独房に染み付いた血と雰囲気。
「扉なんてあるんですね、見えませんでした。」
「あはは、まだ覚醒前だから見えないはずだよ~。」
「覚醒、とか厨2っぽいですね。」
「うえっ!?」
私の手を握り、先導しながら話しかけてくれたキカイさん。
その声には相変わらず人間味がなく、握られた手からも熱は伝わってこない。
まるで本当に誰かに作られた物のようだった。
人格のあるロボットなんて巷では沢山いる…否居たし。
よくわからない、この世界とやらでもそんなロボットが居るんではないか。
「と言うか、キカイさん名前からして人工的ですね。」
「酷いなぁ、人間だよ?」
「えっ?」
「待って、そこ驚くとこ?」
驚くところです、なんてその頬を突っつきながら言う。
やっぱりその頬は冷たくて、本当に人間なのかな─だなんて考えてしまう。
トントンと階段を登りながら、独房のような景色が流れていく。
柵越しに見える部屋は本当に牢屋のようで、雰囲気が禍々しい。
それに、よく見ると目を凝らすとだが確かにこびり付いた血が─
「ここ、本当に人が入ってたんだってさ。」
銀髪を揺らしながら、急に何も喋らなくなった私の心を読み取ったかのように声をかけてくる。
ナイスタイミング。
でもまた、その後どちらともなく会話がなくなり足音だけが響くようになる。
「ほらさっき、金髪の幼女が居たじゃん?」
「あー、居ましたね。」
「あの子、この国のお姫様なんだよー。」
え?
姫って、あのロリが?
あのロリが姫?
長く長く続く階段を登りながら、その話に耳を傾ける。
「サラ・ヘルニア。って言ってね。可愛いでしょう?小さい頃から一緒なのよ。」
そう言ってニコリと微笑む姿に思わず、胸がドキリとした。
この笑顔を私はどこかで、どこかで何年も見つめてた…そんな気がした。
「キカイさん、私たちってあったことあります?」
「無いよ。」
即答。
その質問が来ることを知っていたのかのような答え。
そしてまた声は冷たく感情のない声になる。
長く続く階段にないよ、という答えは反響する。
「まぁでも、前世でなら有ったんじゃない?」
「前世とか……キリスト教ですか?」
「は?何それ?」
何それって、キリスト教です。
仏教とか、キリスト教とか宗教です。
「私たちの世界のヘルニア教見たいな?」
「ヘルニア、教…?」
「聞いたことない?まぁ、ここはあなたのいたα世界とは違うからなぁ……」
「α世界?……もしかしてここ、異世界とかですか?」
「それはルキに聞いてよ。…ほら、着いた。」
本当ですね、そう言おうとした。
だが、それは言葉にならなかった。
そのあまりの美しさに私は言葉を失ってしまったのだ。
そこはカラフルな人たちが歩いていて。
なんというか…神秘的な力に満ち溢れていた。
「私たちのβ世界にようこそ。ユイ。」
名前、言ってないのになぁ…
そんな疑問はすぐに消し飛んだ。