冒険者になったワケ
カノンが農家を継がずに冒険者をしている理由。それは極めて単純なものでした。
農家として野菜を作っているだけでは生活が成り立たなくなって来ているからです。
貧しい家の生まれのカノンには、下には双子の弟と妹が居ますが齢十にも満たず、カノンの両親は冒険者としてやっていくにしても、双子の面倒を見なければなりません。
残念な事ですが、この世界の冒険者としてギルドに登録出来るのは、よっぽどの事が無い限り十五歳を越えるまで登録出来ないのです。
カノンは今年で十五となり、その日に冒険者として登録。簡単なクエストをこなしつつ家にお金を入れる日々を送っています。
とは言えまだまだ登録して三ヶ月程度のカノン。冒険者が一人前として扱われるのは、冒険者ランクが最低ランクのFより二つ上。Dランクに昇格してからですが、一農家の娘であるカノンにはたった三ヶ月でDランクに昇格出来るほどの才能は、残念ながらありませんでした。
又、Fランクのクエストに至っては薬草等の収集と最下級モンスターの討伐の二種類のみ。ですが収集クエストは、十五歳以上ならギルドに登録していなくとも受けられることが出来るので、魔法学園の三年生が社会に適応していく為にそのクエストを受け、飽和状態となります。
その結果としてカノンのような戦闘が苦手な冒険者の生活を支える収集クエストはほぼ無くなり、あったとしても危険な地に生える霊薬草等の収集クエストのみとなってしまいました。
そして、カノンがイロハと合った理由はそこにありました。
戦闘が苦手なイロハは、それでも家の為だとモンスターが現れるリングラスの森の霊薬草の収集クエストを受けて、その結果霊薬草を手に入れたもののスライムに捕まり、そこでイロハが助けに来た。
そんな経緯だったのです。
「お主も苦労しておるのじゃな……」
「まあ……でも今日は霊薬草を手に入れたし食べたら報告しに行けるから、今日はいい日だよ。今こうしてイロハと一緒にご飯食べられるのもね」
「こっぱずかしい事を真顔で言うんじゃないのじゃ!?」
イロハは頬を赤く染めてあたふたしながら叫びます。カノンは実家の双子の事を思い出し、穏やかな気持ちになりました。
そして少し声を大きくしたからこそ目を付けられたのでしょう。
二人に向かって歩いて来る影が一つ。
「おい、カノン。お前とうとう霊薬草を見つけ出したんだってなぁ? ちょっと俺様に寄越せや。この希望溢れるグラトニー様になぁ?」
グラトニーと名乗るてっぺんハゲの小太り男は取り巻きを引き連れ、霊薬草を寄越せと言いながら佇むのでした。
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