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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: 高月 琅真

初投稿させていただきます!よろしくお願いします‼︎ホラーのジャンルにしたけれど、ホラーじゃないかもしれません!

そこは、薄暗くて、暑くて、気分が悪かった。

自分の記憶が曖昧で、なんでこんなところにいるのか理解できなかった。それは、今隣にいる少年も同じだろう。僕よりも、確実に年下であろう小柄な彼は、自分の爪先あたりをじっと眺めていた。

僕は、彼が誰なのか分からなかった。

「なんでここにいるの?」

彼は突然そう言った。声が跳ね返って、何重にも聞こえた。

「さあ、僕にはわからないな。残念だけど。」

本当に意味が分からない。どんな理由があって、こんな気持ちの悪い場所にいなければならないのか。さらに、ここには何もない。窓も、扉も。あるのは、少し大きめな岩だけだ。出られるなら、一刻も早くここから出たいのである。

「どれぐらいの高さがあるのかなあ。」

彼の言葉を不思議に思い、そちらの方を見ると、彼は僕ではなく、上を見上げていた。

僕も同じように上に目をやると、薄い青が広がっているのが見えた。

「なるほど、僕たちは、何か深い穴の中にいるわけだね。」

彼は上を見たままこくりと頷いた。

「外は快晴のようだね。そして、乾いてる。」

いいな、と、僕はつぶやく。

湿気だらけでこもった穴の中は不快極まりない。重苦しい空気が、肌にまとわりついてくる。引き剥がしたくても、引き剥がせないもどかしさが、ますます不快感を際立たせる。

彼はふぅ、と、一つ溜め息をついてその場に座り込んだ。彼が座っても、まだ多少は余裕がある。僕も、彼と同じく、その場にしゃがみこんで、欠伸をした。

それから、一つ質問をした。

「君の名前は?」

少年は、僕の目を見て、すぐにそらして、また空を見上げた。

「さあ、誰にもわからないよ、そんなこと。」

どこかさみし気な表情で彼は言った。

「わからないのかい?自分のことだろ?」

そう言うと、彼はこちらを見た。そして、微笑んだ。

「じゃあ、君はどうなの?わかるの?」

自分のこと。彼の澄んだ瞳が僕を見据える。「わかるさ。僕は……」

あれ。

「………誰なんだろう」

少年はくすっと笑った。

「ほら、わからない。自分のことなのにね。」

僕はだれなのか。何歳なのか。自分の顔さえも、思い出すことができなかった。いや、そう言うより、元から知らなかった、と言うほうがこの頭の中の空虚感についての説明がつくかもしれない。

「僕は僕を知らないけど、君も君を知らないんだね。」

そう、と、彼は答えた。

「そうなったら、もう誰にもわからないよ。」

彼はやはりさみし気な表情で笑い、そして俯いた。それとは反対に、僕は上を見上げた。そして、あ、と呟いた。希望の光が、一本、降りてきたのだ。

「助けだ。」

少年は、ゆっくりと視線を上に向ける。僕は勢い良く立ち上がった。

上から、一本の蔦がゆっくりと降りてくる。誰かが助けようとしてくれているのだろうか。それはだれなのだろうか。

蔦は目の前まで降りてきた。しかし立ち上がっていた僕はまたしゃがみこんだ。

「これで外に出れるね。やっとだ。」

僕は、嬉々として言った。彼は微笑んでいたが、何も言わなかった。

「それで?」

彼は穏やかな声で僕に問いかけた。

「え?」

「どうして君はまたしゃがみこんだの?外にでれるよ?

あんなに待っていた外じゃないか。」

「そうだね。待っていた。」

僕は続けた。

「でも、僕にはこれを登ることができない。」

少年は少し驚いたような顔をして、僕を見た

「どうして?」

僕は微笑んだ。

「この蔦は、僕が登るには細すぎる。登ったら、すぐに千切れてしまうだろ。」

少年は、考える素振りをみせた。

「…確かに、君は、僕より一回り大きいし、体格も割といい。でも、登れるかもしれないじゃないか。」

蔦は意外と丈夫かもしれない。

彼はそこまで言って、じっ、と僕をみた。

「僕が先に登って、それで蔦が千切れてしまったら、君も助からなくなるじゃないか。」

そう言って僕は彼に笑いかけた。でも、少年は、ちょっと小馬鹿にしたような顔でじっと僕を見ていた。

「君なら登れるだろう。だから、登ってから、助けを呼んでくるか、太い綱みたいなものを探してきて欲しいんだ。ここに残るのはさすがに耐えきれないからね。」

彼は冷ややかな眼で僕を見据える。

「上に人がいる可能性はどれぐらいだと思う?」

彼はそう言った。僕は何も言えなくなって、彼から目を逸らす。そのまま、彼の言葉を待った。すると、彼はまた口を開いた。

「僕が君を裏切る可能性はどれぐらいだと思う?」

僕はたじろぐ。どういうことだ。意味がわからない。彼は何を言いたいのだろうか。

「君は、何が言いたいの?」

僕はそのまま問いかけた。

彼は僕を睨み、それから一瞬でまた穏やかな笑顔に変わった。

「冗談だよ」

笑いながら彼が言う。唖然としていた僕も、なんだかおかしくなって、一緒に笑った。しかし、さっきの彼の言葉に、言いようのない不安を感じていた僕は、おそらくちゃんと笑えていなかっただろう。

