カノンの謝罪
「えぇっと、私はイロハじゃ。イロハ・イナリ。ところで聞きたいのじゃが、ここはどこなのじゃ?」
神様もといイロハが、カノンに自己紹介をします。イロハと言う名前は有名ないろは歌から。イナリはおいなりさんからとっただけの安直な名前ですが、イロハはしっくりきているようです。
「ここはどこって、リングラスの森だよ」
「リングラス……?」
イロハは首をかしげます。地球にそんな森があったっけな、なんて現実逃避をしようか迷い、でもさっきのスライムを見てそんなことはないかと嘆息します。
そして、地球で巫女さんが時々仕入れてくるラノベの中にあった、異世界転移と言うやつかと気付きました。
「とりあえずここは地球って言う名前の世界ではないんじゃな?」
「地球? なに言ってるのさ、この世界はグラムリンデって言って女神様が創った世界でしょ?」
「ふむ、そうじゃったか……どうやら私は本当に異世界に来てしまったようじゃな」
イロハは色んな事に得心がいったと言うような顔で頷きますが、それと同時にカノンの中にある考えが沸きました。
ですがそれを聞くのは助けてくれた恩人に対して失礼だろうと、すぐさまその考えを消し去るように努めます。
「それで、イロハは頭おかしいの?」
「……え?」
「……えっ、え、あ。……ごっ、ごめんなさいぃっ!?」
消し去るように努めようとした矢先の失言。やってしまった。そう言う表情でカノンはイロハに謝ります。ですが謝罪の異質さは、流石異世界と言うべきでしょう。
イロハの視界からカノンがいきなり消え、それに追従するように長い銀色の髪が、フワッと落ちていきます。
立っている状態からの土下座。所謂フライング土下座をかまされたイロハは、目をぱちくりするだけで思考が追い付いていないようです。
「あ、いや。大丈夫じゃぞ。私もどうやら状況を飲み込めてなかったからこそとんちんかんな質問をしてしまったようじゃし、べべべ、別に頭がおかしいと言われても特になんも思ってないんじゃよ?」
と言いつつも明らかに動揺の色を隠せないイロハ。パジャマがちっぱいに貼り付き、うっすらと形が分かるほどの冷や汗をかいています。
「違うんです。ただ単に知り合いにイロハと似たような頭のおかしい人が居て、イロハがその人と重なって見えただけで……!」
そしてカノン。更なる墓穴を掘っており、その事にイロハがショックを受けてまた墓穴を掘る。そんなやり取りを、お互いに不毛だと気付くまで飽きもせずに一時間程行い、そして。
「悪かったのじゃ」
「ボクの方こそ、ごめんね」
お互いにペコリと頭を下げ、この謎の合戦を終えたのでした。
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