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婚約破棄された獣使い令嬢ですが、その子“聖獣”ですよ? 毒舌な使い魔と辺境で幸せになります!?~「気味の悪い獣」と笑った元婚約者様へ、聖獣の正体を知って今更ことの大きさに気づいてもすでに遅い!~

作者: しろ
掲載日:2026/10/04

 # 獣使いの令嬢ですが、使い魔が毒舌すぎて婚約破棄が台無しになりました


「セレスティア・ノルグレン公爵令嬢!」


 大講堂に響く声の主は、婚約者――ヴィクター王太子だった。壇上でびしっと指を突きつけてくる姿は、いつも通り自信満々である。


「お前のその、獣を侍らせる悪趣味、いい加減目に余る! 令嬢たるもの、刺繍やダンスに励むべきところを、毛玉と戯れて時間を無駄にしおって!」


 腕の中で丸くなっていた白いモフモフが、ぴくりと片耳を動かした。


「殿下。この子は毛玉ではございませんわ。れっきとした――」


「言い訳は結構! そのような気味の悪い獣を侍らせる令嬢など、王太子妃には相応しくない! 本日をもって、貴様との婚約を破棄する!」


 拍手が起きる。取り巻きの令嬢たちが、ここぞとばかりに嘲笑を浮かべていた。


「――器の小さい男だな」


 低く、しかしはっきりとした声が響いた。会場が一瞬、しんと静まり返る。


「な……今の声は」


「俺だが」


 腕の中のモフモフが、億劫そうに顔を上げてそう言った。


「い、今、喋ったのか!?」


「喋ったが何か問題でも? お前の頭の中身より、よほど筋の通った言葉を発してるつもりだが」


 会場が完全に凍りついた。ヴィクター王太子は、口をぱくぱくと開閉させるばかりで言葉が出てこない。


「あの、レオ」わたしは小声で使い魔をたしなめた。「あまり過激な発言は……」


「過激? 事実を述べただけだろ。獣使いだから相応しくない、だと? 逆に聞くが、こいつが今まで政務でどれだけまともな成果を上げてきたんだ? 俺の方がよっぽど生産的な仕事してるぞ」


「レ、レオ……」


「先週も、お前が寝込んでる間に、勝手に忍び込んできた密偵を三人ほど気絶させといてやったしな。感謝の言葉ひとつもらってないが」


「そ、それは伏せておく約束でしたのに……!」


 会場のざわめきが大きくなる。ヴィクター王太子は、ようやく言葉を絞り出した。


「な、なぜ獣が喋る……! これは魔法か、それとも呪いの類か!」


「呪いはお前の頭の中身にでもかかってるんじゃないか」レオが欠伸交じりに答える。「言っとくが、俺はただの獣じゃない。古の聖獣、最後の一体だ」


「せ、聖獣……!?」


 会場が、ざわめきを通り越して騒然となった。宮廷魔導士らしき人物が、慌てて古文書らしきものをめくり始める。


「せ、聖獣とは、伝説に語られる、あの……!」


「そう、そのあの、だ。文献読むよりまず俺に聞け、話が早い」


「な、なぜそんな存在が、令嬢の腕の中に……!」


「こいつが俺を見つけたのは五年前、瀕死の状態で森に倒れてた時だ。誰も近寄らなかったのに、こいつだけが手当てして餌をくれた。それ以来、ずっと一緒にいる。ただそれだけの話だ」


 わたしは思わず頬が熱くなった。あの時のことを、レオがそんな風に覚えていたとは知らなかった。


「い、いくら聖獣だろうと! 令嬢が獣と戯れることに変わりはない!」ヴィクター王太子が、なおも言い募る。


「あー、まだ言うか」レオがゆっくりと立ち上がった。掌サイズだった体が、じわりと大きくなっていく。「お前、俺を"気味の悪い獣"って言ったよな。もう一回言ってみろ」


「な……!」


 会場全体が息を呑んだ。レオの姿は、いつの間にか大型犬ほどの大きさに変わっていた。純白の毛並みに、金色に光る瞳。誰の目にも、それが只者ではないと分かる神々しさだった。


