勇者パーティを追放された勇者。実はSSR勇者につき。
時代は追放。
男の名前は、ブレイブ。
20歳の若者で勇者パーティの一員である。
「ブレイブ。アンタ……勇者パーティ追放よ!」
「は? いきなり何を……」
勇者パーティというのは、魔物退治で多大な功績を挙げたパーティに与えられる称号。
その勇者パーティの中心となる人物が勇者。
「俺は勇者だぞ?」
すなわち、ブレイブのことである。
「アタシも勇者よ。なんで同じパーティに勇者が2人もいるのよ? いらないでしょ?」
そして、今ブレイブを追放しようとする少女。
クアージュもまた勇者であった。
「そんなの知らん。だいたい出ていくならお前の方だ。クアージュ。お前を勇者パーティから追放する」
なぜか、そのパーティには勇者が2人存在した。
「このアホ! リーダーはアタシよ!」
「アホはお前だ! リーダーは俺だ!」
勇者。
勇気ある者といえば聞こえは良いが……
その実。我が強く。
何事においても自分が中心とならねば気がすまない。
他者の命令に大人しく従うような、従順な心は持ち合わせていない。
その2人が同じパーティにいたのでは、争いになるのも必然である。
「やれやれ……またか」
「いったい何度目っすかね」
「さすがにウザイ……」
「これも神の試練です」
勇者2人の騒動に。
呆れたように肩をすくめる4人のパーティメンバー。
騎士。盗賊。魔法使い。僧侶。
「お前たち。2人ともいい加減にしろ!」
「毎回毎回。騒いで周囲に迷惑っすよ?」
「もう我慢の限界……2人ともパーティ追放」
「これも神の試練です。お行きなさい」
哀れ……勇者2人は、勇者パーティを追放されてしまった。
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「お前が騒ぐからパーティを追い出されたではないか……」
「騒いだのはアンタでしょ! どうすんのよ?」
「どうするもこうするも、新たに勇者パーティを結成するしかあるまい」
「それよ! でも。今度のパーティにアンタの席はないわよ? アンタはアンタで勝手に集めなさいよね」
「お前のパーティなど。こっちからお断りだ。お前の方こそ。メンバーが集まらないと泣きついてきても、知らんからな?」
「誰が! アンタこそ。お金を貸してくれといっても、もう貸さないわよ?」
冒険者の集まる酒場。
店内でくつろく冒険者に向けて2人が声を上げる。
「誰か! 我こそはという者は、この勇者。ブレイブのパーティに参加せよ!」
「そんなアホのパーティより、この勇者クアージュのパーティに入る方がお得よ。誰か立候補しなさい!」
お互い声を張り上げ、新たなパーティメンバーを求めるも。
「んだ? あの2人」
「メンバー募集か?」
「見たところ、腕は立ちそうだが」
「やめとけやめとけ」
「さっきの騒ぎを見たろ?」
「あんな自己中な勇者に着いて行ったら」
「こき使われて、使いつぶされるだけだ」
「んだ。んだ」
誰も仲間は集まらなかった。
「どういうことだ……? 誰も集まらんではないか……」
「知らないわよ。それよりどうすんのよ? ダンジョン攻略期限が近いのよ」
勇者パーティ。
報酬。待遇など国から多大な恩恵を受ける代わり、ダンジョン攻略の義務がある。
期限までにダンジョンを攻略できない場合、勇者パーティの権限をはく奪され、その恩恵。全てを失ってしまうのだ。
「勇者でなくなるのは困るぞ。助成金がなくなっては酒池肉林の豪遊が出来なくなる」
「アンタ。あんないかがわしい店に行くの、やめなさいよね。病気になるわよ」
「やむをえん。とにかくクアージュ。ダンジョンへ行くぞ」
「は? 2人で行くっての?」
「他にメンバーがいないのだから仕方がない。お前で我慢してやる」
「我慢するのはこっちよ。アンタ。しっかり働きなさいよ」
とにかく勇者パーティの権限をはく奪されるのは困る。
やむなく勇者だけでダンジョンへ向かう2人であった。
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「よし。盗賊……はいないか。ならクアージュ。偵察に行ってこい」
