魔法性質学
ルーアは思考の海から意識を引き上げると教室の時計は昼休み終了まで残り十分を指していた。すでに教室にはだいたいの生徒が席に座っている。だが誰一人として口を開く生徒はいない。次の魔法性質学の担当があの先生だからだ。もし話しをしているところを見られると大量の反省文を書かされる。
「やばっ。いったいどんだけ考えてたんだよ」
「はぁっはぁっあれっまだ、弁当食べてなかったの?」
声がした方を向くと汗だくのジークが膝に手を置いて息を切らしていた。リフとの追いかけっこがやっと終わったようである。あのジークをここまで追い詰めるとは女の恨みは恐ろしい。
「こっちもいろいろあってね。そっちこそ大丈夫か?」
「きょ、今日は気合が入っていたらしくリフが魔法を連発してきて大変だった」
「お疲れさん。魔法でどこか壊れなかったのか?」
「だいたいは空に飛んでいったけど一発院長室に撃ち込まれた気がする。おえっ」
ジークは吐き気を抑えるためか口を押さえていた。心なしか顔色も悪く見えている。
「おい大丈夫かよ?」
「だ、大丈夫、すこっ少し休めば」
ジークはフラフラした足取りで自分の席に戻っていった。念のため壁に埋まっているキマの現状を確認する。キマの目の前の席に着こうとしていた女子が悲鳴を上げていた。この状況は………無視だな。
「弁当は帰ってから食べるとするか」
弁当を鞄にしまっていると教室のドアが開いた。金色に染めた髪が何重にもカールして目つきが鋭い男性が入ってくる。魔法性質学の授業の担当であるネドル先生だ。半年くらい前に急に赴任してきたらしい胡散臭い先生らしい。
「静粛に今から私の授業が始まる」
誰もしゃべってねーよとルーアは思ったが口には出さない。ネドルの授業で私語を話した生徒は反省文を百枚書かされたという例が何件も存在する。そのため生徒からの評判がかなり悪い。
「おや、キマ君そんなところで何してるのかね?」
「壁に埋め込まれてます。できればここから出してもらえると助かります」
「君は前回のレポートを提出したのかね?」
「いえ出してないです。すみません」
「だったらそこ出すのは無理だな。まあレポートを提出していても出してやらないがね。では授業を始める」
こうして最悪の授業が開始された。二名を除く全員の生徒は注意力を全開にして授業が進んでいく。話を聞いていないと反省文を書かされるのだ。ルーアに至っては言いがかりで反省文を書かされた経験もある。ネドルの自慢話が含まれていたりするから全ての話を聞くのはすごい苦痛だ。
「人には固有属性というものが一人一つある。まあ二つ以上持っている人間も少ないながら存在はしているがな。話を戻すとしよう君たちにわかるように説明するならば得意な魔法といったところかな。知っていると思うが魔法の基本属性は『火、水、雷、水、氷、風』の六種類である。大抵の凡人がこの中から固有属性が選ばれている。しかし、魔法を使える人間の一割にも満たない選ばれし者は特殊な属性を持っている。例を上げるならば私の『吸収』のようにな。わかったかな?凡人にもなれない魔力量が最低ランクの落ちこぼれのルーア君?」
「よくわかりました先生」
苦笑いで返答する。それを見てネドルは満足そうな顔をした後もう一度ルーアに質問した。
「嘘をつくんじゃない。本当にわかっているのならここに君はいないはずだ。確かに凡人の中には天才もいるし努力をして一流の魔法使いになる人間もいるそれは認めよう。しかしだ、魔力が無きに等しい落ちこぼれの君がこの魔法院で勉強しているのはおかしいではないか。いくら努力しようとその魔力量では一流になる可能性の欠片もない落ちこぼれが。そうは思わないかね?」
話長いし、別に一流を目指さなくてもいいじゃないか。孤児院に仕送りできるレベルの魔法使いになれさえすれば。それに魔力が少ないからといって必ず戦いに負けるわけじゃない。
ネドルに対して反論をしてやろうといろいろ考えていたところで誰かが机を叩く音が教室中に響いた。
「そんな言い方ないじゃないか。人の生き方に口出しするとかさ、あんたにどんな権利があるって言うんだよ。それに魔力が少なくてもそれで人生が決まるわけじゃない」
ジークはそう吐き捨てた。ネドルの授業ではジークがきれる場合が多い。生徒を貶すネドルとジークは相性が悪いのだろう。まあそこまできれなくてもよかったんだけどね。代わりに怒ってくれて嬉しいことには代わりないが。
「ジーク君また授業の邪魔を。君とて『光』という固有属性を持っている選ばれし存在だというのに、君は反省文を百枚提出だ。連帯責任でルーア君も反省文百枚を明日の朝までに提出してもらう。私は気分を害した。今日の授業はここまでだ」
乱暴に教科書を片づけると怒ったような足取りでネドルは教室を出ていった。授業が終わってすぐにジークが俺の席までとぼとぼ歩いてくる。
「ごめんね。また僕のせいで反省文」
ジークは深々と頭を下げた。
「気にするなよ。お前が怒ってなかったら俺が切れてたって、ありがとな。また後で一緒に反省文書くか」
「そうだね、寮に帰ってからでも」
六時間目は五時間目と比べ早々と終わったように感じた。