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望まぬ転生ー1

「眷族ー、今日の仕事も頼んだわよー」


「あぁ、はいはい。どうせまた雑用だ」


 どうもやる気のない女神と、あからさまにやる気のない眷族の俺。こんなコンビで、よくもまぁ今まで世界を治めてこれたと思う。


 ──ここでの生活に慣れてしまってだいぶ経つが、俺がこの女神の眷族になった経緯や、この世界で経験したことなどは、今でもよく覚えている。




********




 真っ暗な空間。壁も、天井もあるかどうかも分からないような場所に、俺は居た。


 何故、ここに居るのかも、ここが何処なのかも解らない。


 俺はいわゆる現実主義者、とまでは行かないが、魔法は当然、幽霊などもあまり信じていない。ファンタジーにもあまり興味がない。妄想も──トシゴロなものを除いて──しない。故に俺は、これは夢だ。そう考えた。


 ──呆然としていると、突然、俺の周りだけを照らすように、白い光がどこからか放たれた。眩しさに目がくらむ。


 かと思うと、今度は闇の向こうから声が発された。若い、丁度俺と同じ高校生くらいの女の子の声だった。


「夢、ね。此処が何処か、教えてあげよっか」


 その声の主は、ぬっ、と顔だけ闇の向こうから出したかと思うと、俺の元に駆け寄ってきて、周りをくるくると回り出した。


 白く長い髪の、神官の様な格好をした女の子だった。


「あんた、えぇと、ハヤト──ね。死んだのよ」


 そう、砕けた口調で告げられた。


 確かに、俺の名前はタカミネハヤトだった。会ったことも無い彼女が、知るはずもない名前。


 信じることなど、出来なかった。困惑した。混乱した。寧ろ、これが夢だとほぼ確信すらできそうだった。しかし、夢にしては声もハッキリと聞こえすぎているし、感覚も覚醒時と同様だった。


 やっと出た言葉はこうだった。


「───え」


「へぇ。もっと取り乱すかと思ったのに。つまんない」


 何なのだろう、彼女は。俺は十分取り乱しているし、本当に死んでいるのならば認めたくない。言葉を絞り出した結果、え、としか言えなかったのだ。


「目、閉じてみなさい」


 彼女はピタッと止まり、俺の顔に手をかざしてそう言った。状況は読めないが、これ以上整理がつけられなくならないように、言われた通り、目を閉じる。


 すると、そこには自分の後ろ姿があった。夕暮れ時、外を歩いていた。学校帰りだ。ここまではしっかり覚えている。


 そして家につくなり、自室に籠る。これもいつものことだ。


 暗い部屋の中、パソコンでオンラインゲームをし続ける。もちろんこれもファンタジーものではなく、リアル指向のシューティングだ。


 映し出されている映像は早送りのように進んだ。そして、休憩なのか、背筋を伸ばした俺は、デスクの上に置いてあった飲み物の缶に手を伸ばした。


 そこで、瞼の裏の映像は終わった。


「うぅん。何て言うのかしら?そうね、あの飲み物に含まれる物質の過剰摂取による……中毒?かしら」


「カフェイン中毒……か?」


 ならばおかしい。俺は絶対に過剰なカフェインの摂取などしていない。確かにストレスはあったし、寝不足気味ではあったが、たかがコーヒーに含まれるカフェインの分解が阻害されるほど、体調は崩していないはずだった。