「誰が! アタシは勇者よ。アンタが行きなさいよ」
「俺こそ勇者だ。そんなコソコソした真似ができるか」
ギャースカ周囲の警戒もおろそかに突き進む2人。
「ギャギャーン!」
必然。モンスターの奇襲を受けていた。
「モンスターか? ぐあっ!?」
ドカーン
不意を討たれ吹き飛ぶブレイブ。
「くそっ! 立て直すぞ! 騎士はいないから……クアージュ。挑発して敵を引きつけろ!」
「アタシは勇者でアタッカーよ! アンタがそのままモンスターを引き付けてなさい」
あっさり倒れたブレイブを与しやすいと見たか。
モンスターはそのままブレイブを狙い襲いかかる。
カーン カーン
「ぐっ……ぬっ……」
必死に剣で切り払うも……
ズバーン
「ぐあああー! 斬られたぞー痛い」
攻撃に優れるのが勇者。
反面。防御はもろく、どう見ても不利である。
「無理! 勇者に盾ができるか! 殺されるぞ! はよ助けろ!」
「もうちょい我慢しなさい。今。止めをさすわ」
ブレイブが囮となる間。
クアージュがモンスターを背後から斬りつけ、その身体を傷つけていく。
「無理だっつーの! やむをえん。お前にモンスターをなすりつける!」
斬りかかるモンスターの1撃を、何とか回避したブレイブ。
その隙にモンスターの脇をすり抜け、クアージュの背後に回り込んでいた。
「こら! やめなさい! アンタ! MPKよ!」
必然。
モンスターの矢面に立たされるクアージュ。
カーン カーン
「ちょっ! やめて……やめなさい!」
必至に剣で切り払うも……
ズバーン
「ひぎいいいー! 斬られたじゃない! 痛い」
やはり勇者。防御は苦手である。
あっさり手傷を負っていた。
「ちょっと! アタシ殺されるわよ! はよ助けなさい!」
「まあ待て。俺がモンスターの背後に回り止めをさす。しばらく我慢しろ」
互いにモンスターのターゲットを押し付け合いながらも。
なんとかかんとか撃退に成功する。
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・
・
勝利はしたものの……結果的に2人ともボロボロの惨状。
「血が止まらん。だが僧侶は……はぁ。クアージュ。回復魔法を頼む」
「使えるわけないでしょ! アンタこそ。アタシの玉のお肌に傷がついたじゃない。治しなさいよ」
だというのに、回復魔法は使えない。
やむなく持参したポーションを塗りたくり傷を癒す。
「仕方ない。今日はここまでだ。クアージュ。野営にする。テントを張れ」
「誰が! アタシは勇者よ。アンタが張りなさいよ」
「俺こそ勇者だ。そんな力仕事を出来るはずがない」
ギャースカ雑用を押し付け合う2人。
不毛な時間だけが過ぎ、さすがに翌日に差し支えがでる時間。
「仕方ないわね。アタシはこの寝袋で寝るわ」
「……俺の寝袋はどこだ?」
「は? あるわけないでしょ。アンタは地面で寝てなさい」
ギャースカ1つの寝袋を取りあう2人。
不毛な時間だけが過ぎ、さすがに眠気も限界。
「クアージュ。お前。もっと端に寄れ。狭い」
「寝袋なのに寄れるわけないでしょ! 文句あるなら出て行きなさいよ」
結局。2人。1つの寝袋に無理矢理入り込み、眠りにつくのであった。
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・
・
「グギャー!」
深夜。
眠りにつく2人を襲う大きな騒音。
ドカーン
突然。寝袋が蹴り飛ばされる。
「ぐほおぉぉっ! モ、モンスターか!?」
宙を舞い吹き飛ぶ寝袋。
「夜襲? ブレイブ! モンスター避けの結界はどうしたのよ!」
魔法使いが存在しないのだ。
結界など張りようがないのも当然。
地面に叩きつけられた寝袋から、なんとか這い出す2人。
「おのれ……寝込みを襲うとは卑怯な……ぐうっ」
口から吐血するブレイブ。
「ちょっと! ブレイブ。アンタ。血が……」
寝袋を蹴とばす一撃でブレイブは傷を負っていた。
おそらくは、肺にまで達する大きな損傷。
「ぐぬう……問題ない」
「問題あるわよ! 仕方ないわね……」
剣を抜き放ち、クアージュはモンスターを前に構え立つ。
「このモンスター! 勇者。クアージュが相手よ!」
