第1話
前に投稿した作品の再掲載です。
そこは一面の笹野原。夕焼けに照らされて金色に輝いている。
そんな中に自分一人が佇んでいる。辺りを見回しても私以外の人も物も存在していない。
ここは何処? どうして私は、ここにいるんだろう。
分からないことばかりだけど、でも何故か心の奥底から懐かしいという感情が湧いてくる。
もう一度、今度はゆっくりと辺りを見回す。
すると一陣の風が私の周りを包み込むように通りすぎる。
その風に乗ってかすかに声が聞こえる。
それは誰かを呼んでいるような声。だけどハッキリと聞き取れない。
でも何故かその声が私を呼んでいるような気がしてくる。
不思議な感覚。
私は風が吹いてきた方へ振り返る。そしてそこには……。
秋穂は、目覚めるとそのまま見慣れた天井を見つめた。
いつもの寝起きより頭がハッキリしない。たぶんそれは今見ていた夢の所為。
見覚えのない景色に懐かしさを感じるなんてホントに変な夢。
ゆっくりと起き上がり、前髪を掻き上げ、ため息を吐く。
訳が分からない。でも考えようとしても何の手掛かりもなく、まとまるわけもない。
諦めに似た感情を抱きながら、制服に着替えてダイニングに向かう。
食卓には、いつも通り朝食と弁当が置いてある。
お母さん達、今日も早出なんだ……。
自営業を営んでいる両親は、最近仕事が忙しく、朝早くから事務所に行っている。
仕事があるうちが花だよ、と父親は言っているが、こう毎日だと体を壊さないか心配。
特に母親は、そんなときでもきちんと朝食と弁当を用意してくれている。
朝の準備や弁当ぐらい自分で用意する、と言ったこともある。でも母親は笑顔で「これは私の仕事だからね」と答えた。
ありがとうお母さん。
今は感謝をすることしかできない。でもいつかは……。
学校が終わり、友人と別れていつもの道をゆっくりと帰宅する。
夏が終わりを告げるように日が短くなってきている。
そういえば……。あの夢も夕方だった。
立ち止まり横にある更地に目を向ける。
宅地として売り出していた頃の看板も今は、雑草の中にひっそりと立っている。
こんな感じではなかった。もっと、なんか神秘的な。それにあそこは……。
何かを思い出せそうになった途端、胸苦しさを伴う目眩が起こる。
立っていることが少し辛くなり、近くの塀に寄りかかる。そうすることで少し体が楽になる。
どうしたんだろう……。こんな目眩は初めて。
貧血とは違う気がする。何が違うかは分からないけど。
ただ分かることある。それは、あの夢の風景のことを考えたときに生じたと言うこと。
もしそれが答えに繋がるなら……。
思いついたことを確認したくなる。だから少々体にだるさが残っているけど、寄りかかっていた塀から離れて、急いで家に帰った。