MAMAを知る男
「声からして、女の子のようだが、なぜこんな所にいる?」
危機的状況あっても男は冷静だった。
「えっ!」
行きなりの問いかけに零は、困惑した。
「町から離れたこんな場所に、しかも事故現場のこんな近くに少女が一人で何をしていたんだい?」
更に、男の質問は続く、「研究所の関係者かい?それにしては、声が若いな…まさかMAMAの感染者か?」
男の言葉に零は沈黙するより他なかった。
『……』
長い沈黙の後、男はまた話始めた。
「どちらにしても、ここは危険だ、早く逃げなさい」
零は少し考えてから口を開いた。
「貴方はMAMAを知っているのですね。怖くないの」
その言葉に男は悟った。
「すると、やはり君は感染者なのか。まぁ、どちらにしても身動きの出来ない状態では、何も出来ない…MAMAが怖くないと言えば嘘になるが、すぐに感染する訳じゃないだろう?それに…」
「それに…?」
「どちらにしても出血も止まらない。そう長くはないだろう」
「怪我をしているの」
「あぁ、助かりそうもない」
彼は、落胆の声を漏らした。
「いくらなんでも、怪我人を前に何もせずに行くことなんかワタシは出来ません。」
彼女は金属の扉に手をかけた。
渾身の力で扉を引いた。
扉は微動だにしない。
「うぅ、動いて!」
祈るような気持ちで、呟きながら、何度も扉を引いた。
自分が恐ろしいウイルスの感染者であることは分かっていた。
もし、彼を助け出したとしても、ウイルスに感染し命を落とす危険性もあった。
でも、今は彼を助けたいと思った。
少しでも可能性があるなら、助かる望みがあるなら、……
「お願い開いて…」
目の前で人が死んで行くのを見たくはなかった。
脳裏に灰の様に崩れ去った壱の姿が浮かんだ。
彼女は心のなかで叫んだ。
彼女は心のなかで求めた。
『お願い開いて…壱、力を貸して』
すると、零の身体は微かに輝きだす。
身体の中の血液が熱をおび、勢いよく膨れ上がるような感覚が、彼女を襲った。
零は歯を食い縛り、両足で大地を掴み、体全体をしならせながら力強く扉を引いた。
金属の擦れる耳障りな音と共にゆっくりと扉が開く。
暗く閉ざされた機内に光が差し込む。
その中には二人の男が血まみれの状態で倒れていた。