闇を通して見えるモンスター。
「こいつ……まさか……ダークデーモンなの!?」
威勢よく啖呵をきったは良いが……どう見ても分の悪い相手。
「……よせ。クアージュ。逃げろ……ごほっ」
ダンジョン最下層に生息するという凶悪モンスター。
仮に勇者パーティが万全であったとしても、勝てるかどうかという相手。
危険度Sランクのお尋ね者。
それが、ダークデーモン。
今や勇者2人だけとなった勇者パーティ。
しかも、すでに1人は死にかけというこの状況。
とても敵う相手ではない。
「こんの! 死ねー!」
だというのに、無謀にもダークデーモンに斬りかかるクアージュ。
カーン カーン
斬りかかる刃が弾かれ。
無防備となったクアージュの胴に凶刃が迫る。
「くっ!」
寸前。
カーン
寸でのところで、ブレイブが割って入っていた。
「お前のような雑魚が敵うか……逃げろといっただろう……」
「うっさい! アンタこそ。足手まといよ! 先に逃げなさい!」
ダークデーモンが魔力を溜める。
必殺の一撃。
ダークデーモン・ブレスの構え。
辺り一面を灰塵と化すその吐息。
ひとたび放たれるなら、2人に抗う術はない。
「このままじゃ共倒れだぞ……行け!」
「アンタこそ! 死にかけなんだから行きなさいっての!」
だというのに、2人は互いにダークデーモンの前を譲らない。
我が強く。何事においても自分が中心とならねば気がすまない。
他者の命令に大人しく従うような、従順な心は持ち合わせないこの2人。
だが……どのような窮地であっても。
決して諦めることなく勝利を目指す。
自己犠牲をもいとわず、他者を守る。
「俺は勇者……奴の相手は俺がする!」
「アタシは勇者よ! アイツはアタシの相手!」
勇気ある者。
2人。ともにその心魂は勇者であった。
ダークデーモンがブレスを吐く。その寸前。
「魔法。マジック・ファイアー」
ドカーン
炎魔法がその身体を打ちつける。
「?! この魔法は……」
突然の魔法に体勢を崩すダークデーモン。
ブレスの発動に失敗していた。
「バカ2人……やっぱり私たちが必要」
魔法を放ったのは、魔法使い。
「魔法使いなの? どうしてここに?」
新たな獲物に向けて、ダークデーモンが向き直る
ドカーン
その頭を狙って、盾が打ちつけられた。
「ダークデーモン。貴公の相手は騎士である私だ」
シールドバッシュによる挑発。
ダークデーモンの前面に立ち、その攻撃を盾でもって防ぎ止める。
「騎士まで……なぜ……?」
「神の試練だと言ったでしょう」
九死に一生を得た2人の元へ。
僧侶がしゃがみこみ、回復魔法を詠唱する。
「僧侶? いったいぜんたいどういうことよ?」
「どうもこうもねえっすよ。俺たちゃ勇者パーティ。そういうことっすよ」
その質問に答えるのは盗賊。
騎士を狙い爪をふるうダークデモン。
その両目へと正確無比な弓矢を撃ち込んでいた。
「グギャー!」
両目を潰されたダークデーモンが、雄たけびを上げ暴れ回る。
「パーティ追放。解散するっつーなら、それでも良いっすけどね」
「2人とも……まだ喧嘩する? またパーティをバラバラにする?」
すっかり傷の癒えた2人。
「……いや。俺が間違っていた」
「いえ。間違っていたのはアタシ」
魔法使いの質問に、ともに手を取り立ち上がる。
見つめる先は、ダークデーモン。
相対する勇者パーティの仲間たち。
騎士が盾となり。
僧侶が傷を癒し。
盗賊が牽制。
魔法使いが体力を削っていく。
いかにダークデーモンといえど、その連携の前に瀕死の重傷。
死を覚悟したのか、やけくそ気味にデーモン・ブレスの体勢に入っていた。
「勇者パーティ。俺は勇者だが、そうではない」
「そう。アタシたち6人が勇者パーティ。アタシたち全員が勇者」
勇者1人の力を10とするのなら。
10+10は20となり、10の6乗は100万となる。
2人の勇者が剣を抜き放つ。
「だから」
「そうね」
右からブレイブが。
左からクアージュが。
同時にダークデーモンの身体へと剣を走らせる。
「「勇者・ビッグバン・スラッシュ!」」
2人の勇者の剣が交差する。
その相乗効果はビッグバン。
宇宙創世の。勇者パーティ創世の光。
チュドーン!
