機内にて
会議室でのやりとりと同時刻、一機のヘリコプターが研究所に向かって飛んでいた。
軍用ヘリコプターを思わせる武骨なデザインをしており、深緑の機体に金色のラインが二本入っていた。
「今回の目的は『MAMA』関連の技術提携ということになるが、ことによると保護と隔離の観点から強奪まがいのことになるかも知れんな…。」
がっしりとしたからだの四十なかばの男が脇に座る白髪の痩せた老紳士に語りかけた。
「社長が強奪とか言うと見た目も…かなりやばい。(笑い)」
「早い者勝ちじゃないが、何処かの国に奪われる可能性もある。軍事兵器にでもされれば、この世は地獄だ。
少なくとも、人類が生き残る一つの選択肢として、『MAMA』を確保しなければならない。」
「もし社長の考えが合っているとして、人類が生き残る可能性はどのぐらいですか?」
「100パーセントだ」
「しかし私の推測では、感染後、MAMAを発症してからの生存率が20パーセントと思われます。もしかしたら、滅亡もあり得る危険です。私は、永久凍結した方が良いと思いますが、…」
「選択肢が多い方が良い。私は、『MAMA』こそが人類が生き残る最良の手段だと思っている。そもそも我々に猶予はない。決断は早い方が良い。最近の自然環境の悪化は、我々の想像を越えている。焦りは禁物だが残された時間が少ないのも事実だ。」
「しかし、今、開発中の大気浄化システムの完成を待ってから判断しても遅くないのでは?」
「あれが予定通り稼働しても、世界中に一万基も設置しなければならない。浄化後の廃棄物の処理の問題もある。そもそも気温変化や空気中の酸素濃度の変化には、余り効果がない。私は、その先のもう一手が欲しいのだよ。」
「地球内コロニー化計画や全天候対応スーツでは駄目なのですか?」
「人類という種自体の根本的変化がなければ、本当の意味で生き残れないだろう。そのための『MAMA』だ。」
「その結果人口が激減したとしてもですか?」
「勿論、今のまま感染すれば、人口が激減するだろう。人類以外の動植物に感染した場合の変化も確認しなければならない。人類は生き残ったが食べるものが絶滅したり、食物連鎖のバランスを著しく崩す可能性もある。その為に、そうさせない為に我々が手助けしなければならない。」
「神様や地球に喧嘩を売っているみたいですね。」
「別にそんなつもりはない。人類を地球の癌の様に考えるつもりもないし、選ばれた物(者)とか、神の化身とか考える必要はないだろう。」
「では、なんのためにこのような事を…。」
「我々が生き残るためだ。」
「滅びの先送りですか?」
「大方、そんなところだ。だいたい滅びないものはない。地球にも寿命がある。永遠はあり得ない。ただ我々は、人類は生き物だ。生き物は生き続けるから価値がある。それが幻想だとしてもだ!」
前方に山間の小さな町が見えはじめた。
機内のスピーカー越しにパイロットの声が入る。
「まもなく着陸体勢にはいります。」




