ある側近の焦燥
BL要素たっぷりあります。苦手な方はスルーしください。
私は第265代ヴィルヘルム魔王陛下にお仕えする側近である。
弱肉小食の魔界では、魔力の所有量によって位は決まる。本来なら私は、魔王陛下のお傍に侍ることすら許されぬ弱小魔族であった。
私の魔王様に初めてお会いしたのは、前魔王陛下が勇者によって倒され、町が混乱の最中にあるときであった。勇者の配下によって破壊尽くされた町は、統率者(前魔王陛下)がいなくなったことにより、魔族の本性をむき出しにさせていた。強いものが弱いものを殺し、その力を得る。その力を得たものよりも強い魔族がそれを殺し、力を得る。その繰り返し。泣き叫び、許しを請うたとしても、力がなければその先にあるのは消滅である。
そのとき私は生じてからまだ浅い魔族であった。魔族は生じた時に、強さが決まる。私は生じてより力が弱かった。父である魔族と、母である魔族はそれを嘆き、それを恥じた。私は生まれた時からいつ、自分が消滅させられるか、父か母に吸収させられるか、そんな中にいた。魔族の間にも、人間と同じく愛情は存在する。いや、むしろ魔族の方が人間よりもずっと相手に向ける愛情は深いだろう。しかし私は愛情に恵まれなかった。私は近いうちに消滅させられるだろう。無感動にそれを当り前のようにに受け止めていた。なぜなら弱い自分がいけないのだから。
町が破壊されたのはそんな折であった。私が生きていたのは偶然である。たまたま強い障壁の陣が張ってある闇教会に行っていたためだ。ちなみに闇教会とは、人間たちが神を信仰する教会とは全く別物である。闇教会は魔王陛下に祈りを捧げ、魔王様の一部となるために自らを贄として魔力を捧げる場所である。その時は、本当に自らを犠牲にしてまで捧げた魔力が、魔王様の一部になれるかどうかは分からなかった。ただ消滅するのは仕方がないとして、終わりは自分で決めたかったのだ。なんの情もない父か、母のどちらかと一緒になるよりは、まだ見ぬ魔王陛下に吸収させる方がマシだった。
気がついた時、私は瓦礫の下敷きになっていた。教会は外壁を少し残して崩壊し、見渡す限り生きているものはいなかった。教会の周りには炎の渦が迫っていた。
(………わたしは……いきて…いるのか?)
皮肉にも消滅を願われていただけが生きているようだった。多少切り傷があり、服も破壊の衝撃でボロボロになってはいるが、足を瓦礫に挟まれて動けないだけだ。瓦礫くらい退かすのは、私くらいの弱小魔族でも出来る。瓦礫をどかし、立って辺りを見渡すとあのお方がいた。さっき下敷きになっていたときにはそばで立っている人物など存在しなかったのに、まるで気配なく、すっとそこに姿を現したようだった。
私は一目見たその時から、あのお方は新たに魔王として生じた方だ、と感じた。むしろ分からない魔族などいないだろう。あのお方は涙を零していた。私はその顔に魅せられた。魔族は本来涙など流さない。どれだけ愛情を傾けた相手が殺されたとしても、犯人を殺すことはすれども、涙は流さない。傾けた愛情が嘘なのではない。魔族は基本的に壊すイキモノなのだ。壊すことが当たり前の魔族にとって、壊されることは、身を守る力がない方が悪いのだ。我々は感情に支配される種族ではなく、力の差がモノを言う種族なのだ。
しかし魔王様は破壊しつくされた町を見て、殺し、殺されていく魔族を見て、涙を流していた。その涙は、この世の何よりも美しい気がした。魔王様の圧倒的な魔力より、圧倒的な深い闇よりもなお、尊いものなのだと思った。
私はその時愛を知った。
それから私は何があってもこの方について行こうと思った。そのためなら何でもした。魔王様に初めてお声をかけていただいた時、両親を突然奪われた無垢な魔族の子供を演じた。魔王様の所有物となってならも弱小な私が魔王様に捨てられないように、魔力を増やすためなら何でもした。力の弱いやつから強いやつまで、殺しまわった。魔王様が理想とする魔界を作るために邪魔なものを、すべて私が壊した。魔王様に媚を売る男女全て、生きていることすら後悔するほど拷問をして、神族に奴隷としてくれてやった。 そうして300年の時が過ぎ、魔王様の理想である豊かで秩序の守られた魔界が完成した。私の魔王様の周りには、邪魔な四帝が侍っているが、もっとも魔王様に近いのは私だけになった。
しかし最近魔王様はお加減がすぐれない。そのため、私が本来魔王様が執務される仕事を私が代理として処理している。最初は少量であったものが、だんだん多くなり、ほぼ全て私の預かるところとなった。魔王様は時折、人間界に目を向けるようになった。配下からの報告によると、人間界では異世界から勇者を召喚したとのこと。しかし、力あふれた魔界に敵うものなどいないだろう。
(なのにこの焦燥感はなんだ?)
(魔王様が私に全ての執務を預けるのが原因か?私が一番の側近だと、信頼されているからではな いのか……?まるで…そう、まるで自分が居なくなっても困らないように、私に国のことを任せ ていると、私自身が感じているからではないか?)
(勇者が魔王陛下を倒す?馬鹿な!そんなことがあるものか!今や神族すら凌駕する魔王陛下が、 倒させるなんてこと………)
(魔王陛下が消滅する……なんて)
(魔王様が私の、前から、消えて、無くなる、な、んて)
(わたしのまおうがいなくなるなんて)
あの炎の教会で初めてお会いしてから、後ろをついて往くことを許されたときから私は魔王様の所有物になり、魔王様は私の全てになった。魔王様の望むものは私の望むもの。魔王様に私の全てを捧げたい。私は魔王様の全てになりたい。魔王は私のものだ。だから、魔王様に近づく女も男も許さない。魔王様をさずらわせるものは、すべて破壊したい。魔界など、どうでもいい。魔王様さえ、私のそばにいてくれたら、それでいい。
だから、例え勇者であろうと、世界だろうと、私から魔王を奪うものは、だれであろうと、許さない。魔王様は、全ての魔の王だけあり、いくら力が増したとは言え私では殺せない。消滅させられない。だけど、封印なら出来る。私の全ての魔力を持ってして、成功するかしないか五分ではあるが。だが、他の誰かに魔王様を奪われるくらいなら、私は封印の儀を行うだろう。永遠に二人でいるために。
魔族の愛はどの種族よりのも深いのだから。
ある側近はイルーシュカ、超美系ヤンデレ。
呑気な魔王様は、イルーシュカのアカデミー賞並みの演技にも気付かず。
イルーシュカの魔力が上がった理由も、「あー、あれでしょ?強いやつの近くにいるやつは、レベルが自動的に上がっていく?みたいな」と思っている。
魔王は選択肢を誤ると、二人だけの世界へ、とバットエンド
イルーシュカは、いつか四帝も塵にしてやろう、と思っている。
四帝は、いつかイルーシュカを殺して、魔王様を我がものに、と思っている。魔族の成分はほとんど、ヤンデレで構成させてるかも。