「大丈夫、君は僕と同じ結果になるよ。」

彼の言葉に、僕はようやく安心して、頷いた。

沈黙が流れた。日の照らす外に、僕も出ることができる。その期待と喜びは、僕の心を弾ませた。

「…じゃあ、そろそろ僕は行こうかな。」

彼は立ち上がり、蔦をつかんだ。それから、僕の足元を指差した。

「そこに、岩があるだろ?ちょっとそれを取ってくれないか。」

僕は岩を掴むと、彼に差し出した。彼は、岩を蔦の真下に置くと、その上に乗った。どうやら、踏み台にするらしい。

僕はその様子を、じっと眺めていた。そのことに気が付いた彼は、こちらを見て笑った。

「終わるまで、後ろを向いて、目をつぶっていてくれないかな。見られると、なんだか緊張して、手が滑ってしまいそうだ。」

彼がそう言うので、僕も笑って了承した。

目をつぶって視界が真っ暗になると、なんだか不安になる。視覚って、やっぱ重要なんだよなぁ、と、関係のないことを考える。

すると、後ろから声がした。

「じゃあ、そろそろいくよ。

また、あとでね…」

僕は頷く。後ろから岩が動く音がした。登り始めたのだろうか。

「どうだい?」

僕は言ってから後悔した。声をかけて、集中を切らしてしまったら元も子もない。

彼は何も言わなかった。ただ、苦しそうな喘ぎだけが聞こえてきた。

ギッ、ギッ、と、蔦を軋ませながら。

「…頑張れ。」

辛いのを乗り越えれば、あとは楽だから。自分も、早くそうなりたいと思った。


それからいくらか経った。

気がつくと、少年の息づかいと蔦の軋む音が聞こえなくなっていた。

もうそろそろ登り終えたころか?

「どう?終わった?」

上の方に向かって叫んだ。

しかし、返事がなかった。何回か繰り返して叫んだが、声が帰ってくることはなかった。

不安。

『僕が君を裏切る可能性はどれぐらいだと思う?』

もしかしたら、逃げた?彼の言葉が、頭をよぎった。

不安から逃げるように、目を開いた。視界がかすむ。目眩がして、心臓が脈打つ。大丈夫、大丈夫。彼は逃げてなんかいない。自分を落ち着かせてから、僕は後ろを振り向いた。

彼は、まだいた。

最後に見た場所と同じところに、彼はまだいた。

頭が状況に追いつかないうちに、僕の目は、彼の宙に浮いた足と、首に括りつけられた蔦を見た。

息が荒くなって、立っていられず、その場に座り込んだ。目を逸らすことができなかった。

そして、理解した。

ひっ、と短く叫んで、僕は後ずさった。すぐに壁にぶつかったが、その痛みよりも恐怖が勝っていた。

とにかく、彼から距離を取りたくて、壁に身をできる限り寄せていた。

なんで彼はここにいるんだ。蔦を登って外に出たんじゃないのか。なんで、なんで、なんで!!

その考えがぐるぐると巡っていたとき、僕は思い出した。思い出してしまった。

彼の言葉。

『大丈夫。君は僕と同じ結果になるよ。』

君は僕と同じ結果になるよ。

君は、僕と、同じ、結果、に、

なるよ、。

君 は僕 と 同 じ 結 果 に…

彼と同じ結果…

僕も、同じ結果に?

汗がだらだらと流れてくる。嫌だ、そんなのは、嫌だ!

思わず叫んだ。僕は死にたくないんだ。外に出て、空を、大きな空を仰いで、生きていたいんだ。

こんなところで、死にたくないんだ。

彼は動かない。笑わない。話さない。目は僕を見ていない。

そのとき、上から蔦が3本、目の前に降りてきた。

助かった!そう思ったのは一瞬だった。

3本の蔦は、彼の首にあるものと同じだった。先が丸く括らたそれらは、死を催促しているようだった。

僕は声にならない悲鳴を上げた。伝わらない叫び。

だれだ?誰だよ、こんな事する奴は!何で、なんで少年はクビヲツッテイルンダ?死んでいるんだ?教えてくれよ、誰か、誰か…。縋るように空を見上げる。さっきまでの澄んだ青はそこにはなかった。あるのは、闇だ。深い深い、終わりの見えない奈落だ。目が眩んで、僕は目線を下げた。

彼と目があった。僕は息を止めた。いや、できなくなったのだ。

彼はこちらを見ていた。

僕も、彼を見るのをやめられなかった。

彼は、懐かしむかのように、それでいて蔑むように、僕をみていた。僕は、全身の血が全て、自分の爪先の方にサッと移動するのを感じた。

彼の口が動いた。そして、にやりと笑った。声は出ていなかったが、僕には、彼が何と言ったのかが手に取るようにわかってしまった。

『 』

………………………………………

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