与奪(よだつ)
金属の擦れる音と共に閉ざされた扉が開く。
日の光が機内に差し込む。
白い光を背に受け、少女のシルエットが浮かび上がる。
ゆっくりと周りを窺うように少女が機内に入ってきた。
朦朧とする意識のなかで、彼は彼女の姿を見た。少女の容姿は幼なかった。
見た目中学生ぐらいだった。
ライトブラウンの髪は背中までのびていて、瞳は淡い琥珀色をしていた。
その眼差しはやけに大人びていた。
どことなく人形のようでもあった。
「君が…MAMAなのか?」かすれた声で彼は呟いた。
「そうよ。…酷い怪我…」
彼の下腹部には赤黒い血が流れていた。
白いワイシャツを暗い赤に染め上げていた。
「じっとしていて…きっと、壱が助けてくれるから…」
彼女はそっと白く細い手を彼の傷口にあてた。
彼女は静かに瞳を閉じた。
一瞬、時間が止まった様に感じた。
彼女の手が淡く輝きだす。
白い手が更に白くなり、まるで白磁の様になる。
金剛石の様な光が彼の傷口を包み込んだ。
しばらくすると出血が止まった。
彼女はもう一人の男も助けようとした。
彼女が手を触れると傷口はふさがった。
しかし、程なくして彼は熱さと痛みを訴え始める。
涙腺から血を流し汗腺から血が溢れ、口から涎の様に血を流しながら彼は絶命した。
零は助けたかった。
目の前の全ての人を死なせたくないと、心に強く思った。
しかし、それは叶わなかった。
彼女が壱の最後の涙で授かった『メビウス』の力で助けた二人の命は『MAMA』の感染によってその明暗をわけた。
零は自分の特異性に改めて気づいた。
まして、自分は人造生命体である。
人間の形をしているが、倫理的に本当に人間かどうか疑わしい存在である。
動物と同じくただの生きる物として認識されてしまえば、殺されても殺人者に科せられる刑は不当投棄ぐらいのものである。
そんな、曖昧な存在であるが故に、零は自分の存在意義を探し求めた。
そしてあの時、MAMAの開発がスタートした時、教授から実験台になって欲しいと言われたとき、彼女は二つ返事で了承した。
あの時、彼女は自分の存在価値を欲していたのかも知れない。
そして手に入れた『メビウス』と『MAMA』の力が彼女の望む、望まないにかかわりなく人を命を与奪してしまう。