「なんだこれは、おかしい。みたいな顔、してるわね。でも、死んじゃったものは死んじゃったのよ?」


「俺は……本当に……?」


「認めなさい。ほら、あんたの足元。」


 彼女はそう言って指をさす。俺はその指先を追って自分の足元を見る。


「影が……」


「影、無いでしょ。それが死者の証。此の世の者ではない者の証明」


 衝撃だった。自分が死ぬ夢も見たことはある。だがそれは、死ぬ直前、その瞬間には目を覚ますものだ。また、夢ではないという確証が増えていく。


 項垂れる俺を前に、彼女は不思議そうな顔をしてブツブツと何かを呟く。


「こんな死に方の人がなんで私の所に…?でも、上位神様の裁量だし、与えられる能力のキャパシティも大きいのは確かなのよね……」


 暫くの間、俺はただただ黙って状況を受け止めようとすることしか出来なかった。認めたくはないが、心は、これを現実だとする方向に傾いていた。


 俺がそうしている間も彼女は何かを思案し続けていた。


 唐突に、彼女が提案してきた。


「ねぇあんた、異世界転生って、知ってる?」


「一応……空想上のものとしてなら……」


「してみない?異世界転生」


 俺の世界じゃそんな物は妄想の産物でしかなかった。


「そんなこと出来るわけがない」


「へぇ。大体の人間はここで飛びついてくるのに。お願いします、って。」


「俺は、あまりそういうのは信じていない」


 まだ、これが夢ではないと認めきれていなかった。


 彼女は如何にも、面白い、と言ったようにクスクスと笑う。


「何で?非現実的だから?じゃあ、逆にどうだったらこの状況を信じる?」


 彼女からは口調に反して真面目さが伝わってきた。もう、認めざるを得ないのだろう。彼女が言っていることは本当で、俺は、死んでしまったのだ。


 この状況も、俺が起こりえないと思っていただけで、事実として起こっているのだ。


「認めるしか、ない……」


「でしょう?信じるしかないでしょもう。転生は存在するし、異世界だってある」


 最後の言葉と共に彼女は胸を張った。


「そして私は、女神アイラ!」


「……女神?」


 この砕けた口調の彼女が女神?とても信じられない……が事実なのだろう。もう、何が起こっても受け止めようと思った。俺の生前の現実指向は、覆されたのだった。


 そして、言われてみれば彼女の格好は確かに神聖さを醸し出しているし、俺に死という事実を告げもしたのだ。口調が口調なだけなのだろう。


「なによその反応!今、ちょっと信じられないって思ったでしょ!人間の心くらい読めるのよ!」


 見透かされた。


「はぁ……。私は全十神級中第四神級の女神よ。そんな私があんたの転生を手引いてやるって言うんだから、感謝なさい」


 彼女は俺が転生をするものだと思っている。だが俺は、あまり転生に魅力を感じていなかった。


 俺は生前からファンタジーものの小説を読んでもそこまで楽しめていなかったし、異世界といったらだいたい文明のレベルは中世ヨーロッパ。パソコンなど、科学と機械に囲まれた生活をしてきた俺には、不便そうだなぁというイメージが強かった。


「いや……いい。転生はしない」


「えぇー!?なんでよ!……本気で言ってる?えぇー……、ちょっと待って」


 俺がそう答えると、女神さまは酷く狼狽して、また何かブツブツと考え始めた。


「……どうしようかしら。いい感じに言いくるめれたと思ったのに。行ってもらわないと困るのよね、異世界……。そもそも、こいつみたいに異世界転生の適正値が高い人間自体が珍しいし……上位神様はこいつのこと異世界に行かせたがってるし……」


 その後結構な時間思考を捻っていた女神さまだが、結局、良い案は浮かばなかったようで。


「……ねぇ、本当に?本当に異世界転生……しないの?」


 ずい。と彼女が俺に詰め寄る。


「あぁ、する気はない」


「はぁー……。折れてもくれなさそうね……」


 女神さまは、呆れたような、諦めた様な素振りで、懐から一枚の紙を取り出すと、何かすらすらと指で書き始めた。


「…………。…………あ」


 何か間違えたのだろうか?女神は何か書いていた途中のそれを放棄して、新しくもう一枚の紙に書き直し始めた。


「──よし。これでいいわね。これは彼の世行きのチケットのようなモノよ。転生しないなら彼の世でおとなしくしてればいいじゃないの」


 なんだか、不貞腐れた様子で俺にそれを押し付けてくる。


「あとは、あんたがここに血印を押すだけ」


 そう言うと、女神さまは俺の手を掴み、紙の淵で俺の指先を切って、血印を押させたのだった。


 俺はそのとき女神さまがニヤリと笑っていたのを見逃さなかった。


 ──瞬間。俺の足元に巨大な魔法陣が浮かんだ。それは見慣れない文字と見慣れない模様で、グルグルと回転し始めた。回転は速度を増し、それに伴って光を放ち始めた。光は、俺の体を包み込み、上へ、上へと伸びて行った。


 遠くで、さっきの女神さまの声が聞こえた。女神さまは心底嬉しそうで、してやった、という感じだった。


「拒否されたら人としては異世界転生させられないけど!あんたには意地でも転生はしてもらうわ(、、、、、、、、、 )!」


「───私の使い魔、眷族としてね!」

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