カノンとルピア 四
氷のナイフは的確にイロハの心臓を狙っていました。
それでもイロハは動じずに立っています。そしてナイフが胸に刺さる――
「……どうしたのじゃ?」
――事はありませんでした。
理由は簡単。イロハの狐火がルピアの氷のナイフを溶かしていたからです。
イロハはニヤニヤと笑っています。さっきルピアがカノンに行っていた心理的に圧倒する方法。ルピアは自分を落ち着かせる為に深く深呼吸をします。
「神様、カノンさんの怪我は一通り治りました」
「うむ、ご苦労なのじゃ」
「それで、手助けは」
「いらん」
「かしこまりした」
凛と通る声で手助けを拒絶するイロハに、悠葵は最初から想定していたように引き下がりました。
カノンは二人が来たことによって、さっきまでギリギリながらも保っていた体力が、緊張の糸が解れた事によりぺたんと地面に女の子座りをしました。
銀色の髪が地面について汚れて勿体ないとイロハと悠葵は思います。
ルピアはそれを恨みのこもった瞳で見ていました。
「さて、私からいくとするかの」
イロハはそう呟くと、身を低くしてルピアの懐に入り、その勢いを殺すことなく掌打を鳩尾へと叩き込みます。
咄嗟の出来事にルピアは反応することが出来ず、鳩尾に放たれた掌打によって息が出来なくなり、激しく咳き込みました。
「これで終いかの?」
「まだ……ハァ、ハァ、まだ、まだ終われない」
真紅の瞳でイロハを睨み、足を震えさせて立ち上がりました。
再び氷を。今度はナイフではなく槍を作り上げると構え、兎人族特有の跳躍力を活かし突撃します。
「私が何度も丁寧に受け止めると思うかの?」
単調な突撃に、イロハは身をかわすと、がら空きとなった背中に鋭い蹴りをお見舞いしました。
ルピアは呻き声をあげてゴロゴロと地面を転がり、病的なまでに白い肌のあちこちに痣が出来ていました。
「ルピアと言ったか? お主はなんの為に戦うのじゃ?」
「オレは、カノンを誰にも傷付けさせないって、決めたんだ……」
「ならば、問おう。お主の身勝手な考えで、一番傷付いているのは誰じゃと思う?」
「それは……」
「居ないとは、言わせぬぞ?」
イロハが釘を刺すと、ルピアは口をつぐみました。
ルピアが口を開くのを、イロハ達は静かに待ちます。
「ギシャシャシャァァァァッ!」
が、それに対して横やりをいれる者達が居ました。
奇声を発したのはだらしなく涎垂らす大きな口。大きく隆起した筋肉質の巨体に、極めつけは緑色の肌。
その周りには小柄と言うこと以外は特長が似通った人型の魔物。ゴブリンキングとゴブリンの群が、イロハ達の周りを囲んで居ました。
カノンとルピアと言っときながら、イロハがメインを張ると言うね。不思議!




