真実
操縦席は跡形も無く潰れていた。
そこにいるはずの操縦士は無く、折れ曲がり押し潰され、屏風のように重なった操縦席の残骸に血と肉片がこびりついた。
「何て惨い…」
零は目を背けて、小さく呟いた。
操縦士を助け出す事はできなかった。
零には特別な力がある。
人造生命体という人外な存在であり、二種類の人口ウイルスに感染した唯一の存在……
過酷な環境に対応する肉体……
如何なる傷や病気をも治すメビウスの力……
過酷な環境に対応する能力を与え、時に人の命をも奪うMAMAの力……
零は助け出した男を『二人の家』に連れていき、ベッドに寝かせ、湧水を汲んで来て彼に飲ませた。
彼は正宗と名乗った。
半日程すると彼の身体は事故前の状態まで戻っていた。
「これは…驚いた…何ともない…」
彼は腰をひねりながら呟いた。
「そのままでは動きづらいでしょう…こんなものしかないのだけれど…」
そう言って零が抱え込む様にしてトレーナーとジーンズを持ってきた。
その声に気付き彼は振り向く。
「それは…」
「休日用の教授の私服なの」
「教授?」
「ここは教授と私の二人の家…」
それから零は二人の家の話をした。
一通り零の話を聞いたあと正宗はある疑問を持ち始めていた。
何故、こんな少女が『MAMA』の実験体に選ばれたのか?
彼女の話ぶりからすると、彼女と教授とはまるで家族の様な関係であった。
なら、尚更『MAMA』の実験体のような危険な事に彼女を巻き込んだのか?
「唐突な質問なんだが…」
正宗は聞きづらそうにしながら、それでも零のどこか大人びた瞳を見ながら言葉を続けた。
「君は何故、MAMAの実験体になったんだい?」
彼女は少し考え込むような仕草をして…小さく息を吐き、一拍間を置いてから静かに話始めた。
「私は教授にとって亡くしたくない存在だから…人類が滅び、いなくなったとしとも私だけは生き残る様にMAMAを開発し私に授けた…私の身体は教授のかけがえのない恋人の細胞を元に構築された…人造生命体なの。人の形をしたはいても人間ではないわ…」
彼は予想外の話に困惑した。
「人造生命体だって…」
彼が何か話そうとしたが、彼女は右手を胸の高さにあげ手のひらを彼に向けて、無言で彼の話を制止し、話を続けた。
「教授には昔、恋人がいたの。信じられない話かも知れないけど、彼が初めて彼女にあった時、彼女は幽霊の様な存在だったようなの…それでも彼は彼女を好きになり彼女もまた彼に好意を向けるようになっていった。彼女は彼と一緒になりたくて、色々頑張っていたらしいわ…業とかいうらしけど…そして彼女は人間の身体を手に入れる。そこで二人は結ばれる筈だった。でも、それは叶わなかった。彼女は事故に巻き込まれ亡くなってしまうの…悲しみの中で彼は彼女の思い出にすがり…そして彼女の細胞を元に私を造った。でもそれだけでは話は終わらなかった。今度は地球環境の悪化が私達を襲ってきた…私の身体は通常の人間より環境の変化に順応できない事が分かり、彼は私をどんな環境にも対応できる体にしようと考えたようなの…そしてMAMAが造られ、私はそれを受け入れたの…でも、そのMAMAも完璧ではなかったの…今度は彼がMAMA対応出来ない体だとわかって…彼の死後いや…人類滅亡後も私が生きていけるようにと壱を造った…そして彼には『メビウス』というウイルスを授けたの…どんな環境でも私を守るように、新しい人類の種になるようにって…」
彼女は急に話を止め、両目に涙を浮かべた。
「でも、壱は死んでしまった…さっきの爆発で…私を助けて…」
彼女は泣いた。




