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短編純文学

雪の降る日に会いましょう

作者: 飯田葵
掲載日:2018/01/30

結露した窓を春人は指でなぞった。


水で少し見にくい窓の外に白い雪がちらついている。

春人は着の身着のまま外に出る。


静かな道を街灯が照らしている。


雪が降ると彼女に会える。

その想いが春人の気持ちをはやらせ、次第に足が前に出て呼吸は荒くなって行く。


鳥居をくぐると去年と変わらず彼女はそこにいた。

彼女は春人が十二歳の時から雪が降ると決まって賽銭箱の前の階段に座っている。


彼女を雪が淡く照らしている。


10年間彼女は姿が変わっていない。

10年前と変わらない美しい姿と笑顔で春人に手を伸ばす。


「こんなに息を荒くして走ってきおって、頬が(ぬく)いではないか」


春人の頬に触れる手はとても冷たい。

これが彼女が外にいたからではないことに春人はきがついている。


春人は彼女の名前を知らない。

彼女について春人が知っていることは雪が降る夜に彼女に会える、ただそれだけだ。


春人に触れる彼女の手はいつまでたっても冷たいままだ。

その手をそっと両手で包む。


「すまんな、冷たかろう」


春人はゆるく首を降る。


「あの時泣いていた小童がこんなにでかくなりおって」


初めて彼女に会ったあの日、七歳の春人は神社の裏の竹やぶで迷子になっていた。

雪の降る放課後、鬼ごっこをしていた春人は竹やぶなら見つからないと安易に考えた。


見つからなかったが春人は出ることが出来なくなった。

すでに夜になっていて春人の友人も探しにきてはくれなかった。

周りの竹やぶのざわめきと暗さに春人は恐怖で泣いていた。


「ギャンギャン泣くでない」


目の前に突然現れた女性は春人に手を出してきた。

彼女はほのかに光っていて幼かった春人は絵本で見た神様だと思った。

春人は夢中でその手を取った。


「泣き止め、泣かれていてはたまらん」


不思議な喋り方をすると子供ながらに思ったのを覚えている。

彼女の手はとても冷たく泣いて暑くなった体にはとても心地よかった。


春人が竹やぶから抜け出せたら母親がいて彼女の手を離し夢中で駆けて行った。

お礼を言おうと振り向いからたが彼女はすでに居なくなっていた。


「春人、今何を考えておった」


あなたと出会った日のことだと答える。


春人はあの日彼女に恋をした。

決して叶わない恋だけれど春人は彼女に恋い焦がれている。


彼女と初めて会った五年後、雪の降る夜のコンビニ帰りにふと寄った神社で彼女に会えてどれ程嬉しかったか。


春人の手も彼女の手と同じくらい冷たくなっていた。

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