イキテ
「うっ…」
零は意識を取り戻す。
周りは瓦礫だらけだった。
彼女は何かの影があるのを背後に感じた。
「はっ、壱…壱なの?」
急いで後ろを振り返ると、黒く焼けた炭の塊が立っていた。
「壱?嘘よ!壱は、壱は…」
彼女は、周りを見渡すが、人の気配はなかった。
「そんな、そんなことって!」
彼女は力なく倒れこんだ。
「壱〜〜〜〜〜!」
涙を浮かべ、小さな白い手で大地を鷲掴みにして、全身から吐き出す様に叫び声をあげた。
「レ…イ…」
微かに響くその声に彼女は振り返った。
「壱…どこ?」
虚ろな表情を浮かべながら、周りを見渡した。
しかし、彼の姿は見あたらなかった。
黒い炭の塊からそよ風のような、柔らかく小さな優しい声が流れてきた。
「僕はここだよ…」
「壱なの?」
「…」
「壱…」
そこかしこから、火の手が上がり、小さな爆発音と共に、金属片やコンクリートの破片が飛び交うなか、二人だけの一瞬の静寂が流れる。
「……………」
「……………」
そして、その時訪れる。零は見上げる様にして、彼の顔を見つめる。
彼女の瞳は潤んで、今にも、涙が流れ落ちそうだった。
零は微笑みを浮かべる。彼女の手のひらが静かに彼の頬の辺りを触れる。
腫れ上がった上に炭化した彼の顔は、その形を失っていた。
そんな彼の顔を彼女は見つめ続けた。
「ありがとう…壱…助けてくれて…」
彼女は分かっていた。
彼の命が後僅かだと言うことを、…
彼の身体は限界を迎え、砂のように崩れ始める。
零は抱き締めたい、気持ちを押さえた。
少しでも触れば、崩れ落ち、無くなってしまいそうだった。
彼の顔から一滴の涙が零れ落ちた。
それは、彼女の頬に落ち唇へと流れていった。
「イ・キ・テ」
最後にそう言って、壱は彼女に倒れこむように崩れ去った。
彼女は、身体を震わせながら、静かに立っていた。