「い、言い過ぎた、その、撤回する……!」


「遅い」


 レオがふん、と鼻を鳴らすと、ヴィクター王太子の頭上に小さな雷雲が現れた。


「な、なんだこれは!?」


「軽いお仕置きだ。安心しろ、痛いだけで死にはしない」


 パチッと小さな雷が落ち、ヴィクター王太子が「ぎゃっ!」と情けない声を上げて跳ねた。会場に、こらえきれない笑いが広がる。


「殿下!」取り巻きのマーガレット嬢が慌てて駆け寄る。「そのような獣、今すぐ処分すべきですわ! 王太子殿下に危害を加えるなど――」


「お前も一言多いんだよ」


 レオがちらりと視線を向けた瞬間、マーガレット嬢の髪が突然逆立ち、ぼわっと爆発したように広がった。


「きゃあああ! な、なにこれ!?」


「静電気だ。気にするな」


「気にしますわよ!」


 会場の笑いが、さらに大きくなった。もはや断罪の場というより、コメディの舞台である。


 その時、講堂の扉が静かに開いた。


「――随分と賑やかだな」


 現れたのは、辺境からやってきた狩人――ガレンだった。日焼けした精悍な顔立ちに、腰には使い慣れた弓。魔獣との共存を生業とする男である。


「ガレン……!」


「セレスティア嬢、その聖獣、随分と機嫌が悪そうだが」


「気づいてくれるのは早いな、お前」レオが少し嬉しそうに尻尾を振った。


「お前の気配、遠くからでも分かる。にしても、こんな連中に絡まれてたのか」


 ガレンは会場を一瞥し、呆れたようにため息をついた。


「聖獣を"気味が悪い"と評する神経が理解できんな。俺なら、その場で謝罪して土下座するところだが」


「わ、私は王太子だぞ! 土下座など――」


「聖獣の機嫌一つで国が傾くことも知らずに、よく王太子など名乗れるものだ」


 ガレンの冷静な一言に、ヴィクター王太子は完全に言葉を失った。


「セレスティア嬢」ガレンがこちらへ向き直った。「婚約破棄されたそうだが、後悔はあるか」


「まったくございませんわ。むしろ、清々しておりますの」


「そうか。なら、これからは俺と一緒に来るといい。辺境なら、レオも窮屈な思いをせずに済む」


「あら、それは素敵な提案ですこと」


「お、いいな」レオが元の小さな姿に戻りながら、こちらの肩に飛び乗った。「あそこの空気の悪さ、そろそろ限界だったんだ」


「殿下」わたしは最後に一礼した。「婚約破棄、謹んでお受けいたしますわ。ただ、今後聖獣を見かけましても、決して"気味が悪い"などとは仰らぬよう」


「わ、分かった……!」


 震える声での返事に、会場からまた小さな笑いが漏れた。


「行きましょうか、レオ、ガレン」


「ああ」


「おう」


 三者三様の返事を背に、わたしは講堂を後にした。振り返らずとも分かる、あの場に残された者たちの、なんとも情けない空気を。


 講堂を出てしばらく歩いたところで、背後から慌ただしい足音が追いかけてきた。


「セレスティア嬢!」


 振り返ると、先ほどまで壇上で偉そうに胸を張っていたヴィクター王太子が、息を切らしながらこちらへ駆けてくる。その顔には、さっきまでの余裕など欠片も残っていなかった。


「待ってくれ! 先ほどの婚約破棄だが、あれは……その、少し感情的になっていただけで――」


「まあ」


 思わず足を止めると、肩の上にいたレオが呆れたように鼻を鳴らした。


「おいおい。自分から婚約を破棄しておいて、もう撤回するのか? 王太子ってのは随分と軽い決断をするんだな」


「う、うるさい! そもそも私は聖獣だとは知らなかったのだ!」


「知らなかったから何だ? 相手を見下していい理由にはならないだろ」


 レオの言葉に、ヴィクターはぐっと口をつぐんだ。


 けれど、その直後。


「それに、もう遅いと思うぞ」


 ガレンが静かに口を挟んだ。


「先ほどの騒ぎは、すでに何人もの貴族が見ている。お前がセレスティア嬢を『王太子妃に相応しくない』と切り捨て、その直後に聖獣だと判明した。今さら撤回したところで、都合よく話が消えると思うか?」


「……っ」


 ヴィクターの顔が青ざめる。


 その様子を見ていると、胸の奥にあったわずかな未練まで、静かに消えていくのを感じた。


 婚約者として必要とされていなかったのなら、もう振り返る必要などない。


「殿下。どうかご安心くださいませ」


 私は穏やかに微笑んだ。


「私はもう、殿下の隣に立つつもりはございませんもの」


「セレスティア……」


「それより」


 ガレンが私の前に立つと、少しだけ目を細めた。


「これからは、俺が君を守る」


「え……?」


「辺境では、身分や評判よりも、その人が何をしてきたかを重視する。君が聖獣を救い、ずっと大切にしてきたことも、俺は知っている」


 そう言って、ガレンは私に手を差し出した。


「だから、もう誰かに君の価値を決めさせるな。君を必要としている場所は、ちゃんとある」


 その言葉が、胸の奥へまっすぐ届いた。


 肩の上でレオが、にやりと笑う。


「ほう。これはなかなか見込みがあるじゃないか」


「レオ?」


「何でもない。……ただ、ようやく見る目のある男が現れたと思ってな」


 私は頬が熱くなるのを感じながら、差し出された手をそっと取った。


 その瞬間、ガレンの表情がほんの少しだけ柔らかくなる。


「……よく似合ってる」


「何がでしょう?」


「その顔だ。さっきまでより、ずっといい」


 胸が、不意に大きく跳ねた。


 振り返れば、遠ざかっていくヴィクターの姿が見える。けれど、もう不思議と何の感情も湧かなかった。


 捨てられたのではない。


 私はただ、私を大切にしてくれる場所へ進むことを選んだのだ。


「さあ、行こう。セレスティア」


「はい、ガレン様」


「おい、俺を置いていくなよ」


 レオの声に、三人の笑い声が重なった。


 ――こうして、獣使いの令嬢は、毒舌の聖獣と頼れる狩人と共に、新しい人生を歩み始めたのだった。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


 もし少しでもスカッとしたり、ニヤッとしたりしていただけましたら、評価ポイントとブックマークをいただけると、次の話を書く一番の励みになります!


 感想コメントもお待ちしております!

 

 まだまだ書きたいことがございますので、よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!


 それでは、また次のお話でお会いしましょう!

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