魔法基礎学
春先のガディア魔法院の朝、もう少しで授業が始まるという時間帯。ルーアが属する1-Aの教室は六列に並んだ机と椅子が朝日を浴びていた。遅刻ぎりぎりの生徒たちが一年生の制服である黒のローブをなびかせながら教室に入って来る。
そのためルーアのクラスの生徒四十人がほぼ全員揃ったことで教室が騒がしくなった。王都の魔法院は設備がいいため優秀な生徒が多いことで有名だ。この教室にも将来有望な生徒がたくさんいるはずだが遅刻組が多い。喧騒の中でルーアは席が近い友人のキマに話しをしていた。
「てな感じで、昨日少女を助けたんだ。だから何かいいことが今日あると思う。いやそうでなくては困る」
「お前が人助けなんて珍しいなジークに影響されたのか?そして美少女の連絡先は?どうなんだ知っているのか知っているなら今日の朝食と一緒に吐け今すぐ吐いてしまえ」
背もたれを前にして座りこちらに質問してきた友人は俺と同じような平凡な容姿の少年で平民の特徴の茶髪を短く切った髪型に緑ののんきそうな細目という外見だ。緑の目は珍しいといえば珍しいので平凡ではないかもしれないが。
美少女のところに力を込めているのは気のせいではない。このキマとかいう男はリア充呪福委員会とかいう怪しげな会の会長をやっている。一回だけその委員会の会議を見たことがあるが混沌とした会議で構成員からキマが異常なくらい慕われているのが確認できた。
「美少女とはすぐに別れたから連絡先とか知らないし」
お手上げのポーズでキマの質問に返答した。まあ知っていてもこいつにだけは俺は教える気はないが。
「ちっ知らないのかよ。屑が」
「もう一度言ってみ。ぶっ殺すから」
仕方ないので殺す前にキマの頬に一発右ストレートを叩き込む。音を立てながら椅子ごと倒れたキマはよろよろと立ちあがると椅子を戻し何事も無かったように座り直した。
「でも私連絡先教えたよね?(キマの裏声)」
「きもい」
ここでも俺の右手が一発キマの頬に直撃する。美少女への執着かキマは今度は倒れず何事も無かったように話しを続行した。
「みたいな感じで抱きつかれたりしなかったのか?まあされてたら鼻から牛乳一リットルの刑だけどな」
「いや少女を逃がした後、チンピラに負けてフルボッコにされそうになったところだったけど隙をついて近くの川に飛び込んで脱出した。それどんな刑だよっ」
「ええっかっこ悪、そこ普通チンピラを倒すところだろ。」
「だって俺魔力少ないしさすがに三人相手は無理だ」
俺の魔力は自慢じゃないが魔法院の中で一番少なかった。不本意だが院内でも落ちこぼれの認識を受けている。魔力は生まれつきで決定されるため仕方ないといえば仕方ない。
「じゃあ負ける気満々だったから少女を逃がしたと」
「正解ですよー。それにしても今日ジーク遅いな」
「どうせまた人助けだろ」
「普通の遅刻は絶対にしないからな~、あの正義の味方は」
話しの途中で友人のジークが来ているか確認するため教室のドアのところを確認すると丁度、フォル先生が入って来るところだった。フォル先生はきれいに肩まで伸ばした紅い髪な大人の魅力溢れる美人な先生と言われて男子から人気がある。
余談だが叱られたいがため宿題を忘れたりする生徒も少数ながら存在するためよく叱るのが逆効果になっていた。目の前にいるキマがいい例だったりする。
先生が来たことで教室内が鎮まり、すぐに授業は始まった。
「下級魔法は使用者が狙ったものしか効果を及びませんが中級魔法になると………」
授業が終わりに差し掛かるころ、俺の目の前で爆睡しているキマが案の定先生に指された。
「ではキマ君、今説明した魔力が足りない時の魔法の使用と魔法のコントロールができてない時の魔法の使用した場合どうなるか答えてください」
「はいっ、………寝てたのでわかりまてん。もう一度質問内容を聞かせてください」
立たなくていいのにピシッときれいな姿勢でそう答えた。
「キマ君は放課後、私のところに来なさい。じゃあルーア君代わりに答えて」
キマは先生から見えないようにこちらに向けて親指を立てながら着席した。やっぱあいつこれを狙っていたな。代わりに指されたので内心舌打ちをしながら質問に答えた。
「魔力が足りない時に使うと魔力を消費して魔力が空になり、何も起こりませんが高位な魔法の場合は魔法陣が浮かび上がります。魔法のコントロールができてない時は自分が使おうとした魔力が使用者の至近距離で暴発し、その魔力の大きさに比例して吹き飛ばされます」
説明し終わるのと同時にチャイムが鳴った。一つの授業は五十分で構成されて一日に六時間の日程だ。休み時間は授業の間に十分しかないため移動教室があるときは急がなければならないため生徒たちは忙しい。
「完璧ですね。では授業を終わります解散」
そう言い終わるとフォル先生は出ていった。先生が出て行ったことで教室が騒がしくなった。
「よっしゃ~~~放課後が楽しみだ」
ガッツポーズで叫びだした。周りの生徒は俺を含めドン引きしているが彼は気にしない。見習いたくはないがある意味才能だと思う。
「やっぱりそれ狙いかよ。次の授業魔法実技学だろさっさと移動するよ」
「了解だ~~~」
ハイテンションがうざいキマを連れて次の授業の場所である魔法競技場に向かった。