ダークデーモンの身体は光の粒子となり、宇宙から消え去った。
・
・
・
その後。
勇者パーティの活躍により魔王は撃破された。
「ブレイブ……どうしても行くの?」
「ああ。勇者は相並ばず。勇者パーティのリーダーは、クアージュ。お前だ」
ブレイブは勇者パーティの面々に別れを告げていた。
今は2人。仲良くやっているが……
共通の敵がいなくなる。
平和になり暇ができれば、いずれまた喧嘩するのは間違いない。
パーティにリーダーは1人。それが集団の掟。
ならば喧嘩する。その前に。
せめて仲良く旅した思い出だけを残して。
「何かあったらすぐに言いなさいよ! 勇者は仲間を見捨てない。すぐに駆けつけるからね」
「お前の方こそ。何かあれば言ってくれ。最強の俺が助けてやる」
しばしの抱擁の後。
1つの影は2つに別れ、歩き去る。
追放ではない。それは新たな旅立ちの別れ。
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・
世界に新たな魔王が誕生していた。
以前の魔王をも超える圧倒的な脅威。
圧倒的な魔力。
「ぐぬぬ……騎士。だいじょうぶなの?」
「無理だ。もうもたない」
相対する勇者パーティは危機に瀕していた。
街を襲う新世代魔王を相手に。
城壁を背に戦うも、絶体絶命の危機的状況。
「こりゃー腹をくくるしかないっすね」
「これも神の試練です」
他の冒険者パーティは新世代魔王を前に遁走。
ただ勇者パーティだけで抑えるには、相手が悪すぎた。
「どうする? クアージュ」
「どうするもこうするも……勇者が街を。民を見捨てて逃げられるかっての! アンタたちは民を避難させなさい! アタシが時間を稼ぐわよ!」
だが、その言葉に誰もが首を横に振る。
「その必要はない。ギルドの者が民を避難させている」
「やれやれっすね。クアージュだけじゃ時間を稼ぐにも無理っす」
「これも神の試練です」
逃げ出す者は誰もいない。
それが勇者パーティの結束。
先代魔王を討った勇者の絆。
「まったく……みんな……頑固なんだから!」
頑固といえば。もう1人。
かつての仲間にも頑固な男が1人いた。
例え私がここで死のうとも。
あの男が。勇者がきっと民を。世界を守ってくれる。
そう信じて。
「勇者・ビッグバン・スラッシュ!」
クアージュの必殺の一撃。命をかけた一撃は。
カーン
新世代魔王に弾かれる。
「くははっ! これが勇者とな。こんな女に先代は負けたというのか? なんと情けない」
そう高笑いする新世代魔王。
ドカーン
その背中に火柱が立ち昇る。
「あちっ?!あちちっ! なんだ……誰だ! 我を新世代魔王としっての狼藉か!」
城壁を飛び降りる2人の男女。
1人は魔法使い。
先ほどの火柱。マジック・ファイアーを放った少女。
そして、いま1人。
膝を着くクアージュの前に降り立つ1人の男。
「……まったくだ。まったくビッグバンではないではないか……クアージュ。ふぬけたな」
「アンタ……ブレイブ?!」
かつて袂を分かったもう1人の勇者。
勇者ブレイブ。その人である。
「いかにも勇者ブレイブである」
「……遅いわよ……このアホッ! ドジ! ノロマ!」
その口調とは裏腹に、思わず目元をぬぐうクアージュ。
「アホはお前だ! 何かあれば言えと言っただろうが! まったく……ここまで走って来るのにどれだけ急いだか」
「うっさいわね! 言われなくても助けるのが普通でしょ! それがパーティってもんで……アンタ……アンタも! 勇者パーティの一員なんだから!」
膝を着くクアージュの手を取り、立ち上がらせる。
「そうか……ならば、行けるか?」
「当然。行くわよ!」
握る互いの手の平をそのままに。
互いが左右の腰から剣を抜き放つ。
「「勇者・ビッグバン・スラッシュ!」」
2人の勇者の剣が交差する。
その相乗効果はビッグバン。
宇宙創世の。新世代勇者パーティ創世の光。
チュドーン!
それは新たな伝説の始まる光。
ありがとうございました。
SSSランクもよろしくね。