負け犬
学校での僕の生活というものはひどく退屈で、つまらないものだった。
クラスの人間関係の輪からは遠くはずれた小規模グループ、それも陰湿きわまりない数人の野郎の中でボソボソとつまらない会話をしては一日が終わってしまうような、そんな感じだった。
部活動や委員会活動、その他クラスの催し物は「選ばれし者」が「選ばれし者」のために行うもので、、僕からしてみればまるで外国の宗教的行事となんら変わらないものだった。
人生の先行きというものに希望なんぞ抱けるはずもなく、注意されない程度に勉強をする努力を続けて、後はただただ「ツマラナイなぁ」とボヤく日々を過ごしていた。
しかし、こんな僕でも、いつかは天使のような人が現れて僕を救ってくれると、夢を見ていた。
その天使は、その大きな翼で僕を優しく包み込んで、願いを一つ叶えてくれるのだ。
そんな天使が、いつか現れてくれるはずだと、泥へどろの中で祈っているのだ…
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「よぉー!誠ぉ!久しぶりだな!」
高校も2年生上がった春の日、学校の帰りの電車の中で急に声をかけられた。一瞬誰だか分らなかったけど、妙に癖のある髪質とその野太い声ですぐに中学時代の友人だと思い出した。名前を松永と言った。僕は当時のノリを思い出して、無駄に張り合うように作り笑顔で返した。
「おー!久ぶり松永!中学の卒業以来だな」
「そうだな。かれこれ1年ぶりくらいか…」
「もうそんなに経つかぁ…元気してたか?」
「バリバリに絶好調だよ!」
そんな、他愛ない会話をしているとオズオズと松永の後ろから制服を着た女の子が出てきた。
えらく清楚な感じの女の子だった。その女の子は小さい声で自己紹介を始めた。
「は、はじめまして…私、祥寺高校の金谷です。」
僕は見ず知らずの女の子が落し物を拾って届けてきたのだと思った。もう声をきいた時点で半分惚れている自分がいた。
「あ、ども…」
これくらいしか返答できなかった。随分可愛いし、何となくこちらに興味があるみたいだった。
しかし、この恋は1秒も持たないうちに幕を閉じる。松永がこんな事を言うのだ。
「誠な。この子、俺の彼女なんだ。」
………は?
一瞬で心臓がきゅーーーーーーんとちじれて壊れてしまう音がした。
「あ…。松永の…彼女…さん…。あ…ふーん…そうなんだ。松永って彼女いたんだ…」
「実は高校に入った年の夏頃からつきあっててな…。」
「あ…。そうなんだ。ま、まぁ、お前モテそうだもんな…」
あの松永が…という印象だ。中学時代はお互いアニメ趣味があり、非モテグループの一員だったはずだけど…
確かに中学時代と比べて格段にあか抜けている。髪型もおしゃれに決まっているし。おまけに、よくよく見てみると割とイケメンなんだよな。
彼女がいてもおかしくはないけど…なんだろう、この感覚。
僕の感情がひねくれていくのが分かった。理性がよじれて、雑巾絞りみたいに僕の汚い心から汚い液体を搾り取っているような、このぐしゃぐしゃ気持ちはなんだろうか。
そんな折、電車は駅に到着した。
ドアが開かれると、二人は手をつないだりなんかして、一緒に駅におり、二人でこちらを向きバイバイと手を振った。電車の中の僕は小さく「じゃあな」と言って、ドアが閉まった。
動きだして駅を離れる電車の中から、僕は仲良く駅のホームを歩く高校生カップルを見えなくなるまでずっと見続けた。