだが。
すると、青い鎧の騎士が反応する。
「貴公、そのネックレス、魔道具か。術師として興味深い。魔気を感じ取れるとは」
男性とも女性ともとれる中性的な声。
「はい。故郷の村の宝でしたが、この街に出るとき、守りとして頂きました」
これまた、実際はアイラの神気とやらの結晶だが、適当な嘘で話を合わせる。
「……団長殿、やはり私が感じ取ったアレは」
おそらく、彼(彼女?)は術に長けているのか。なんらかの気配を感じ取っていたらしい。
「あぁ、そうであろう。……我はギルドに向かう。この場にいる卿らは、直ちに団員へ事態の伝達を」
「「「「はっ」」」」
団長が立ち上がると、座っていた三騎士もサッっと立ち上がり、団長の後に続いて部屋を出ていく。
残された俺たち二人は、特に俺は、一気に緊張感から解放された。
「ふぅ……。緊張した」
「えぇ……。幹部にはほぼ毎日報告義務があるのだけれど、それの数倍は」
幹部として騎士団に所属するメアでさえ、先程の空気は重かったようだ。誰もいないということで、二人とも壁に寄りかかってしまう。壁のひんやりとした温度が背中に伝わる。
Sランク、SSランク、あの4人は、俺よりも、いや経験を積んだメアよりもずっと実力がある。
しかし、だ。それだけではない。あの存在感とかもしだす雰囲気は、実力だけで作れるものではないはず。
「……三騎士のメンバーは、先代団長の頃から、変わっていないの。それも、1世代じゃないわ」
「……っな」
なんだって?数世代先代の団長のころから変わっていない?
昨日、ギルド、というよりかは酒場からの帰り道、スエルさんが言っていた。条約を取り決めたのが数十年前。これが本当なら、数十年前にはすでに現団長だったということだ。
つまり、それよりも何世代か前。……下手したら百年以上三騎士として就いているのではないだろうか。
およそヒューマンとは思えない年齢となっているはず。
この世界の種族はヒューマンだけではないので、それもおかしくはないのかもしれないが。例えば、妖精族は長寿だとか。そう納得するしかない。
「……それなら、あの雰囲気にも納得だ」
「……えぇ、時には、団長よりも圧を感じる時があるもの。特に緑卿。あの方はマーリ族よ」
緑卿とは、あの緑の鎧の騎士のことか。名前で呼ばないのか。……いや、名前を知らないのか?
「おっと、あんまり団外の人にこんな話するものじゃないわね」
「いや、いいんだ。おれも騎士団やほかの2団については、ある程度は知っておきたい」
メアが気を使ってか、話を切り上げてしまったので、緑卿について、いや、マーリ族について触れるのはやめた。
「残念だけれど、私も内情まではしらないわよ?それも、森の守護団についてはね」
「セレナさんが所属するところか」
「えぇ、彼女とは個人的に仲は良いのだけれど、あそこはエルフが多い団だから、やっぱり内輪気味だわ」
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