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第5話

 昔の人は善は急げと言いました。何が善かはともかく、早速愼也には実行して貰うことにした。

 放課後、たまに由枝やクラスの友達とかで利用する喫茶店に来た。

 そして約束を実行して貰ってから店を出る。

「なんで由枝ちゃんの分まで俺が払わなければならないんだ? 秋穂の分は奢る約束したら払うけど、お前の分まで払うと言ってないぞ」

 喫茶店を出るなり愼也は由枝を指さす。

 当の由枝は、「そうだっけ?」と言って惚けている。

「それにそもそもなんでお前がいるんだ?」

「それはですね。心の友である秋穂ちゃんから、愼也君がなんでも奢ってくれる、って誘いを受けたからに決まっているじゃない」

 そう言うと由枝は私の方を向いて「ねぇ」と言って笑い、それに私も合わせる。

「付き合うだけのような感じで付いてきたけど、端っからたかる気満々だったわけだ」

 愼也は呆れ顔でため息を吐いている。

「たかる気って、人聞きが悪いね。私はせっかくのお誘いを無下に断るような人間じゃないだけだよ」

 由枝はそう言って笑っている。

「どうとでも言ってろ……」

 愼也はそう言い捨てると、私たちを置いて歩き始める。私はその後を由枝と笑いながら付いていく。

 由枝を誘ったのは、喫茶店で二人っきりってのはデートでもしているようで気恥ずかしいというのがホントの理由。

 でも誘った時点でこうなることは予見できたけど、ゴメンね。


 自宅に帰り着いていつも通りに家事をこなす。

 でも頭の中では、あのときのことがどうしても思い返されてしまう。

 初めて見たときに感じた懐かしいという感覚。でも記憶や昔の写真にそれに該当すると思われる場所の記録などはない。

 そして今日。その風景の中にいる人。伝わってきた悲しみに満ちた感情。

 皿を洗っている手が止まる。

 その感情を思い出すだけで胸が締め付けられるように痛い。

 その痛みは、何か大切なものを失ったときのもの。いや、それ以上の感情。

 そんな感情を引き起こすようなことが、その人にはあったのだろうか。

 そしてその感情が自分に向けられているらしい。

 あの夢の中で自分が呼ばれているとするのなら、その感情が自分に向けられていると考えても間違いはないだろう。

 でも何故悲しみなのだろうか。

 どんなに考えても答えが見つからない。考えて無駄だと言うことを頭のどこかで理解している。そして考える度に出るのは答えではなく、ため息だけだと言うことも。

 だからあれはただの夢だと思うことにしようとした。でもすぐにそれはわだかまりみたいなものによって否定される。

 どうしたらいいんだろう……。ため息一つ、洗い物を再開する。


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