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男の正体

男は理恵の手を取ると、そのまま繋がった手を引っ張り、彼女を俵のように肩に担いだ。


「ちょ、な、何すんの!?」


突然のことに一瞬言葉を失ったが、すぐに理恵は男の背中をバシバシと叩く。

所詮少女の力などたかが知れていて、男は鬱陶しそうにメガネのフレームを直す。


「暴れても構いませんが、舌を噛まないように」


バサッという音と共に男の背中から真っ黒な羽が生える。

色は黒いがそれはまるで絵本に出てくる天使のように綺麗で、理恵は思わずその美しさに見惚れる。

男はまるで確かめるかのように翼を数度動かすと、理恵をしっかりと抱え込んで思い切り地面を蹴る。


「ひっ!」


自分が先ほどまで立っていた白い床がどんどん小さくなるのを目の当たりにして、理恵は体を固くする。

男の翼は力強く羽ばたいていて落ちる心配などないだろうが、万が一ということがある。


「学校の屋上から飛び降りたくせに、何を怖がっているんですか?」


頭上から男の呆れた声が降ってくるが、あらかじめ落ちるとわかっていることと万が一落ちるかもしれないでは恐怖の度合いが違うというものだ。

そう抗議したかったが、いかんせん口を開けば悲鳴しか出てこない状況に陥ってしまっているため、理恵は仕方なく男の嫌味っぽい言葉を黙って聞き流すことにした。

しばらくそうして飛んでいると、急に男のスピードが落ちてきた。

もう疲れたんですか?なんて嫌味でも言ってやろうと理恵はずっと男の肩にうずめていた顔を上げ、彼の方を見やる。

そして初めて気がついた。

目の前にそびえ立つ巨大な城を。


「これ…何?」


思わず呟いた彼女の質問に男はこたえようとはせず、城の正面に優雅に降り立つ。

それと同時に真っ黒な羽は背中に吸い込まれるように消える。


「行きますよ」


未だ城の大きさに圧倒されている理恵に一声だけかけ、男はそのまま城の中に入る。

しかし巨大で荘厳な造りとは打って変わって、内部はひたすら1本道。

廊下には曲がり角も分かれ道もほかの部屋に続く扉もなく、ただただ1本道。

この異様な空間に惚けていた理恵もだんだん正気に戻ってきて、再度男の背中をバシバシと叩く。


「ねぇ、なんであんなに大きなお城なのに、こんな変な造りなの?」


「…それはご本人に聞いてください。着きましたよ」


どこまでも続くと思われた廊下も終わりを告げたようで、2人の目の前には2mはあるであろう大きな扉。

お城と同じ真っ黒な扉はしかし金色の髑髏が大きく描かれていて


「壮絶に趣味が悪い」


思わず声に出てしまった本音に慌てて口を塞ぐのと同時に、男の手が扉をゆっくりと押した。

その外見を裏切らずギギィなんて不快な音を出しながら開いた扉の向こうは理恵の予想よりもずっと小さな部屋で、7畳ほどの部屋の真ん中にいた大柄な男とバッチリ目があってしまった。


「悪くないっ!」


若干涙目で叫ぶように訴えたその男が座っている椅子にも扉と同じ髑髏の模様が描かれていて、金色の髑髏を相当気に入っていることだけは伝わってくる。


「いやでもマジで趣味悪いですよ。大体大の大人が涙目って相当痛いですよ。しかも私たち初対面ですよね。せめてもうちょっとましな対応はできなかったんですか?こっちはいきなり空飛んだり、担ぎ上げられたりで疲れてんのにその上貴方みたいな大人と喋らなきゃいけないなんて「やめろよぉー」


たまりにたまった鬱憤から止まらなくなった理恵の罵詈雑言に、椅子に座った男はもはや半泣きだ。

その泣き顔にまたイラッとして口を開いた彼女を、隣にいた男が片手で軽く制す。


「……何よ」


「もうそれくらいにしてあげてください。陛下は精神が非常に不安定なお方なんです」


「ヘイカ?」


目の前の半泣きの男とその言葉があまりにもかけ離れすぎていて、理恵はそれが一瞬何を意味しているのかわからなかった。


「えぇ。彼は私たち死神の長であり、ここ魔界の頂点に君臨するお方です」


ヘイカ。シニガミ。マカイ。

それらの単語が理恵の頭の中をグルグルと駆け回る。


「私は貴女を死神にするべくこの城につれてきたのですよ」









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