灼熱
実験室内の温度が、急速に上昇する。
遮蔽シールドに覆われ、外を伺う事はできなかった。
多孔質硝子の内側は、溶鉱炉のような熱さになっていった。
身体中に、火傷のような痛みを感じ、彼は、目を開ける。
流石に、1000度を越えてくると、身体を構成する物質の限界を遥かに越えている。
『メビウス』をもってしても、その環境は苛酷なものであった。
彼は、立ち上がり、硝子の前に立った。
静かに息を整える。
口の中や気管支やら、肺などに鋭い痛みを覚える。
しかし、程無くして、痛みは消えていく。
次の瞬間、右手が金剛石の様に輝き、その拳で硝子を力強く何度も叩いた。
硝子に放射状の亀裂が幾つもはしる。
それを見た彼は、数歩後ろに下がり、助走をつけて、肩から体当りをする。
硝子は粉々に砕け、熱風が遮蔽シールドを襲う。バン、バン、ボン
激しい音と共に、熱膨張によって、遮蔽シールドが変形していった。
その頃、零は、壱の実験室を心配しながら、見ていた。
バン、バン、ボン
彼の実験室を覆う黒い壁が、激しい音と共に、変形しオレンジ色に変色していった。
「壱、無事でいて、御願い。」
彼女は、硝子の壁に両手をつけて、視線を送り続けた。
硝子越しに伝わる異常な熱さが、彼女に最悪の事態を想像させた。
「壱、壱、壱、死んじゃいや。生きて、生きていて、壱…」
彼女が、呟きながら、…祈る。
すると、オレンジ色に変色した壁が、水飴の様に溶けて、床に白い煙を上げながら広がって行く。そして、その中から、金剛石の様に輝く人形が現れた。
「壱、壱無事だったのね。」
彼女は、少し安堵したが、輝き続ける彼の姿に、叫び声を上げた。
「駄目よ!戻って壱!」
それでも、彼は、輝き続ける。
「メビウスが、貴方を壊す前に、戻って!早く戻って壱!」
壱は、元の身体に戻ることなく歩み寄る。
突然、建物内に火災報知器の音が響き渡り、スプリンクラーから大量の水が滝のように噴出する。
分厚い防火シャッターが壱の前に、降り始める。 彼は、慌て零の実験室に歩み寄る。
そして、彼がシャッターをくぐり抜けた。
その時、信じられない程の轟音と爆風が彼等を襲った。
水蒸気爆発が発生し、研究所は、瓦礫と化した。




