目覚め
彼の意識は深い漆黒の闇の中にあった。
音も無く、香りも無く、熱さも無く、全ての感覚を失い。
眼前の闇が本当に闇なのかさえ、解らない位に、彼の意識は小さなものであった。
眠りというより、限りなく無に等しい存在だった。
そんな彼の意識に語りかける声があった。
『目覚メヨ…時ガキタ…目覚メヨ…時ガキタ…目覚メヨ…時ガキタ…』
繰り返し頭に響く機械じみた声、いや音に彼は目覚めた。
「…」
無言のまま、ゆっくりと目を開く、白い光が網膜に届くのを感じる。
そしてまた目を閉じる。
今度は、耳を澄ます。
微かに男の声が聞こえる。
「…た。壱を焼却処分しろ!とのことだ。今から実験室内の温度を1000度まで上げる。いいな!」
「…」
自分が焼却処分することを知った彼は、それでも、驚くことなく、ただじっとしていた。
覚醒して間もないため、まだ身体が自由に動かないこともあるが、1000度程度の熱で自分の身体が焼失してしまうとは、とても思えなかった。
彼も人工ウイルスを保有している、しかも、肉体改造も施されている。
彼の保有しているウイルスは零のモノとは違う。
MAMAをさらに強化した、永遠に変化し、あらゆる環境に対応するウイルス『メビウス』。
幾重にも重ねられた、ウイルスの遺伝子が螺旋を描きながらメビウスの輪のような形をしている。
細胞の遺伝子に寄生し、細胞の機能を完全に支配し、生き残る為に形振り(なりふり)構わず、増殖と変化を繰り返す、凶悪のウイルスだった。
時に、寄生している生物の形や能力までも変化させる、ただ生き残るために存在し続ける。
高温耐えられる身体を造り出す事も可能であった。
つい先程までの彼は、生体活動自体を強制的に仮死状態にされていたので、必然的に寄生しているウイルスも活動を止めている状態であった。
しかし、彼は目覚めた。
その凶悪のウイルスを宿した彼は、如何なる外的変化に対しても対応できる。
ただ、ウイルスに侵された細胞の負担は大きく、寿命は、一年程であった。




