二人の家
零は雑木林に向かって走っていた。
幼かった頃、研究の合間に教授と遊んだ思い出の場所。
研究所に住み込んでいた為、休日帰る家がないとつまらないだろうと、教授が慣れない日曜大工で傷んだ炭焼き小屋を手直しして造ってくれた、『二人の家』がある場所。
近くに小川があり、魚釣りをしたり、木の実や野苺を採って遊んだ。
彼女にとって故郷のような場所だった。
もしかすると、教授も逃げて来ているかも知れない、そんな事を考えながら彼女は向かっていた。
あの穏やかな日々が戻って来て欲しいと、淡い期待を持ちながら、…
程無くして、彼女はある異変に気づいた。
二人の家の辺りから、白い煙が上がっているのが見えた。「!」
全速力で彼女は走った。
傾斜地を一気に上がり、胸まである草をかき分け、木の根に足を取られそうになりながら、息を切らしながら、走り続けた。
そして目の前の光景に零は愕然とした。
二人の家の屋根にヘリコプターのローターが突き刺さり、少し先の大きな木の脇に、その本体が煙を上げながら、半分潰れた状態で横たえていた。
焦げた臭いが辺りに充満していた。
カラン
何かが落ちた音がした。
潰れたヘリコプターの方から、金属の棒のようなものが転がって来た。
咄嗟に、零が叫んだ。
「誰かいるの!」
何の反応もなかった。
それでも、誰かいるかもしれないと思い、彼女はゆっくりとヘリコプターの残骸に近づいていった。
彼女が耳を済ますと、機体の中からくぐごもったうめき声が微かに聞こえた。
バンバン
「中にいるの?」
バンバンバン
歪に潰れた機体を叩きながら、声をかける。
「…すけて…れ、体がおし…うご…けん…足が…うぅ」
途切れ、途切れに男の声が聞こえた。
「動けないのね。待ってて今、助けをよんでくる」
彼女は駆け出そうとした時、また声が聞こえた。
しかも、別の男の声だった
「無駄だ、もう助からん…それより」
一瞬、声が止んだ。
「何?」
彼女は機体に両手をつけて、耳を圧し当てた。




